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英国版「熱の固定価格買取制度」その後の展開(後編)~助成率(tariff)引下げのメカニズム~

家庭用RHIの認証実績

 イギリスの再生可能な熱への助成策(RHI)では、非家庭部門への支援が先行し、家庭部門への支援はそれより3年ほど後れて2014年4月から始まった。後者で対象となるのは、バイオマス専焼のボイラとバイオマスペレット焚きのストーブで、ともに燃焼効率やエミッション排出にかかわる製品認証を得たものでなければならない。
 非家庭部門のバイオマスボイラの場合は、熱量計の設置が義務づけられていて、実際に消費された熱の量に助成レートを乗じて補助金が支払われる。しかるに家庭部門のバイオマスシステムでは、年間の熱負荷が一律に15MWhと決められている。助成率が当初の設定どおり12.2ペンス/kWhであったとすれば、1年間の補助額は1830ポンド(1英ポンド=170円とすると30万円超)にもなるが、この1/4が4半期ごとに支払われる。
 家庭用RHIの認可と助成のこれまでの実績は表1のようになっている。ここで「新設」となっているのはこのスキームがスタートする14年4月以降に申請されたものであり、「既設」というのはRHIの実施が公式に予告された09年7月から実施直前の14年4月までにつくられた施設を指す。後者の申請者は「legacy applicant」と呼ばれ、RHIに応募することはできるが、設置時にDECCの補助金を得ていた関係で、新設の施設とは若干異なった取り扱いを受ける。

 総認可件数の累計は4.6万弱、助成を受けた熱の累計は660GWhに達する。件数として多いのはヒートポンプで、全体の59%を占め、バイオマスシステムは25%だ。ただ後者は1件当たりの熱出力が大きく、助成を受けた熱量では55%のシェアを持つ。認可されたバイオマスシステムの大部分(84.5%)は、天然ガスの配送網のない(off grid)地域に集中する。イギリスの家庭暖房で最も一般的なのは都市ガスによるものだが、配管のない農村部などでは灯油やLPGに頼らざるを得ず、暖房費は50%も高くなるという。家庭用のRHIがターゲットにしていたのはこうした地域であった。バイオマスによってどのような化石燃料が代替されたかを件数で見ると、石油58%、電気13%、LPG8%などとなっている。

助成率引き下げの仕組み

 表1からも知られるように、ヒートポンプと太陽熱では認可件数の67~70%が既設で占められているのに、バイオマスシステムでは既設が少なく新設が70%にもなっている。家庭用RHIの発足でバイオマスの新たな申請が急増したのだ。そうなると、助成率を引き下げるメカニズムが強力に作動する(なお既設の申請はこのメカニズムの対象外となっている)。助成率が激しく引き下げられる様相は表2の上段からも読み取れるであろう。14年4月の発足当時12.20ペンス/kWhであったTariffは2年も経たない16年初頭にはその半分以下の5.14ペンスにまで削減されたのである。逓減の度合いは前回取り上げた非家庭部門の小規模バイオマスとそれほど変わらない。
 ここで助成率の「逓減メカニズム(Degression Mechanism)」について簡単に説明しておこう。RHIの補助金は一般税収で賄われており、DECCはバイオマスとかヒートポンプといった技術分野ごとに支出計画を毎年作成しているのだが、これをもとに助成率の引き下げが発動する閾値を設けている(表2の下段)。補助金の支出が増えてTriggerと呼ばれる閾値を越えるようであれば助成率は前期に比して10%減らされ、さらにSuper Triggerに引っかかるようなら20%の削減となる。バイオマスシステムは14年の末からこのいずれかの閾値を越えてしまい、その後は5つの4半期連続して引き下げられることになった。

 これを反映して新規の認可件数は急速に落ち込んでゆく。他方、大気熱のヒートポンプと地中熱のヒートポンプの予算にも、バイオマスシステムとまったく同額の閾値が設けられていたにもかかわらず、助成率引き下げのメカニズムが作動することは一度もなかった。そうした違いが、認可件数の月別の推移(表3)に如実に現れていると思う。

「誘い水」に徹する英国の固定価格買取制度

 同じRHIでも家庭部門と非家庭部門では固定したTariffが支給される期間に7年と20年という差異があり、さらにTariffの逓減メカニズムにも若干の違いがある。詳しくは表3を見ていただきたい。
 この表にはRHIと対比する形で電気のFIT(保障期間20年)の逓減メカニズムも併記されている。英国のFITで対象となるのは、太陽光、風力、メタン発酵、小型CHPで固形バイオマスは含まれない。また小規模発電を支援する制度であるため、電気出力5MW以下の施設に限られる。ここで注目したいのは、Tariffの逓減方式に関してRHIとFITが共通した特徴を持っていることである。
 両者ともTariffの見直しが4半期という短いインターバルで頻繁に行われ、かつ逓減の幅が大きい。たとえばFITのTariffは一定の期間を置いて自動的に引き下げられる仕組みになっているが、太陽光発電の場合4半期ごとに3.5%の割で低下するし、その他の発電でも毎年5%の割で下がっていく。これほど高率のDegressionは他に例がないのではないか。RHIの小規模バイオマスでも4半期で10%、20%という大幅引き下げが頻繁に生じていた。
 もう一つ特徴的なのは、申請、認可、設置などの展開状況(deployment)を見ながら次期のTariffが決められていることである。RHIは「再エネの熱供給施設が数多く設置されれば、それに応じて新規の助成率を引き下げる」という原則で運営されていたが、FITにおいても「展開」の速度が一定の閾値を越えると、ベイスラインのDegressionのレートが倍になったり、あるいは10%、20%にまで引き上げられるのである。
 こうした措置は、固定価格買取制度の長期にわたる「固定化」を防ぐと同時に、FITの暴走という、行過ぎた「展開」に歯止めをかけることにもなるだろう。それはまた先に申請したものが得をする「早い者勝ち」のシステムである。
 2000年にFITをスタートさせたドイツでは、2014年に制度の抜本的な改変を行い買取価格の引き下げと「市場化」を断行した。現在固定価格の受け取りを続けているのは、出力100kW以下のプラントだけである。それ以外はつくった電気を自分でどこかへ販売しなければならない。今にして思えば、FITはいわば「誘い水」だったのである。
 風力発電や太陽光発電は技術的に成熟しておらず、発電コストも高い。このままでは電力市場に参入することができず、技術革新も進まない。FITはその参入を促進するための手段であった。事実、風力や太陽光では発電コストの相当な削減が実現している。木質バイオマスの大型発電では、そうした見込みが立たないまま、買取価格が引き下げられ、認可量自体に低い上限が設定されてしまった。
 ドイツのFIT制度が、最初から「誘い水」として設計されたとは思えないが、英国の場合は「誘い水」の意図がはっきりしていたように思う。当初のTariffを高めに設定しておいて、展開の状況を見ながら思い切ってどんどん引き下げるのは、まさに誘い水戦略の典型と言っていい。
 そもそも再エネの熱や電気を20年にもわたって固定した価格で無制限に買い続けるという発想には無理がある。FITはどのみち一時的なもので、いずれは市場メカニズムの中に埋め込んでいくしかない。そう考えると英国流のDegression方式にも一理あると筆者には思えるのだが。

動画:木質バイオマスエネルギー ~日本の森林を活かして 地球温暖化を救え!~