各地に見られ始めた「バイオマス集配センター」(3)〜中小の森林所有者が主導するオーストリアのバイオマスセンター〜

 欧州においてバイオマス集配センターのモデルとされてきたのは、オーストリア・シュタイアマルク州のRegional Biomassehof(地域バイオマスセンター)である。これは地域の森林所有者のグループが運営するセンターで、謳い文句は「高品質の木質燃料を安定的に顧客に提供する」ことである。半径20〜30km程度の小地域で、木質バイオマスの地産地消を目指す興味深い事例だと思う。

ビジネスに長けた森林所有者たち

 オーストリアの森林面積は約400万ヘクタールで、うち約80%が私有林だが、その2/3は所有面積200ヘクタール以下の「中小私有林」である。小規模所有が卓越するのは日本と同じだが、日本と違うのは木材生産に熱心な林家が多いことだ。彼らの木材販売は間断的でロットが小さいから市場では不利な立場に置かれやすい。そこでかなり以前から、自衛策として共同出荷の体制を整え、大口の木材需要者と対峙する方式を採ってきた。
 筆者がとりわけ感心したのは、木質エネルギービジネスへの意欲的な取り組みである。小私有林の主産物は、80年から100年かけて育てたトウヒだが、幹材の太いところは製材用として売られ、細い部分はパルプ材になっていた。ところが90年代に入ると小規模生産のパルプ材はコスト高のために市場からの脱落を余儀なくされる。その一方で木材のエネルギー利用が有利になり、パルプに向けていた小径丸太で燃料用のチップがつくられるようになった。
 この場合にチップのまま販売したのでは儲けが少ない。何人かの森林所有者が有限会社か組合を設立し、彼らの所有林から出てくるチップを利用して小規模な地域熱供給事業を立ち上げる例が各地で見られるようになった。有名な「木質エネルギー契約(Holzenergie Contracting)」がそれである。この契約の要点は、

  1. 森林所有者のグループが木質燃料による暖房装置と配熱網に投資する
  2. このグループは暖房システムの運営、メインテナンス、さらに再投資に責任を持つ
  3. 顧客は接続料金(配管、熱交換機の費用)、基本料金、熱量に応じた従量料金を支払う
  4. 顧客への熱の販売は15年契約をベースとする

 詳しくは本シリーズの「木質バイオマスによる地域のエネルギー自給」(14年2月17日付)を見ていただきたい。その時には触れなかったことだが、オーストリアの各州では地域の人たちのこうした取り組みをしっかりとサポートする公的な仕組みがつくられている。

万全のサポート体制

シュタイアマルク州で重要な役割を担っているのは「農林業会議所(Landeska-mmer für Land- und Forstwirtschaft)」であり、この中に森林・林業に特化した専門組織「森林連盟(Waldverband)」がある。会議所を構成しているのは、実際に土地を所有して農業や林業を営む人たちであるから、彼らのビジネスをサポートするための多様な活動が展開されている。森林連盟について言えば、これまでは木材の共同販売が主要な業務であったが、90年代の半ばあたりから、木質エネルギーにかかわる事業を牽引している。
 ただ、小規模とはいえ地域熱供給のシステムを設計するとなると、この道の専門家の知恵を借りなければならない。農林業会議所の関連組織として「地域再生可能エネルギー事務所(Regionalenergie Steiermark)」がつくられており、これが森林連盟と共同して、地域熱供給事業に対するコンサルティングを行っている。さらに一般向けパンフレットの作成やセミナーの開催を通しての普及啓発活動も怠りない。普及用のパンフレットやセミナーのテキストを見て驚かされるのは、経験を通して集積された実践的な知識の豊かさである。
 それと同時に、総合的なコンサルティングのできる専門家が着実に増えていることも見逃せない。地元の農家や森林所有者が自己資金を投じて地域熱供給の事業を安心して始められるのも、信頼できるコンサルの手で作られた全体計画があるからであり、営業開始後も引き続き彼らの指導が受けられるからである。

バイオマスセンターの謳い文句は高品質木質燃料の安定供給

 シュタイアマルク州の森林連盟が「バイオマスセンター」の構想を打ち出すのは2000年代後半のことである。現在のところ州内に8か所の地域センターが設置されている。半径20〜30kmの圏内に1か所というのが目安になっているらしい。森林連盟はセンターの基本的な枠組みを決め、その業務を監督する立場にある。というのも、センターが提供する木質燃料の品質保証にかかわっているからだ。
 ただし森林連盟が直接センターの運営に当たるわけではなく、一定の要件を設けて希望者を募るのである。運営主体となるための第一の要件は10名以上の森林所有者が一つのグループをつくること。もう一つの要件は木質燃料の貯蔵能力にかかわるもので、実材積なら500立方メートル以上、一次エネルギーでいうなら100万kWh以上をストックできるキャパシティがあることだ。
 センターの主要な業務は、①域内で発生する小径丸太や林地残材を買い取る、②集まった雑多な木質バイオマスを類別し、乾燥、切断、チップ化等の手を加えて規格に合った燃料用チップや薪を製作する、そして最後に③そうした製品を顧客に引き渡すことである。
 オーストリアは比較的早くから木質燃料についても国の品質基準(ÖNORM)を定めていたが、数年前からヨーロッパの統一基準(CEN TC)が適用されるようになり、昨年からは国際基準(ISO)も導入された。一見すると煩雑なようだが、この三者は共通する部分が多く、それほどの混乱は生じていない。工場生産の木質ペレットと違って、薪やチップは形質が不均質で規格に基づく価格形成や取引はあまり一般的ではなかったが、それが近年顧客からの要望もあって、ようやく定着し始めている。新しく誕生したバイオマスセンターでは、すべての木質燃料が公式の品質基準にしたがってランク付けされ、規格に合格した木質燃料には森林連盟が発行する「Biomassehof Steiermark」のラベルが貼られる。
 地域センターがどのようなものか、若干の数字を挙げておこう。表1はEUのバイオマスセンターⅡのプロジェクトが動いていたころのもので、設立して間もないケースが多いように思う。その後地域センターが2,3付け加わり、取扱量を増やしたところもあるが、大まかな特性把握ならこれで十分だと思う。

