木質バイオマス発電:苦難の歴史に学ぶ(2)〜米国バーモント州のマックネイル発電所が直面した課題〜  

 バーモント州最大の都市バーリントンには、森林バイオマスを軸にした大型の発電所がある。筆者がこのプラントを訪れたのは2001年1月のことだが、当時はいくつもの難題を抱え、その前途は決して明るいものではなかった。以下にその当時の状況を報告しよう。

発電プラントが設置されるまでの経緯

 1970年代のバーリントン市は必要な電力を石炭火力で賄っていたが、施設の老朽化と電力需要の増加で、新しい発電プラントの建設を迫られていた。どのような燃料使うか。バーリントン市の電力局(BED)が燃料選択の基準としたのは、地域で得られること、信頼できること、汚染しないこと、市民に受け入れられることである。木材はこのすべてで高い得点を得た。木質燃料で発電することは、バーリントンの経済にお金を還流させることであり、州内の森林の状況を改善するとともに雇用増加につながる。
 こうした判断をもとに電気出力50MWのバイオマス・プラントの建設が決まった。当時としては世界一大きなバイオマス発電所である。その建設に要する費用は6,700万ドル。市民の賛同を得て費用の一部が公債の発行で賄われることになった。1981年から建設が始まり、84年6月から商用運転を開始、生産された電気はニューイングランド電力取引所を通して配送される。

人員配置

 発電所には40人が雇われている。24時間稼動で、維持要員、施設のオペレーター、燃料の取扱者、林業技術者、管理部門やエンジニアリング支援要員などだが、発電施設では常時4人のスタッフを必要とする。シフト看視者は中央のコントロールルームからオペレーションをチェックし、移動オペレーターはすべての場所の作動を監視する。補助オペレーターは主として灰の処理、土場の作業員は木質燃料の受け入れ、荷下ろし、貯蔵、再生利用を担当する。

木質燃料の調達

この発電所がフルに稼働すると、1時間当たり76トンの木質チップが必要となる。年間8000時間の稼働であれば、年間の消費量は60万トンにもなるのだが、90年代の後半の実績を見ると、実働時間が少ないために26万トン前後になっている(チップの水分50%)。木質燃料の70%は森林由来の「全木チップ」である。残りは地元の製材工場から購入するおが屑、チップ、バークのほか、都市の木質系の廃棄物も使われる。
 バーモント州の森林蓄積の約半分は比較的質が低く、高品質の構造材の生産は期待できないとされている。未利用まま残されている形状の悪い樹木が伐採されて、燃料用のチップになった。それに加えて、製材用・パルプ用丸太を収穫したあとに残る「林地残材」がある。木質燃料の樹種構成は広葉樹60%、針葉樹40%。
 対象となる森林のほとんどは私有林だが、野放図な伐採が許されているわけではない。皆伐は極力避けられていて、新植のための更新が必要な場所だけ限られる。一回の皆伐の最大面積は25エーカー。BEDの森林官が個々の収穫作業をモニターし、適正に実施されているかどうかをチェックする。チップの供給者は、環境保護のための厳格な基準にしたがわなければならない。

住民からの苦情

 マックネイルの発電プラントについては、立地を誤ったのではないかという批判がある。市街地に近接しすぎているというのだ。
 まず問題になったのは、堆積したチップの腐敗から生じる悪臭と火災である。84年8月に運転を始めたものの、稼働率の予測がつかなかった。というのも、各プラントでの発電の時期や量は、ニューイングランドの全発電所が参加するパワープール(電力融通機構)が発電のコストと需要を勘案して決めてくるからである。どのような要求が来ても対応できるように、85年の9月までに14万トンのチップが集められ、チップの大きな山がつくられた。その山の一つは3haの土地を占有し、その高さは30m近くになったという。やがてこれが燻り始め、自然発火にまで及んだ。慌てて山を崩しにかかるのだが、底にあるチップは1年も前のもので、発酵が進んでいた。刺激臭の強い悪臭がバーリントンの市街地に流れ込み、大へんな騒動になった。今でこそ木質チップは一定のルールにしたがって堆積されているが、当時は危険を予測することができなかったのである。
 もう一つの問題は、チップの大型トラック輸送に伴って発生する騒音・振動・交通渋滞である。結局、トラック輸送は木質燃料の1/4にとどめ、3/4は鉄道輸送にゆだねることになった。鉄道を使うと、積み替えが必要になり、チップのコストアップにつながってしまう。チップの典型的な価格帯はプラント渡しでトン当たり10〜23ドルだが、鉄道輸送だと17%くらい割高になるという。

