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木質バイオマス加工・利用システム開発事業

講演会・勉強会

再エネ新時代における木質エネルギーの役割(6)

高まるカーボンプライシングへの期待

H.コペッツ氏による炭素税の提案

 2017年5月24日に長野市で自然エネルギー財団主催の国際シンポジウム「木質バイオマスによる地域エネルギーシステムの転換-世界の経験を日本で活かす」が開催された。このシンポジウムで基調講演を行ったのが、オーストリア・バイオマス協会の設立者で、欧州バイオマス連合会会長、世界バイオエネルギー協会会長を歴任したハインツ・コペッツ氏である。
 彼は、バイオマスのエネルギー利用で重要なのは熱供給だと早くから繰り返し主張していたのだが、残念なことに熱部門におけるエネルギー転換は遅々として進んでいない。EUの28カ国でも、熱部門の再エネ比率はこの10年間で10%から18%の上昇にとどまっている。つまり今なお8割以上を化石燃料に頼っているのだ。
 加えて近年、原油の先物市場価格がバレル120ドルから50ドル低下したため、消費者はバイオマスよりも暖房油を選び始めている。これは脱化石燃料を謳ったパリ協定の精神に反するものであり、石油価格が下落している今こそ、炭素税を導入するまたとないチャンスだと述べて基調講演を締めくくった(脚注)。
(脚注)Heinz Kopetz: Development history of biomass heat market

化石燃料の代役を務められる再エネはバイオマスしかない

 筆者もまったく同感である。パリ協定の発効を契機にして、世界は低炭素社会に向けて大きく動き始めた。化石燃料の消費量は次第に減少し、その価格も長期的に低落していく可能性が高い。それは一面で好ましいことのように思えるのだが、再生可能なエネルギーからすると市場競争力の低下に直結する大変な脅威でもある。風力発電や太陽光発電であれば、将来に向けてさらなるコストダウンが実現するから、大丈夫だとする見方ができるかもしれない。
 しかしバイオマスの場合は少々事情が違う。高価な燃料を燃やしてエネルギーを得るという点では化石燃料とまったく同じで、エネルギーの生産コストも簡単には引下げられないのだ。化石燃料の価格が低下したら、バイオマスは熱市場や電力市場から駆逐される恐れがある。だが、バイオマスは風力や太陽光とは一味違ったユニークな再エネであって、簡単に諦めるわけにはいかない。
 少し説明しよう。バイオマスは主として炭素と水素と酸素からなる炭水化物だ。他方、化石燃料は炭素と水素を主成分とする炭化水素である。前者は死んで間もない生物の遺骸(細胞物質)であり、後者はそれが化石化したものだ。両者に共通点が多く見られるのは当然である。エネルギー利用にしても、あるいはマテリアル利用にしても、きわめて多くの分野でバイオマスは化石燃料に代替できるのだ。
 化石燃料を使えば、比較的安いコストで熱や電気がつくれるだろう。しかし化石燃料を燃やすとCO2などの温暖化効果ガスが相当量排出されて大気中の溜まり、地球規模の気候変動を引き起こす可能性が高い。気候変動が社会全体にもたらす短期・長期のマイナスの影響はきわめて深刻だとされているが、その膨大な「社会的費用」を化石燃料の消費者に払ってもらおうというのが「炭素税」である。
 もちろんバオマスを燃やした場合でも、熱量当たりにして石油と同じくらいのCO2が出てくるが、そのCO2は植物が成長している間に大気中から吸収したものであり、また排出されたCO2が後続の植物によって再び吸収されるのであれば、大気中のCO2濃度を高めたことにはならない。気候変動をもたらす化石燃料に炭素税がかけられ、カーボンニュートラルなバイオマスに課されないとすれば、炭素税を通して両者の差別化がなされたことになる。
 化石燃料が使えなくなると、航空機や船舶の燃料が不足し、石油化学産業の原料が得られなくなると言われているが、その一部はバイオマスで確実におぎなえる。

