木質バイオマス発電:苦難の歴史に学ぶ(3)〜ウィーン市、シマリングの森林バイオマス発電所〜    

 オーストリアはウィーン市のシマリングで、大型の「森林バイオマス発電所(Wald-Biomassekraftwerk)が本格的な運転を始めたのは2006年10月のことである。その熱出力は66MW。バイオマスプラントとしては欧州屈指の規模とされる。とくにユニークなのは国有林から出てくる間伐材などを主な燃料として運転されていることだ。
 ところが肝心のプラント経営のほうは、近年赤字続きで四苦八苦の状態にある。前回紹介したアメリカ、バーリントンの大型プラントの場合は、発電効率が低いことと廃熱利用のないことが苦難の原因とされていた。しかるにシマリングには最新鋭の装置が入っていて発電効率はかなり高い。さらに熱のほうはウィーン市の地域熱供給公社に売ることができる。この発電所が持てる能力をフルに発揮すれば、ウィーン市の48,000世帯に電気を送り、12,000世帯に暖房給湯用の熱を供給できるはずだ。このような環境にありながらなぜうまくいかないのか。

オーストリアのバイオマスFIT

 この国で再生可能な電力の固定価格買取(FIT)がスタートするのは2002年夏のことだが、これを一つの契機としてシマリング発電所の構想が出てくる。本論に入る前に、オーストリアの固形バイオマスFITがどのようなものか、簡単に見ておくことにしたい(図1参照)。

 まず報償額については出力規模による差別化がなされていて、2003〜09年までは2MW、5MW、10MWで区切りを入れ、小規模ほど優遇されていた。その範囲は10〜16セント/kWh(日本円で14〜21円)。ただしこれは生チップに対するもので、製材工場から出る樹皮、おが屑、端材等は25%減、建築廃材は40%減である。
 このFITで電気を売ったプラントは2010年末の時点で195を数えるが、図のグラフは出力の大きいものから順に並べたものである。多くのプラントが、少しでも有利な報償額を得ようと、各出力階層の上限ぎりぎりに張りついていることが分かる。5MW以上は10基強、2MW以上でも50基ほどしかなく、小規模なものが圧倒的に多い。その状況を見て2010年からは2MW以下のクラスが細かく仕切られることになった(この改正で報償額が全般的に引き下げられていることの注意されたい)。
 小規模プラントが卓越する中で、図の左端にある24MWのプラントはやや飛び抜けた存在である。これがシマリングの発電所だ。

熱需要とのミスマッチ

 ウィーン市では2001年の地方選挙のあと、社会民主党と緑の党は、地球温暖化防止策の一つとしてバイオマス発電プラントの建造に合意した。翌02年にはFITを定めた法律が発効。それを受けて、ウィーン市の電力公社と地域熱供給公社、それに連邦森林局の三者がそれぞれ1/3ずつ出資してコンソーシアムをつくり、熱電併給(CHP)の発電事業を行うことになった。
 プラントの設置場所として選ばれたのはウィーン市南東部のシマリング地区。ここでは以前から石炭焚きの火力発電所が2基稼働していて、そのインフラの一部を使うことができた。例えば地域熱供給のための配管設備、高圧線への電気の接続、冷却水の供給施設などである。建設工事は2005年から始まった。当初、建設費は5,200万ユーロと推定されていたが、鉄鋼価格の上昇などで20%の上乗せが必要であったという。
 ボイラはフォスタウィーラ社製の循環流動層で、蒸気の温度と圧力は520℃/120
bar。熱電併給のプラントであるから、電気と熱の比率が季節によって弾力的に変えられる構造になっている。冬季は37.0MWの熱が地域熱供給に振り向けられ、電気のほうは15.1MWである(発電効率23%、総合効率80%)。他方、夏季は電気専門で23.5MWの出力となる。発電効率は36%というから相当なものだ。まさにトップレベルにあると言っていい。
 ところが年間を通してみると、CHPで稼働するのは8,000時間のうちの2,500時間、つまり31%しかない。このために、年間を均した効率は50%以下に低下してしまう。またウィーン市の地域熱供給に対しても、たった2%くらいしか寄与していない。熱需要のある地区を選んでCHPプラントを設置すれば、この3倍くらいの寄与率になったのではないかと言われている。
 このようなわけで、CHPプラントと熱需要のミスマッチによる総合効率の低下が、事業の収益性を悪化させる一因となったようだ。もう一つの原因は燃料の調達にかかわるものである。

燃料調達での誤算

 熱出力66MWのCHPプラントを8,000時間運転するには、年間で19万トンほどの木質チップ(水分40%)が必要となる。実材積で24.5m3、チップに換算すると60万m3である。燃料の一部は民有林からも来るが、主体は国有林から出る間伐小径木などである。これらを丸太のままプラント近くの集積基地までトラックで運び、ここで集中的にチップ化を行っている。この方式は一般的に言ってコストが嵩みやすい。
 というのも燃料コストを引き下げる常道は、構造用の丸太と一緒にエネルギー用の低質丸太を出してきて、木材加工場でのカスケード利用を徹底させるか、あるいは玉石混交の低質間伐材などを集積基地に集め品質に応じた分別利用を図ることだが、そのいずれもできていないからだ。
 また当初は必要なチップの80%は100km圏内から集められるとしていた。その輸送距離が200km、300kmとだんだん伸びているらしい。距離が長くなれば、鉄道や船による輸送も想定されていたようだが、実際にはトラックだけに頼っている。こうしたことがコスト高を招く一因となったようだ。
 それにしてもなぜ国有林にこだわるのか。近くの民有林からも燃料を集めるようにすれば、燃料コストは低下するという意見もある。この点について若干補足しておこう。
 オーストリアの国有林というのは、ハプスブルク家(帝国)の所有林を引き継いだもので、1925年の法律で連邦有林となった。それが1996年に民営化されて、さまざまなビジネスに取り組めるようになり、有望な進出先としてバイオエネルギー関連の事業が候補に挙がっていた。この場合、付加価値の低い木質チップの供給だけではうまみがない。活動の範囲を電気や熱の生産・販売にまで広げることに強い関心を抱いていた。シマリングの発電プロジェクトに積極的に投資し、燃料供給の重責を受け持ったのも、そうした野心があったからである。

むすび

 シマリングの森林バイオマスCHPプロジェクトには、連邦エネルギー庁(AEA)も最初から積極的にかかわっていた。その意味では国の威信をかけた大事業であったとも言える。首都ウィーン市に大型のバイオマスプラントを建造することで、オーストリアの持つ優れた技術とマネジメントのスキルを世界に知らしめようとしたのである。
 だが、入念な事前調査と計画にもかかわらず、今では存亡の瀬戸際に立たされている。国の威信をかけた大事業であるだけに、簡単にはつぶせない。今後どのように立てなおしていくのか、注視していきたいと思っている。
 2002年にスタートしたFITもバイオマス発電に関しては限定的な役割しか果たし得なかった。将来的にはさらに縮小する可能性が指摘されている。次週はこの問題を取り上げよう。

動画:木質バイオマスエネルギー ~日本の森林を活かして 地球温暖化を救え!~