利活用相談窓口

木質バイオマスの証明のためのガイドライン

グリーン投資減税
木質バイオマス利用設備

木質バイオマス加工・利用システム開発事業

講演会・勉強会

木質バイオマス発電:苦難の歴史に学ぶ(6・完)〜ファーストエスコ社の岩国ウッドパワーのケース〜 

ファーストエスコ社の岩国ウッドパワーは、RPS法の施行を契機に立ち上げられたバイオマス専焼の本格的な発電所である。主たる燃料は廃棄物系のリサイクルチップで、電気出力は10MW。2006年1月に操業を開始したが、その後の数年間は燃料価格の高騰と燃料不足に苦しめられた。燃料が安定的に確保できなければ、バイオマスによる発電事業は成り立たない。今回のFIT制度で認定された施設を見ると、出力5MW以上の大型プラントが相当数含まれ、しかもその多くは森林から下りてくる未利用材チップを使うことになっている。このような森林チップの場合は、継続的にまとまった量を確保することがリサイクルチップ以上に難しい。岩国ウッドパワーの苦い経験を参考にして、今後の対応策をよく検討する必要がある。

世界の潮流が変化するなかで

今から15年も前の話になるが、筆者は『木質バイオマス発電への期待』(全国林業改良普及協会)と題する小さな本を出版した。1990年代の世界の状況からすれば、このタイトルにそれほどの違和感はなかったであろう。ところが今世紀に入ると、高揚していた期待に水を差すようなニュースが次々と飛び込んできた。

前々回で見たように、世界最大のバイオマス発電プラントと言われたマックネイルの発電所は、25%という低い発電効率のために経営難に陥っていた。そこで35〜40%の効率を目指してガス化発電装置への切り替えを図るのだが、結局うまくいかなかった。

また、スウェーデンのベルナモでは最新鋭のバイオマスガス化コンバインドサイクル(BIGCC)の発電プラント(6MW)がつくられて、8,000時間以上の運転を続けたのち、中止となった。60〜70MWの規模でないと、ビジネスとして成り立たないと言うのである。 

さらにイギリスのヨークシャーでは、欧州委員会のエネルギープログラムの一つとして野心的なガス化発電プラント(10MW)が稼働し始めていた。これは1,300haに及ぶエネルギー植林と一体化したもので、必要な燃料はヤナギの萌芽林で賄われる。世界の注目と期待を集めたこのプロジェクトも、計画通りにはいかず中断を余儀なくされた。

こうしたニュースが重なって、バイオマス専焼の独立型発電に疑問符がつくようになる。ヨークシャーのプロジェクトで懲りたのか、イギリスはバイオマス発電をFITの対象から外してしまう。代わりに効率のいい石炭火力でのバイオマス混焼が注目されるようになった。またドイツやオーストリアでは分散型の熱電併給に傾斜していく。

影響の大きかった廃掃法の野焼き禁止

ファーストエスコ社が本格的なバイオマス発電所を国内で三つ立ち上げると聞いたのは、上記のような潮流の変化を感じ始めていたころである。「今どき何故」という疑問が真っ先に浮かんだ。前回見たように、RPSの施行が一つの契機になったのは事実である。しかしそれと同時に当時安価な燃料が出回っていたことも無視できない。

廃掃法の改正で木質系廃棄物の屋外焼却(野焼き)ができなくなるのは2001年4月からである。無差別な焼・棄却に代わって「分別」や「リサイクル」が義務づけられた。野焼きのできなくなった低質の木質系バイオマスは、廃棄物処理場に大量に流れ込む。木質系のリサイクルと言えばチップ化が主流だが、このチップの半分くらいは紙・板紙、ボード類の製造に向けられるものの、質の低い残りの半分は燃料用だ。ところが環境規制の強化で、旧来の木屑ボイラが使えなくなっているから、燃料用チップの出口がない。チップの供給が増える一方で需要がなくなるわけだから、低質チップ価格が急落するのは当然のことだ。以前にトン4,000円くらいで紙パルプ工場に引き取られていた燃料用チップがタダ同然になったという話を聞いたことがある。ファーストエスコ社もこの状況を横目で見ながら発電事業を起こしたに違いない。