スウェーデンの炭素税

 地球温暖化防止の視点からスウェーデンは1991年に炭素税を創設した。90年代末の政府のエネルギー統計によると、1993年~97年の平均で石炭の市場価格が4.4オーレ/kWh、森林燃料が10.2オーレ/kWh、石炭のほうが断然安い。しかし一般用の石炭には炭素税のほかに硫黄税、エネルギー税が課せられていて、その合計は16.9オーレにもなる。最も安価な暖房用燃料とされていた石炭に、市場価格の3.8倍もの税が賦課されたため、森林燃料が俄然有利になった。
 炭素税導入の成果としてよく引き合いに出されるのが地域熱供給施設での燃料転換である。スウェーデンでの地域熱供給のスタートは1950年代にさかのぼるが、その後順調な拡大を続けてきた。エネルギー投入量で見ると、図1にあるように、1970年に15TWhであったものが、2010年代には4倍に増えて60TWhになっている。今ではすべての集合住宅の90%が地域暖房の恩恵を受けていると言う。また発電しながら熱を生産するCHPプラントが増えてきて、供給される熱のうちCHPによるものは40%に達している。
 このようなわけで地域熱供給は非常に重要な役割を担っているのだが、注目すべきは、燃料構成に占めるバイオマスのシェアが60%にまで高まってきたことだ。70年代にはほとんど石油だけに頼っていた。その後石油価格が上昇すると、石油に代えて石炭を使う動きが出てくるのだが、91年の炭素税の導入でバイオマスの増加が目立つようになり、石油と石炭は圧縮されることになった。

炭素税とグリーン証書

 地域熱供給施設でのドラスチックな燃料転換は、もとより炭素税だけの功績ではない。炭素税が有効なのは熱供給の分野に限られていた。地域熱供給プラントで発電しても有利な値段で電気が売れないからCHP化が進まなかったのである。それが2003年に取引可能なグリーン証書(TRECs)の制度が導入されて、バイオマスの電気が高く売れるようになり熱電併給のケースが増えていく。
 現在では再生可能な熱を炭素税で支援し、再生可能な電気をグリーン証書でサポートすることになっている。バイオマスのエネルギー利用においては熱と電気の両方をバランスよく支援することが、非常に重要になってくる。早い話、わが国の固定価格買取制度(FIT)で考慮されるのは電気だけで熱が無視されているため、バイオマスにとってはきわめて不利である。
 2010年にFIT制度を取り入れたイギリスでは、バイオマスの本命は熱供給であるとして、電気のFITからバイオマスを外し、新しく再生可能な熱の固定価格買取制度とされるRenewable Heat Incentive (RHI)を2011年にからスタートさせた。イギリスの環境・食料省(Defra)とエネルギー問題を所管する通産省(DTI)が共同で2003年に立ち上げたバイオマス・タスクフォースは、その最終報告書で「再生可能な電力が過度に重要視される一方で、バイオマスによる熱生産が持っている炭素削減の能力が軽視されている」との視点で、新しい支援策の必要性を強調していた。
 確かに、地球温暖化対策の観点から推奨されるバイオマス利用は、発電ではなく熱生産である。変換効率に大きな違いがあるからだ。発電ではせいぜい30%止まりであるのに対し、熱生産なら80%ないしそれ以上が期待できる。例えば、高位発熱量4MWh/tの木質チップを1トン使って発電した場合に、平均的な化石燃料による発電に比べて、どれくらいのCO2が削減できるかと言うと、おおよそ0.5トンほどである。同じ量を熱生産に向ければ1トン以上は節約できるだろう。
 これからのエネルギー政策の重点が温室効果ガスの削減に移るとすれば、バイオマスのエネルギー利用でもその焦点は電気から熱に移行する。

