木質バイオマス発電:苦難の歴史に学ぶ(4)〜オーストリアのバイオマスFIT:現状と展望〜

 オーストリアは木質エネルギービジネスで世界の最先端を走る国の一つだが、その中核をなすのは熱供給であって、発電事業は影が薄い。2002年に導入された再生可能電気の固定価格買取制度(FIT)もバイオマス発電を大きく促進することにはならなかった。前回見たようにウィーン市の森林バイオマス発電所などは大変な苦境に追い込まれている。この分野でFITが果たす役割は、今後さらに限定的になる可能性が高い。

日墺で対照的な木質燃料へのスタンス

 ヨーロッパアルプスを抱えるオーストリアは、日本と同様に山岳地が多く、国土の半分近くは森林である。森林面積自体は400万ha(日本の約1/6)程度で、木材資源にとくに恵まれているわけではない。注目すべきは、限られた資源をフルに活用して、この国の総一次エネルギー供給の14%を木質バイオマスで賄っていることだ。
 オーストリアでは、1970年代80年代にエネルギー政策を巡って国を二分するほどの意見の対立があった。一つは原子力発電所の建設を巡るもので、結局、最初の原発は建設された直後に国民投票で閉鎖が決まり、核エネルギーの利用を永久に禁止する条項が憲法に盛り込まれた。また、生物多様性の豊かな森林地帯に大規模な水力発電所をつくることの是非についても論議が沸騰する。こうした状況の中で再生可能なエネルギー源として木質バイオマスが見直されることになった。
 この当時の日本を振返ってみよう。昔ながらの木質燃料は、海外から入ってくる安価な化石燃料と国内の原発から送られてくる電気に押されて、衰退の一途をたどっていた。灯油や液化天然ガスが山奥の集落にまで深く浸透し、薪や木炭は徹底的に駆逐されていく。
 他方、オーストリアは木質燃料を見捨てなかった。その「近代的利用」を工夫して化石燃料に対抗する道を選ぶことになる。この国では80年代の初頭に厳格な大気汚染防止法が制定され、これを契機にバイオス燃焼技術の開発が大きく進展した。市販されるすべてのボイラは、効率とエミッションを規定した型式認証を取らないと市場に出せない。この型式認証で、機器の性能と同時にボイラのメーカー名も明記されることになり、メーカー間の競争が激化する。その結果、ボイラの性能がどんどん上昇し、効率性、利便性、経済性のいずれにおいても化石燃料焚きの機器に引けを取らないレベルに達した。

木質バイオマスの年利用量は2,000万m3!

 オーストリアでは、エネルギー利用に供される木質バイオマスの量がこの十数年来、着実に伸びている(図1)。近年では2,000万m3の大台の乗っていることが知られよう。FAOの国別林産物統計によると、森林から伐り出される燃料用の丸太は500万m3足らずである。これが4倍にも膨らむのは、森林伐採の後に残される林地残材、木材加工場から出る樹皮やおが屑、端材などの工場残材、建築廃材などのリサイクル木材、さらに公園緑地や街路樹の剪定で出てくる修景残材が含まれるからである。
 ドイツでも同じような統計が公表されているが、ドイツの場合は7,000万m3だ。両者とも日本では想像もつかないほどの大きな量である。ただここで注意してほしいのは、構造用木材などのマテリアル利用と一体となってエネルギー利用が増えていることだ。国内の製材工場には外国産も含めて丸太がどんどん入ってきているし、その製品も相当量が海外に出ている。こうした活発な生産活動に支えられて、大量の木質バイオマスが発生しているのである。

熱電併給用は約2割

 ヨーロッパでは南にいくほど、伝統的な薪の利用が根強く残っているように思う。フランスやイタリアはその典型である。図1に見られるように、オーストリアでも薪は現在なおかなりのシェアを占めている。近年、性能の良い薪ストーブやまったく新しいタイプの薪ボイラが入ってきて、薪の人気が高まっているのは事実だが、古いタイプのストーブも残っていて、その更新が課題になっている。都市部を中心に木質ペレットによる暖房も広がってきた。
 薪とペレットが使われるのは主として家庭部門での熱供給で、木質バイオマスの約40%が向けられている。図にある熱供給施設向けも、これと同じくらいのシェアを持っているが、その中身は地域熱供給プラントのほか、熱だけを生産する産業用のボイラも含まれる。 
 電気はほとんど熱電併給施設で生産されていて、バイオマスの発電への仕向け量は全体の約20%。2007年以降はほとんど増えておらず、停滞的に推移している。このことは買取られたグリーン電力の発電量からも確認できる(図2)。FITの発足で固形バイオマスの発電量が増えたのは2007年までであった。2011年あたりから伸びてきたのが風力発電であり、太陽光発電である。E-Controlの『グリーン電力レポート、2012』によると、この両者は今後とも順調に伸び、固形バイオマスはむしろ縮小すると予測している。

バイオマス発電が伸びない二つの理由

 グリーン電力の今後の動向を決める重要な要因の一つは発電コストだ。FITによる平均買取価格が図3に示されている。まず電気の市場価格を見ると、2003〜13年のあいだ5セント/kWh前後で推移してきた。小水力の平均買取価格はほぼこのレベルであり、風力発電はこれよりも2、3セント高い8セント弱のレベルで安定的に推移している。そして当初60セント台にあった太陽光発電も近年急速に落ちてきている。
 ところが有価の燃料を使うバイオマス発電では、バイオガスも固形バイオマスも平均買取価格はおおむね上昇傾向をたどっており、市場価格とのかい離が拡大する傾向にある。ただし法律で定められた出力規模別の買取価格が引き上げられているわけではない。前回の図1から明らかなように、むしろ引き下げられている。平均買取価格が上昇するのは、報償額の低い大規模クラスでの発電が減って、比較的有利な小規模クラスの発電が増えているからである。
 それはともかく、固形バイオマスによる発電でとくに問題になるのは、発電コストが燃料の調達コストに強く左右されることと、その燃料価格自体も不安定に揺れ動き、長期的には上昇する可能性が高いことである。この点に限って言えば、10年ないし20年間買取価格が固定されるFITの制度とは相性が悪い。

 もう一つの問題は、資源的な制約である。オーストリアの林業を紹介する政府の文書などでよく見かけるのは、「国内の森林の年成長量は3,000万m3で、利用量は2,600万m3。したがってまだ400万m3の余裕がある」という記述である。たしかに森林は毎年成長しているが、不利な地形や路網の欠如などで木材を伐り出せない場所も少なからずあるはずだ。われわれ日本人の常識からすると、利用量と成長量の比(利用率)は60%か70%が穏当なところで、87%(26/30)というのは、いささか危険なレベルのようにも思える。
 向こうでも森林の資源的な限界は十分に意識されていて、放棄された放牧地や農地に成長の速いエネルギー樹種(ヤナギやポプラなど)を植林する試みが始まっている。植えてから数年で収穫できるから、当分はエネルギー植林でつないでいけるかもしれない。しかしたとえそれが可能であったとしても、発電だけを単独で増やせるような状況ではない。電気のほうは水力に加えて、風力と太陽光が担うことになるだろう。木質バイオマスに期待されているのは、何と言っても良質な熱の供給である。発電のほうはそれと両立する範囲内での熱電併給にとどまることになると思う。

動画:木質バイオマスエネルギー ~日本の森林を活かして 地球温暖化を救え!~