まずグループを構成する森林所有者の数は、おおむね10〜30人の範囲に収まっていて、一つだけ400人というのがある。森林面積でいうと1,600〜3,000ヘクタールが3か所、13,000〜45,000haが3か所となっている。おそらく登録されたメンバーが自分の山から出てきた木質バイオマスをセンターに持ち込むケースが多いであろう。むろんそれ以外の森林から出る材であってもかまわないが、地域外からの購入は許されない。
 年間の取扱量は木質チップで3,750〜15,000立方メートル(バラ積)、薪で100〜1,420立方メートル(棚積み)というから、それほど大きな規模ではない。顧客は民間の個人住宅や集合住宅、公的な建造物、小規模な地域熱供給施設などだが、比較的距離が近いために、センターが顧客のところまで木質燃料を運び、その燃料庫に収めている。

狙いは低質木質バイオマスの出口確保

 いずれにしても、地域バイオマスセンターは必要最小限度の設備しかもたないローカルな施設である(後出の写真参照)。その投資額は24〜60万ユーロ(3,200〜8,100万円)ほどで、州からの若干の補助もあるから、地元の森林所有者にとってそれほどの負担にはならない。彼らが狙っているのは、製材用木材の伐採に伴って発生する低質バイオマスの販路の確保である。
 冒頭に触れた「木質エネルギー契約」の場合は、複数の森林所有者がコンソーシアム(組合や有限会社)を組み、地域暖房のための設備投資を行って、その運営も担当していた。他方、バイオマスセンターを運営する森林所有者のグループは燃料の提供にとどまっている。それというのも、木質焚きのボイラやストーブをすでに導入している住宅や事業所が地域内に相当数あるからだ。
 しかしこうした既存の施設がなく、新たに需要を開拓するとなると、木質エネルギー契約にまで踏み込む必要があるかもしれない。また燃料の供給だけを受けていた顧客が、熱供給施設の維持管理や運転までセンターに委ねることもあるだろう。このような意味で、地域バイオマスセンターと木質エネルギー契約は紙一重の関係にあると思う。

日本との違い

 わが国の中山間地においても、上述のような仕組みができれば、木質バイオマスによるエネルギー自立が容易になるであろう。果たしてそれは可能であろうか。最低限二つの条件が満たされなければならない。エネルギービジネスで利益を得ようとする森林所有者の強い意欲と、彼らのエネルギー事業をしっかりと支えるサポート体制がそれである。残念ながらわが国の現状からすると、両方とも望み薄というしかない。
 日墺の違いを象徴する典型的なエピソードの一つを紹介しよう。中小の森林所有者の集まりであるシュタイアマルク州の森林連盟に、森林・林業政策の優先順位を問うと、一に林道、二に教育、三に補助金という答えが返ってくる。林道は林業経営にとって最も基本的なインフラであり、木材生産のコストを決定的に左右する要因でもある。連邦や州レベルの森林政策において路網整備が重点項目になるのは当然のことだ。
 二つ目に教育が上がってくるのは、木材生産の分野はもとより、木質エネルギーの分野でも新しい技術や新しいシステム思考が次々と現れており、この流れにうまく対応しないと市場競争力を失ってしまう。オーストリアでは新規就労者の教育訓練はもとより、古いタイプの作業員の再教育にも力を入れている。
 実のところ日本の森林・林業政策ではこの路網整備と教育が軽視されてきた。それが国内林業の市場競争力を決定的に低めているのである。木材価格の低迷や賃金の上昇などで間伐の実施が難しくなると、森林所有者(とその団体である森林組合)は、間伐補助金を要求し、政府もそれに応えてきた。一事が万事で、日本の林業は補助金漬けになっている。森林所有者も森林組合も補助金がなければ何もしない。
 ところがオーストリアはじめ欧州の国ぐにでは、保育期を過ぎた人工林の間伐に補助金を出すという発想がない。路網整備や教育を通して、間伐補助金などなくとも成り立つような競争力の強い林業経営の育成を目指している。日本の森林・林業政策もそのような方向に変えていかないと、木質エネルギービジネスにも明るい展望は開かれないと思う。

動画:木質バイオマスエネルギー ~日本の森林を活かして 地球温暖化を救え!~