温室効果ガス削減の限界費用曲線

 以上に見たように、バイオマスの熱と電気に対する支援は国によってさまざまである。スウェーデンの場合は、熱は炭素税、電気はRPS(グリーン証書)で支援している。ただしこの国のバイオマス発電のほとんどはCHPによるものだ。他方、イギリスにおいては再生可能な熱に対して新たにRHIの制度を設け、バイオマスの電気はCHPに限ってCFDの対象とした。
 各国のエネルギー政策はその時々の経済情勢や政治情勢を背景にして形成されてきた。再エネに対する取り組みにも差が出るのは当然であろう。しかし低炭素社会への移行が今後のエネルギー政策の主要な目標になるとすれば、バイオマスの利用に関しても、さまざまなエネルギー変換技術(方式)が実際にどれほどのCO2削減につながるかを客観的に評価し、熱、電気、熱電併給、さらには輸送用燃料などに仕向けた場合の効果を共通の尺度で比較する必要があると思う。
 すでに10年近く前のことだが、イギリス政府の気候変動委員会(CCC)は温室効果ガス削減の限界費用曲線(MACC)なるものを提案している。木質バイオマスの分野でどのようなポテンシャルがあるか、その全体像を把握するにはこの限界費用曲線の作成が欠かせない。図2はまったく仮想のものだが、横軸には各種の技術(手段)によって削減可能なCO2のトン数が示され、縦軸には1トンのCO2を削減するに要するコスト(限界費用)が取られている。コストの低いものから順に横に並べられていて、横方向に集計すると総削減量になる。
 さて、図の左の端にコストが負になるケースがいくつか出ている。なぜそのようなことが起こるのか。地上の木質バイオマスはすべてエネルギー価値を持っているのだが、それが有効に利用されないまま廃棄物として処理されるケースが多い。木材加工場で年中発生している工場残廃材や、自然管理で発生する修景残材などにしても、ある程度まとまればボイラで燃やして熱や電気に換えることができる。大枚を払って一般廃棄物ないしは産業廃棄物として処理することに比べれば、CO2の削減と並んで大幅なコスト削減が実現するだろう。

 いずれにしても木質バイオマスのエネルギー変換は、MACCのマイナスからプラスの領域に広がっているが、その限界費用は熱生産の技術や発電方式の違いだけでなく、それ以外の要因も強く効いてくる。例えば、残廃材が発生した場所から変換プラントまでの距離、その残廃材に要求される前処理の程度、変換プラントの近くに適当な熱需要があるかどうかなどの要因がそれだ。 
 一般的に言って、限界費用を低める有力な手立ては木材加工との連携である。例えば製材工場のCHPプラントであれば自社の残廃材が利用できるし、製品の乾燥などで熱の出口も確保されている。逆に、蒸気サイクルの発電専用プラントでも出力規模を大きくすれば、発電効率は多少改善されるが、木質燃料の大量集荷でコストが嵩むようだと、CO2削減の限界費用は大幅に上昇してしまう。図の右端に位置するいくつかのケースがそれだ。

カーボンプライシング:政策の選択

 パリ協定の締結を受けて、わが国の政府も温室効果ガス(GHG)を2030年度までに13年度比で26%、50年度までに80%削減するという中期、長期の目標を定めている。80%減をGHGの絶対量でいう14.1億トンから2.5~2.8億トンに減らすことであり、これまで削減実績からすれば、異次元の夢物語のように聞こえるかもしれない。
 ただ、風力や太陽光などの再エネ電気の発電コストが相当なスピードで低下していることを考えれば、技術的な障壁は取り除かれつつある。これから必要なのは、エネルギーシステムの抜本的な転換であり、それには炭素の価格付け、つまり「カーボンプライシング」を軸にした大掛かりな政策転換が欠かせないと思う。
 前記の炭素税は発生する1トンのCO2に明示的に価格付けするカーボンプライシングの一つだが、この他にcap and tradeとも呼ばれる「排出量取引」があるし、固定価格買取制度も暗示的なカーボンプライシングの一種とされている。こうした政策の違いを図2のMACCを使って説明しよう。
 まず排出量取引について。手順としては①木質バイオマスのエネルギー利用を通して削減すべきCO2の総量を決める(例えば横軸のQ点)。②所与のQを実現すべく技術ないしは事業所ごとに排出枠(キャップ)を設定してその遵守を義務付ける。③枠を余す事業所と不足する事業所の間で排出枠の取引を認める。④そうした取引により最低のコストでQの量が確保される。
 手続き的にはこれだけのことだが、事業所ごとに排出枠を割り付けるのは決して容易なことではなく、一発で満足な結末が得られるとは思えない。実のところ、何千もの事業主体の行動様式を予測するのはおよそ不可能であり、何度かの試行錯誤は避けられないであろう。
 これが炭素税になると、CO2当たりの税率が決められて、削減される排出量は事前には分からない。しかし図2のQ点上にある技術の限界費用と同じレベル(つまりP)に炭素税を設定すればQの総量が確保され、結果は排出量取引と変わらなくなる。
 明示的なカーボンプライシングに多少の頼りなさはあるにせよ、温室効果ガスに由来する社会的費用をその発生者に負担させるという原則は貫かれている。この場合、行政などの指示で「誰が、どれだけ、どのような方法で削減するか」が決められているわけではない。すべての関係者は炭素価格をシグナルにしてどう行動するかを自主的に決めているのである。
 このようなわけで、排出量取引や炭素税は、市場の活力を最大限に活用して費用効率的に温室効果ガスの排出削減を狙っている。これに対して暗示的カーボンプライシングの一つとされるFITでは、市場原理に任せていては普及の望めない技術に狙いをつけて、一定期間手厚く保護するシステムである。技術のブレークスルーで市場競争力がつくまで、政府の定めた高い価格で電気が買取ってもらえる。
 図2で言えば、右端にあるコスト高の技術がFITの対象になるだろう。しかし通常の排出取引や炭素税方式では決して選ばれない技術であり、コストダウンの見込みのないまま買取を続けるのは、まったくのナンセンスと言うべきである。現行のFITで支援されている技術についても、全体的なMACCの枠組みのなかで客観的に評価して、支援を続けるのが適当かどうかを見極める必要があろう。

