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続・これからの木質エネルギービジネス(30/31)

英国版「熱の固定価格買取制度」その後の展開(前編)~小規模バイオマスに申請が殺到し助成率が大幅に引下げられる~

FITは暴走する

 再エネの電気を固定した価格で20年間も無制限に買ってもらえるとすれば、多くの事業者がこの分野に殺到するのは当然のことだ。FIT制度を取り入れた欧州の諸国で風力発電や太陽光発電が急激に増加し、いくつかの国ぐにでは相当にラジカルな抑制策が採られることになった。
 イギリスは電気のFITから固形バイオマスを外し、「世界初」と自賛する熱のFIT制度をスタートさせた。このシリーズですでに紹介したように(2014年3月3日付)、小規模なボイラやストーブで生産される熱への助成率(tariff)は、当初かなり高いレベルに設定されていた。ご多聞にもれず、ここでも高い「買取価格」に魅せられて認定申請が当局に殺到するが、イギリスの熱のFITには暴走に歯止めをかける強力なブレーキが組み込まれていた。今回と次回はそのブレーキの話をしよう。

再生可能な熱への助成策(RHI)の概要

 イギリスが固形バイオマスを電気のFITから外した理由は二つある。まず、数ある再生可能なエネルギー源のなかで、バイオマスの際立った特徴は良質の熱を効率的に生産できることだ。バイオマスのエネルギー利用で、優先すべきは発電ではなく熱の生産にある。逆にバイオマスを用いて電気だけを生産しようとすると、変換効率を高めることが難しく、どうしても無駄が多くなってしまう。一般に普及しているのは蒸気タービン発電だが、これはいわば成熟した技術であり、一定期間FITで支援したとしても目立った技術的な改善やコストダウンは望めない、と言うのだ。
 イギリスはこのような理由で電気のFITからバイオマスを外し、新たに創設した熱のFIT制度、つまり「再生可能な熱への助成策(Renewable Heat Incentive, RHI)」に取り込んだのである。この新しい制度の眼目は、再生可能な熱の生産コストと化石燃料による熱生産のコストの差を政府の補助金で埋めることで、家庭部門(domestic sector)と非家庭部門(non-domestic sector、産業、ビジネス、公共部門など)に分けて実施された。
 表1は2014年3月時点でのRHIプログラムの概要である。非家庭用の小規模バイオマスボイラに対する助成率はtier 1でkWh当たり8.6ペンス、これが家庭用のバイオマスシステムになると、12.2ペンスにもなる。1ペニー=1.7円で換算すると、それぞれ15円と20円前後。熱の価格としては異常なほどに高い。バイオマスによる熱供給を一挙に増やそうとする政府の積極的な意図が読み取れる。

非家庭用RHIの97%は固形バイオマス

 RHIのスキームで非家庭用熱供給への支援は2011年11月から始まった。それ以来、申請件数、認可件数ともに順調に増加し、16年1月までに認可されたのは件数で13,850、熱出力の合計で227万kWに達する(表2)。このなかで固形バイオマスの占める比率を見ると、件数で94%、出力では97%にもなる。
 非家庭用ボイラの場合は実際に消費された熱の量を計測し、その量に応じて補助金が支払われるが、熱出力200kW未満のボイラの場合、補助金単価はTire Breakの1(熱出力×1.341)まではkWh当たり8.6セント、それを超える分については2.2ペンスになる。この魅力的な補助金に引き寄せられて多数の希望者が殺到した。これを全部認めていたのでは政府の財政支出が際限なく増えてしまう。実際には以下に述べるような「自動ブレーキ」の装置が準備されていた。

政府予算による縛り

 RHIの補助金は政府の税収で賄われており、助成率は4半期ごとに見直されることになっている。その一方でそれぞれの4半期で使える予算については熱供給技術の種類ごとに上限のようなものが決められていて、大幅な超過は許されない。予想される支出額がそれを大きく超えそうな状況になれば、新たに認可されるボイラへの助成率が機械的に引き下げられるのだ。それ以前に申請されていたものについては、その時点での助成率が約束通り20年間支給されることになっている。したがって、既存の認可ボイラへの支払いが優先され、新規のボイラに充てられるのはその予算の残額である。新規の申請者が多いと予想されれば助成率が引き下げられるのだ。これは低減措置(Degression Mechanism)と呼ばれるもので、次回で少し詳しく紹介することにする。
 とりあえず、小規模バイオマスボイラに対する助成率がどのように引き下げられたかを見てみよう。表3にあるように、このメカニズムが最初に発動されたのは2014年の第二4半期で、次の第三4半期(7月1日)から新しい助成率が適用されることになった。その後毎期連続して引き下げられている。予算をオーバーする申請が続いたからであろう。16年第一4半期の助成率を当初の数字と比べると、Tire1では8.95→3.76セント、Tire2で2.34→1.00セントという急落ぶりである。わずか2年ほどのあいだに、補助率が半分以下になってしまった。

