各地に見られ始めた「バイオマス集配センター」(4・完)〜都市域における未利用バイオマスの集積基地〜

 近年、都市域の拡大とともに街路樹のある道路や公園緑地が増え、ここからも毎年相当量の木質バイオマスが生み出されている。わが国では都市開発で発生する立木竹や公園緑地の剪定枝等は産業廃棄物ないしは一般廃棄物として処理されることが多いが、欧州ではそのエネルギー利用が進んでいる。都市のバイオマスを集める集積基地も見られ始めた。

ドイツで進む修景残材のエネルギー利用

 森林以外で発生する木質バイオマスについては、wood outside forestsという用語があり、都市域に限定するとurban woodとなる。これに対してドイツではLand-schaftspflege- material(英語にすればlandscape care wood)という独特のカテゴリーがつくられている。筆者はこれに「修景残材」という日本語を充てた。字面の通り公園緑地などの景観管理において発生する草本系・木本系の残滓のことだ。高速道路の法面、河川・湖沼の畦畔、自然保護地域、公園、墓地などの公共空間にかかわるものが多い。もちろん私有地の庭園ないしは樹林地も含まれるであろう。さらに都市開発で発生する立木や根株も入っている可能性がある。
 Mantauらは、エネルギー利用に向けられる修景残材の量を推計しているが、近年のドイツではこれが相当な量に達している。しかも毎年の伸びが早い。図1にあるように過去10年ほどの間に100万立方メートルから500万立方メートルに増加した。その仕向け先を見ると、世紀の変わり目ころまでは家庭用が中心で比較的低いレベルにとどまっている。民家の庭や樹林地の管理で発生した残材で自家用の薪がつくられていたのかもしれない。その後、大型・小型のボイラで燃やされる量が急速に増えてくる。薪にならない枝葉等も燃料用チップとして広く使われるようになった。
 Mantauらの推計によると、エネルギー利用に向けられる木質バイオマスの総量は年に約7,000万立方メートルである。このうちの500万立方メートル、つまり全体の7%が修景残材で賄われた勘定になる。修景残材の毎年の発生量は利用量の何倍にも達すると言われており、有望な未利用バイオマス資源の一つに数えられている。

廃棄物扱いの日本の修景残材

 わが国の「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」によると、都市開発などに伴って伐倒される立木竹や抜根等は産業廃棄物であり、街路樹や公園緑地の景観管理で出てくる剪定枝葉は一般廃棄物とされている。
 産業廃棄物は20種類あり、その中に汚泥や廃油などと並んで「木屑」の一項がある。なぜここに木屑があるのか、いささか奇異な感じもするが、この木屑は建設業がらみのもので、「工作物の新築、改築または撤去によって生じたものに限る」とされている。開発工事で出てくる立木竹や抜根は、それ自体はエネルギー価値の高い木質バイオマスであっても、土石を始めさまざまな撤去工作物などが紛れ込んでいる可能性が高い。そのために産業廃棄物になってしまう。
 一般廃棄物というのは「産業廃棄物に該当しない廃棄物」のことで、家庭ごみがその代表的なものだが、この処理についての統括的責任は区市町村にある。剪定枝葉が一般廃棄物扱いになっているのは、厨芥と同様に処理を誤ると環境汚染や感染症を引き起こす懸念があるからであろう。
 とはいえこの場合も剪定枝葉自体はれっきとした木質バイオマスである。問題はやはり異物の混入があるからであろう。異物をきちんと分離して、できる限りピュアなバイオマスを取り出すことができれば、ボイラなどの燃料として十分に使える。近くに木質チップ焚きの熱供給施設があれば、有価で引き取ってくれるだろう。
 もちろん、異物の分離にはそれなりのコストがかかるけれど、異物を除去しないまま廃棄物として処理した場合のコストは莫大である。開発業者は産廃業者にトン当たり数万円も払って立木竹を処分するケースがあるし、区市町村は剪定枝の処理にトン当たり1〜2万円支払っていると思う。こうしたコストはいずれ国民負担として跳ね返ってくる。エネルギーとして利用すれば、廃棄物としての処理費は要らなくなるだろう。異物分離の費用など知れたものだ。日本で修景残材と言えば廃棄物であり、そのエネルギー価値など見向きもされない。まったく勿体ない話である。
 とはいえ、現状ではドイツと違って木質焚きのボイラが都市にはあまり入っておらず、修景残材を引き取ってくれるところが簡単には見つからない。こうした状況を背景にして都市型の「バイオマス集配センター」が見られるようになった。