カーボンプライシングは産業の競争力を損なわないか

 温暖化効果ガスの削減政策として、炭素税などのカーボンプライシングが有効であると主張する経済学者は多い。しかしわが国では、炭素税の導入に関してはつい最近まで産業界の一部に強い拒絶反応があった。会社が必要とするエネルギーは高価な輸入化石燃料で賄わねばならず、収支を合わせるのに四苦八苦している。その化石燃料に炭素税が賦課されたら、もうお手上げだと言うわけだ。何事も現状のまま推移するとしたら、その通りだろう。
 しかし世の中は今、脱化石燃料に向けて大きく動き始めている。将来を見据えた企業であれば、カーボンプライシングの政策を受け入れ、率先して変革に取組むはずだ。先端的な技術の導入や新しい市場の開拓が進めば、競争力が弱まるどころか、逆に強化される可能性は十分にある。その証拠としてよく引き合いに出されるのがスウェーデンだ。
 スウェーデンは、世界一高い炭素税で温室効果ガスの排出量を着実に減らしながら、産業活動を活発にして国内総生産(GDP)を大きく伸ばしてきた、と言うのである。この国の炭素税の推移は図3に、排出量とGDPの動向は図4に示されている。二つの図を見比べる限り、炭素税が実質GDPの成長を妨げているとは言えない。

 スウェーデンでも、当初、目一杯の炭素税がかけられるのは、住宅やサービス部門での熱供給に向けられる化石燃料だけであり、競争力を損なう恐れのある産業用の燃料には低い税率が適用されていたし、電気は最初から除外されていた。見られる通り、炭素税のレベルは制度の発足以来大幅に引き上げられている。炭素トン当たり26ユーロで始まった一般用の税率は、今では120ユーロにまで達した。また2018年には一般用と産業用の差がなくなって同じレベルになると言う。
 この間にCO2換算の排出量は25%減少し、実質GDPは69%増加した。以前の常識からすれば、GDPが増えれば化石燃料の消費量が増加してCO2排出量も増えるとされていたが、炭素の生産性(GDP/CO2e)が高まったために、GDPと排出量の「デカップリング」が実現したのである。
 しからば日本はどうであったか。各年の名目GDPを当該年の為替相場でドルに換算した炭素生産性で見ると、1990年代の半ばには世界のトップレベルにあり、スウェーデンと肩を並べていた。それが今世紀に入ったころから主要な欧州諸国に次々と追い抜かれ、今ではきわめて低いランクに甘んじている。早い話、実質GDPベースの炭素生産性が1995~2014年の間に何倍になったかを見ると、スウェーデンが2.2倍になっているのに、日本は僅か、1.2倍にとどまっている。欧州主要国のどこよりも低い。図4に描かれているようなデカップリングが実現していないのだ。
 わが国のエネルギー政策は原子力発電を前面に押し立て、再生可能な自然エネルギーを普及させるための地道な努力を怠ってきた(脚注)。炭素税などの導入を頑強に拒んできたために、CO2排出量はほとんど削減されていない。それがまた実質GDPの伸びまで止めてしまったのではないか。反省すべき時期に来ていると思う。

脚注)環境省「カーボンプライシングのあり方に関する検討会」第1回(2017年5月12日)資料4(我が国の温室効果ガス排出量及び炭素・エネルギー生産性の現状等)12頁。

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