しかし廃掃法が禁じたのは野焼きであって、800℃以上の炉内温度で連続して燃やせる、ちゃんとしたボイラなら何の問題もない。古いタイプのボイラ、ないしは焼却炉に替えて、高性能ボイラの導入が進むのは、ごく自然な成り行きだろう。ボイラ用チップの需要が増えたために、ふたたびチップ価格の急上昇が始まった。いったんはチップ価格の引き下げを誘発した野焼きの禁止が一転して価格の上昇に加担するのである。ファーストエスコ社の発電事業は燃料価格のこうした不安定な動きに振り回されることになる。

燃料用チップ価格の動向

われわれの協議会では、ファーストエスコ社の発電事業で事業開発を担当していた澤田直美氏を勉強会に招き、「バイオマス発電事業の10年〜先駆事業が直面した課題とリスク〜」というテーマで話をしてもらった。氏によると、岩国ウッドパワーが経営的に一番苦しかったのは2007〜09年の時期であったという。

その第一の原因は燃料費の高騰である。図1には同社が燃料(主として建設廃材や開発支障木のチップ)の購入で支払った平均単価の推移が示されている。事業開始時にトン当たり1,000円前後であったものが、3,000〜4,000円のレベルにまで引き上げられた。燃料コストがこれほど急激に上昇したのでは、収支の悪化は避けようもない。

この図で2006〜07年の燃料単価は比較的低いレベルで安定している。実のところ、当時は「逆有償」で処理料を取ることもできたそうだが、同社はしっかりした燃料を確保すべく一定の価格を設定し、「有償」で買取っていた。それが2007年末からの急上昇に転ずる。この背後には疑いもなく2004年あたりから始まる原油価格の高騰があるだろう。重油ボイラから木屑ボイラへの転換が急速に進んだからである。野焼き禁止がこの動きに拍車をかけていた。

不安定な燃料供給

澤田氏によると、岩国ウッドパワーを1年間フル稼働させるには11〜12万トンの木質燃料が必要だが、計画通り確保することができず、設備稼働率の大幅な低下を招いたという。当時のファーストエスコ社の決算報告書によると、各事業年度の発電量から求めた稼働率は、07年の6月期は82%であったが、08年の同期は65%になり、09の同期には50%にまで落ちてしまった。発電事業としては致命的な低さである。

燃料を巡って激しい奪い合いが生じたのはなぜなのか。澤田氏は次の点に注目する。

  1. 安価なバイオマス燃料として建築廃材に注目が集まったが、廃棄物由来のため「計画生産」ができない。傾向は分かるが予測は困難。
  2. 競合する発電事業者は同一地域にありながら計画時点で横の連携がない。新たな商材であるバイオマス燃料には既存のルートが存在しないため、各社が独自の調達網を構築したけれど、業界慣行の違いなどで十分な囲い込みができなかった。

岩国ウッドパワーの当時の燃料の収集体制は、図2に示されているように、樹木リサイクル協会傘下の企業が幹事となり、複数の廃棄物中間処理事業者から燃料用チップを調達し、それを取りまとめて発電所に供給するようになっていた。ただ幹事が下位の業者と取り交わす燃料の供給(ないし引取り)契約は、あまり厳格なものではなく、口約束程度のものであったらしい。中には少しでも高い価格で売れるなら、そちらにチップを流してしまう業者もあった。また発電所の側にも一定量を確実に受け入れる自信がなかったのかもしれない。十分に「囲い込み」できない理由が双方にあったのである。

さらに建設不況やリーマンショックの影響で燃料チップの流通量自体が減っていたことも、奪い合いを激しくした。

今回のFIT制度で認定された大型のバイオマス発電所が順次稼働を始めるとすれば、未利用材チップの必要量は年々増えていく。この需要を満たすためには、長年放置されてきた人工林や天然生林にしっかりと道を入れ、構造用材やパルプ用材などマテリアル利用に向けられる木材と、エネルギー利用に向けられる低質の木材が同時に増えていくような体制をつくらなければならない。リサイクルチップの調達とは比べ物にならないほどの難題である。筆者の見るところでは、そうした長期の展望がないままに、燃料供給者との「口約束」をベースにして大型の発電事業が計画されているように思えてならない。危険極まりない話である。

<付記>岩国ウッドパワーは、2010年にミツウロコ社に全株式が譲渡され、現在は同社の岩国発電所として運転が続けられている。白河と日田の発電所は現在もファーストエスコの所有になっているが、経営収支は改善されているという。東日本大震災の後、廃棄物系燃料の出回り状況が変わったこと、さらにFITへの乗り換えが進んでいることが、この背景にあるようだ。

動画:木質バイオマスエネルギー ~日本の森林を活かして 地球温暖化を救え!~