 助成率の下落は、新規応募の減少に直結する。図1は15年1月以降に申請された件数と認可された件数の月別の動向である。月別の応募件数に一定の規則性が見られるのは、次の4半期の助成率が3月1日、6月1日、9月1日および12月1日に公表されるからである。たとえば3月1日に公表される第二4半期の補助率が今期より引き下げられていたとしよう。それまで申請をためらって様子を見ていたボイラ所有者も、今期の補助率を確保すべく、大急ぎで申請書類をつくって3月31日までの期限内に提出するだろう。3月、6月、9月、12月に申請件数が跳ね上がり、その翌月の申請がゼロに近くなるのはそのためである。ただ申請書が受理されたとしても、審査に時間がかかって均されるから、月別の認可件数にはこの種の規則性は見られない。

難しいFITの暴走制御

 木質バイオマスの熱利用が盛んな中欧や北欧の常識からすると、RHIの助成率は著しく高い。欧州委員会(EC)が「特定のビジネスを優遇する過剰な補助金」だとしてクレームをつけたほどである。しかしイギリスでは木質燃料の利用がそれほど普及していない。灯油やLPGに替えて木質燃料を入れることにも強い抵抗がある。まず政府としては当初の助成率を大幅に引き上げて一挙に普及させようとしたのであろう。ある程度のレベルまで広がれば、木質バイオマスによる熱供給のコストも低下していくはずだ。
 さらに加えて、長い目で見れば化石燃料の価格は確実に上昇するという見通しがあったと思う。灯油やLPGの価格が上がれば、その分RHIの補助率を引き下げることができ、政府の財政支出も減っていくだろう。残念なことに、現実にはこの予想に反して化石燃料価格の下落が始まった。灯油やLPGの価格が下がって木質燃料の価格が不変であれば、両者の熱供給コストの差は拡大しているはずだ。この差を埋めるのがRHIの本意であるとするなら、助成率を引き上げなければならない。
 しかし化石燃料の価格が下がっているのに、再生可能な熱への補助金を増やすわけにはいかないだろう。木質焚きボイラの所有者たちも、助成率が下げられるのを見越して駆け込み申請を急いだ。政府の財政支出のほうも大きく膨らむ気配になってきた。そこで断行されたのが、いわば「予算の制約」を口実にした助成率のドラスチックな引き下げである。「コスト差を埋める」といった大義名分などには構っていられない。
 再生可能な熱にしろ電気にしろ、固定価格買取というタイプの市場介入は、非常な効果を発揮するけれど、その暴走をコントロールするのは相当な難事である。イギリスのRHIの動向を観察していてそのことを痛感した。

「熱の固定価格買取制度」その後の展開(後編)~助成率(tariff)引下げのメカニズム~

家庭用RHIの認証実績

 イギリスの再生可能な熱への助成策(RHI)では、非家庭部門への支援が先行し、家庭部門への支援はそれより3年ほど後れて2014年4月から始まった。後者で対象となるのは、バイオマス専焼のボイラとバイオマスペレット焚きのストーブで、ともに燃焼効率やエミッション排出にかかわる製品認証を得たものでなければならない。
 非家庭部門のバイオマスボイラの場合は、熱量計の設置が義務づけられていて、実際に消費された熱の量に助成レートを乗じて補助金が支払われる。しかるに家庭部門のバイオマスシステムでは、年間の熱負荷が一律に15MWhと決められている。助成率が当初の設定どおり12.2ペンス/kWhであったとすれば、1年間の補助額は1830ポンド(1英ポンド=170円とすると30万円超)にもなるが、この1/4が4半期ごとに支払われる。
 家庭用RHIの認可と助成のこれまでの実績は表1のようになっている。ここで「新設」となっているのはこのスキームがスタートする14年4月以降に申請されたものであり、「既設」というのはRHIの実施が公式に予告された09年7月から実施直前の14年4月までにつくられた施設を指す。後者の申請者は「legacy applicant」と呼ばれ、RHIに応募することはできるが、設置時にDECCの補助金を得ていた関係で、新設の施設とは若干異なった取り扱いを受ける。

 総認可件数の累計は4.6万弱、助成を受けた熱の累計は660GWhに達する。件数として多いのはヒートポンプで、全体の59%を占め、バイオマスシステムは25%だ。ただ後者は1件当たりの熱出力が大きく、助成を受けた熱量では55%のシェアを持つ。認可されたバイオマスシステムの大部分(84.5%)は、天然ガスの配送網のない(off grid)地域に集中する。イギリスの家庭暖房で最も一般的なのは都市ガスによるものだが、配管のない農村部などでは灯油やLPGに頼らざるを得ず、暖房費は50%も高くなるという。家庭用のRHIがターゲットにしていたのはこうした地域であった。バイオマスによってどのような化石燃料が代替されたかを件数で見ると、石油58%、電気13%、LPG8%などとなっている。