広域マンチェスターの樹木基地

 イギリスのいくつかの都市にバイオマスセンターに相当する「tree station」があることを教えてくれたのは株式会社日比谷アメニスの大西竹志氏である。強いて日本語に訳せば「樹木基地」くらいになるであろうか。ネットで調べてみると、いくつかのタイプがあるが、筆者が興味深く思ったのは、広域マンチェスターの樹木基地である。
 これは2008年に設立された非営利の有限会社だが、その運営方針は創立者であり、現在のマネージング・ディレクターでもあるPhil Benの考え方に負うところが大きい。彼は樹木の取扱いに詳しい専門家であると同時に、トラックターやクレーン、フォーワーダ、チッパーなどの機械を動かす有能なオペレータでもあるのだが、彼が繰り返し強調するのは特有の倫理規範である。ウェッブのホームページ(www.treestaion.co.uk)にはこの会社のポリシーが、「生産物とサービスの品質」「行動規範」「環境対策」「地域への寄与」の四項目にわたって詳細に述べられている。
 そもそもなぜ樹木基地を設立したのか。「都市の景観管理などから出てくる残材や枝葉は廃棄物として処理されることが多い。というのも、再利用のためのインフラストラクチャが整っていないからであり、またあちこちに分散していて量的にまとまらないからである。他方、こうした都市のバイオマスを使って熱供給事業をやろうとすると、質の高い燃料の安定した供給が要求される。この要求に応えるためには、経済的に成り立つ規模での森林管理の作業とバイオマス生産を統合する活動が必要になってくる。広域マンチェスターの樹木基地はそのために設立された。」
 捨てられる廃棄物を有用な材料やエネルギーに変えるのは、確かにすばらしいことだが、いい加減に扱うととんでもないことになる。樹木基地の事業について、行政機関はじめ一般の人びとや出資者の理解を得るには、高い倫理規範のもとに運営されることを示さなければならない。それが上記のポリシー・ステートメントだと思う。
 この樹木基地は、2009年にイギリス政府の「バイオエナジー・インフラストラクチャ・スキーム」から13.7万ポンドの助成を受け、さらに2011年と12年に22万ポンドの資金をパートナーなどから集めて、資本装備の充実にあてている。活動の中軸は数名の専門スタッフだが、ボランティアの募集も熱心のようだ。
 この樹木基地が狙っているのは、樹林地の管理やコンサルタントにかかわる広範囲な諸活動の拠点になることであり、木材の伐採、除間伐、剪定や造園施工に始まって、バイオマスの集積、燃料チップ、薪、木工製品の生産、さらにはそうした製品の地域市場への出荷や顧客への販売まで手掛けている。
 筆者は広域マンチェスターの樹木基地を訪ねたことがなく、その事業活動の詳細について報告できないのは残念だが、設立者Phil Benの理念は立派だと思う。最後は彼自身の言葉で締めることにしよう。
 「木材は驚くべき材料であり、真に再生可能な資源である。木材をベースにしたローカルな経済は来るべき持続可能な社会への移行において決定的な役割を果たし得るし、また果たさなければならない。この場合に重要なのは木材の地産地消を貫くことだ。」

狙いは低質木質バイオマスの出口確保

 いずれにしても、地域バイオマスセンターは必要最小限度の設備しかもたないローカルな施設である(後出の写真参照)。その投資額は24〜60万ユーロ(3,200〜8,100万円)ほどで、州からの若干の補助もあるから、地元の森林所有者にとってそれほどの負担にはならない。彼らが狙っているのは、製材用木材の伐採に伴って発生する低質バイオマスの販路の確保である。
 冒頭に触れた「木質エネルギー契約」の場合は、複数の森林所有者がコンソーシアム(組合や有限会社)を組み、地域暖房のための設備投資を行って、その運営も担当していた。他方、バイオマスセンターを運営する森林所有者のグループは燃料の提供にとどまっている。それというのも、木質焚きのボイラやストーブをすでに導入している住宅や事業所が地域内に相当数あるからだ。
 しかしこうした既存の施設がなく、新たに需要を開拓するとなると、木質エネルギー契約にまで踏み込む必要があるかもしれない。また燃料の供給だけを受けていた顧客が、熱供給施設の維持管理や運転までセンターに委ねることもあるだろう。このような意味で、地域バイオマスセンターと木質エネルギー契約は紙一重の関係にあると思う。

日本との違い

 わが国の中山間地においても、上述のような仕組みができれば、木質バイオマスによるエネルギー自立が容易になるであろう。果たしてそれは可能であろうか。最低限二つの条件が満たされなければならない。エネルギービジネスで利益を得ようとする森林所有者の強い意欲と、彼らのエネルギー事業をしっかりと支えるサポート体制がそれである。残念ながらわが国の現状からすると、両方とも望み薄というしかない。
 日墺の違いを象徴する典型的なエピソードの一つを紹介しよう。中小の森林所有者の集まりであるシュタイアマルク州の森林連盟に、森林・林業政策の優先順位を問うと、一に林道、二に教育、三に補助金という答えが返ってくる。林道は林業経営にとって最も基本的なインフラであり、木材生産のコストを決定的に左右する要因でもある。連邦や州レベルの森林政策において路網整備が重点項目になるのは当然のことだ。
 二つ目に教育が上がってくるのは、木材生産の分野はもとより、木質エネルギーの分野でも新しい技術や新しいシステム思考が次々と現れており、この流れにうまく対応しないと市場競争力を失ってしまう。オーストリアでは新規就労者の教育訓練はもとより、古いタイプの作業員の再教育にも力を入れている。
 実のところ日本の森林・林業政策ではこの路網整備と教育が軽視されてきた。それが国内林業の市場競争力を決定的に低めているのである。木材価格の低迷や賃金の上昇などで間伐の実施が難しくなると、森林所有者(とその団体である森林組合)は、間伐補助金を要求し、政府もそれに応えてきた。一事が万事で、日本の林業は補助金漬けになっている。森林所有者も森林組合も補助金がなければ何もしない。
 ところがオーストリアはじめ欧州の国ぐにでは、保育期を過ぎた人工林の間伐に補助金を出すという発想がない。路網整備や教育を通して、間伐補助金などなくとも成り立つような競争力の強い林業経営の育成を目指している。日本の森林・林業政策もそのような方向に変えていかないと、木質エネルギービジネスにも明るい展望は開かれないと思う。

動画:木質バイオマスエネルギー ~日本の森林を活かして 地球温暖化を救え!~