新しく見えてきたネック:低い発電効率

 マックネイルの発電プラントの電気出力は50MWだが、燃焼炉には可動式火格子(traveling grate  stoker)が使われていて発電効率は25%ほどである。それでも80年代の前半までは生チップがトン当たり17ドル前後であれば、化石燃料に対抗できると考えられていた。石油や天然ガスの価格は将来とも上昇を続けるという予測にも支えられてこうした楽観的な見方が広がっていたのだが、実際には化石燃料価格はその後下落していく。
 加えて天然ガスを使ったガスタービン発電が登場するに及んで発電効率が著しく上昇した。そのために在来の蒸気タービンによるバイオマス発電は競争力を失ってしまう。トン当たり10ドルくらいのバイオマスを使わない限り、天然ガスと競争できなくなったとも言われる。
 マックネイル発電所は熾烈なコスト競争に巻き込まれることになった。他の電源に比べて発電コストが高いために、常時稼働することができず、パワープールから操業日を年の1/3にするよう要請されたこともあった。例えば電力需要の大きい冬場と夏場しか発電できないのである。
 そこで1989年には天然ガスを燃やす施設が付加された。木材チップは依然として主たるエネルギー源であるが、ガスを付加したことで弾力的な運用が可能になり、より経済的にもなった。ガスで完全稼動した場合のプラント効率は木材を燃焼する場合よりも15%改善されたとされている。1990〜94年には燃料の2/3が木材で、1/3が天然ガスであった。

挫折した連邦エネルギー省(DOE)との「ガス化プロジェクト」

 1994年の夏にDOE主導のガス化プロジェクトが、マックネイル発電所を舞台に実施されることになった。その中身はバイオマスをガス化してコンバインド・サイクルで発電する技術の導入で、狙っていたのは35%以上の発電効率である。プロジェクトの第一フエーズではBattelle Columbus Laboratoriesが開発した循環流動床のガス化装置(10MW)が入れられた。このガス化自体はうまく行ったようである。次の段階でホットガスを浄化するシステムとともに商用スケールのガスタービンが入ることになっていたのだが、そのスケールアップに失敗する。 
 テストプラントでは日量10トンのバイオマスをガス化してガスタービンを回し、200kWの電気を起こしていた。それがスケールアップの段階でガス化の浄化で躓いたと言われている。筆者が現地を訪れて時点では、ガス化炉でつくられたガスは、天然ガスのバーナで燃やされ、ボイラに投入されていた。つまり発電所のボイラは木質チップと天然ガスのほか、木質由来の合成ガスも受け入れていたのである。

市場競争の厳しさを痛感

 マックネイルのバイオマス発電所を生み出したのは1970年代の「エネルギー危機」である。当時は石油や天然ガス価格の高騰が続いていた。地域の森林資源を使って発電するという提案が市民の圧倒的な支持を得たのは、そうした背景があったからであろう。しかし発電事業を始めてみると、予期せぬ困難に次々と向き合うことになった。とくに痛手だったのは、化石燃料価格の下落と天然ガスを使った効率的な発電技術の登場で、バイオマス発電の市場競争力が大きく損なわれたことである。
 失地を挽回すべく、木材ガス化・ガスタービン発電への転換や、近くにあるバーモント大学への熱供給などが検討されたものの、実現するまでには至らなかった。最近また石油や天然ガスの価格が下落し、苦戦を強いられている。マックネイルのバイオマス・プラントは今でもバーリントン市の消費電力の1/3を賄っているようだが、その発電量は本来のキャパシティの1/3にとどまっているという。
 バイオマス発電には、温暖化防止、エネルギーの安全保障、地域振興といった数々の大義名分がある。そうした大義名分もビジネスの世界ではあまり助けにならない。最後の決め手はやはり市場での競争力だ。マックネイルの苦い経験がそのことを教えてくれる。

動画:木質バイオマスエネルギー ~日本の森林を活かして 地球温暖化を救え!~