助成率引き下げの仕組み

 表1からも知られるように、ヒートポンプと太陽熱では認可件数の67~70%が既設で占められているのに、バイオマスシステムでは既設が少なく新設が70%にもなっている。家庭用RHIの発足でバイオマスの新たな申請が急増したのだ。そうなると、助成率を引き下げるメカニズムが強力に作動する(なお既設の申請はこのメカニズムの対象外となっている)。助成率が激しく引き下げられる様相は表2の上段からも読み取れるであろう。14年4月の発足当時12.20ペンス/kWhであったTariffは2年も経たない16年初頭にはその半分以下の5.14ペンスにまで削減されたのである。逓減の度合いは前回取り上げた非家庭部門の小規模バイオマスとそれほど変わらない。
 ここで助成率の「逓減メカニズム(Degression Mechanism)」について簡単に説明しておこう。RHIの補助金は一般税収で賄われており、DECCはバイオマスとかヒートポンプといった技術分野ごとに支出計画を毎年作成しているのだが、これをもとに助成率の引き下げが発動する閾値を設けている(表2の下段)。補助金の支出が増えてTriggerと呼ばれる閾値を越えるようであれば助成率は前期に比して10%減らされ、さらにSuper Triggerに引っかかるようなら20%の削減となる。バイオマスシステムは14年の末からこのいずれかの閾値を越えてしまい、その後は5つの4半期連続して引き下げられることになった。

 これを反映して新規の認可件数は急速に落ち込んでゆく。他方、大気熱のヒートポンプと地中熱のヒートポンプの予算にも、バイオマスシステムとまったく同額の閾値が設けられていたにもかかわらず、助成率引き下げのメカニズムが作動することは一度もなかった。そうした違いが、認可件数の月別の推移(表3)に如実に現れていると思う。

「誘い水」に徹する英国の固定価格買取制度

 同じRHIでも家庭部門と非家庭部門では固定したTariffが支給される期間に7年と20年という差異があり、さらにTariffの逓減メカニズムにも若干の違いがある。詳しくは表3を見ていただきたい。
 この表にはRHIと対比する形で電気のFIT(保障期間20年)の逓減メカニズムも併記されている。英国のFITで対象となるのは、太陽光、風力、メタン発酵、小型CHPで固形バイオマスは含まれない。また小規模発電を支援する制度であるため、電気出力5MW以下の施設に限られる。ここで注目したいのは、Tariffの逓減方式に関してRHIとFITが共通した特徴を持っていることである。
 両者ともTariffの見直しが4半期という短いインターバルで頻繁に行われ、かつ逓減の幅が大きい。たとえばFITのTariffは一定の期間を置いて自動的に引き下げられる仕組みになっているが、太陽光発電の場合4半期ごとに3.5%の割で低下するし、その他の発電でも毎年5%の割で下がっていく。これほど高率のDegressionは他に例がないのではないか。RHIの小規模バイオマスでも4半期で10%、20%という大幅引き下げが頻繁に生じていた。
 もう一つ特徴的なのは、申請、認可、設置などの展開状況(deployment)を見ながら次期のTariffが決められていることである。RHIは「再エネの熱供給施設が数多く設置されれば、それに応じて新規の助成率を引き下げる」という原則で運営されていたが、FITにおいても「展開」の速度が一定の閾値を越えると、ベイスラインのDegressionのレートが倍になったり、あるいは10%、20%にまで引き上げられるのである。
 こうした措置は、固定価格買取制度の長期にわたる「固定化」を防ぐと同時に、FITの暴走という、行過ぎた「展開」に歯止めをかけることにもなるだろう。それはまた先に申請したものが得をする「早い者勝ち」のシステムである。
 2000年にFITをスタートさせたドイツでは、2014年に制度の抜本的な改変を行い買取価格の引き下げと「市場化」を断行した。現在固定価格の受け取りを続けているのは、出力100kW以下のプラントだけである。それ以外はつくった電気を自分でどこかへ販売しなければならない。今にして思えば、FITはいわば「誘い水」だったのである。
 風力発電や太陽光発電は技術的に成熟しておらず、発電コストも高い。このままでは電力市場に参入することができず、技術革新も進まない。FITはその参入を促進するための手段であった。事実、風力や太陽光では発電コストの相当な削減が実現している。木質バイオマスの大型発電では、そうした見込みが立たないまま、買取価格が引き下げられ、認可量自体に低い上限が設定されてしまった。
 ドイツのFIT制度が、最初から「誘い水」として設計されたとは思えないが、英国の場合は「誘い水」の意図がはっきりしていたように思う。当初のTariffを高めに設定しておいて、展開の状況を見ながら思い切ってどんどん引き下げるのは、まさに誘い水戦略の典型と言っていい。
 そもそも再エネの熱や電気を20年にもわたって固定した価格で無制限に買い続けるという発想には無理がある。FITはどのみち一時的なもので、いずれは市場メカニズムの中に埋め込んでいくしかない。そう考えると英国流のDegression方式にも一理あると筆者には思えるのだが。

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