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イギリスで始まった熱の固定価格買取制度

バイオマスの本命は熱生産だ

木質バイオマスのエネルギー利用に関する限り、イギリスは欧州連合(EU)の中では後進国である。一次エネルギー総供給(TPES)に占める木質エネルギーの比率は、1%をちょっと超える程度で、20%以上のスウェーデンやフィンランドはもとより、オーストリアの14.7%やドイツの4.3%と比べても、かなり見劣りがする(UNECE/FAO, Joint Wood Energy Enquiry 

もともと、イギリスは森林資源に乏しい国として知られているが、90年代後半から欧州で広がった木質燃料の「復権」がつい最近まで見られなかったのも事実である。エネルギー源としてのバイオマスに熱い視線が注がれるようになるのは、この国が温暖化防止・CO2削減に向けて大きく動き出してからである。

イギリスの環境・食料省(Defra)とエネルギー問題を所管する通産省(DTI)が共同して、バイオマス・タスクフォースを立ち上げたのは2003年のことである。3年に近い年月をかけて、関連する企業、政府機関、地域組織、団体などから広く意見が聴取され、海外調査も行われた。これらをもとにまとめられた最終報告書で、とくに強調されたのはバイオマスによる熱生産の重要性である。バイオマスがユニークなのは質の高い熱が効率的に生産できることであり、発電は本命ではないという判断である。こうしてバイオマスエネルギーに対するイギリス政府のスタンスが決まった。

野心的なCO2削減目標

2008年に成立したイギリスの気候変動法には、CO2排出量を2050年までに90年基準で80%削減すると明記されている。2020年までの削減率は35%。この野心的な長期目標を下敷きにして、2010年に「再生可能エネルギー行動計画」が策定され、再生可能エネルギーの導入目標も決められた。


2010年 
2020年
電気   9% 31%
冷暖房・熱
1%
12%

ここで冷暖房・熱というのは、住宅用・業務用・産業用を合わせた熱消費の総量だが、注意してほしいのは、再生可能な熱の比率が2010年の時点で僅か1%しかないことだ。EUの加盟国としては最低の部類である。ちなみに、先頭を走るオーストリアの場合は再生可能な熱の比率が実に30%にも達する(Statistik Austria, Energiebilanzen 2011)。その内訳はバイオマスが27.7%で、太陽熱・地熱・ヒートポンプが合わせて2.3%。現在のところ再生可能な熱の主軸を担うのは、 バイオマス、わけても木質燃料であり、これがイギリスとオーストリアの巨大な落差を生み出す一因となった。

最終エネルギー消費に占める熱部門の比率は、多くの先進国で40%前後になっている。この重要な部門で化石燃料の消費を大幅に削減しないことには、CO2 も思うように減らない。そこで、イギリスはわずか10年の間に、この比率を1%から12%に引き上げることにしたのだが、この無謀とも思える目標をどうやって達成するか。政府が打ち出した秘策が再生可能な熱への助成策(Renewable Heat Incentive, RHI)である。熱のFIT(固定価格買取制度)とも呼ばれる。

RHI制度の概要と助成率

もちろん、電気のFITと同じではない。熱というのは、暖房・給湯用にしても、産業用にしても、家庭や工場に据え付けられた燃焼機器で生産され、その場で消費されることが多い。他方、発電のほうは、出来た電気のほとんどが送電線を通して外部に販売される。熱と電気の決定的な違いがここにあるのだが、外部への販売がなければ固定価格での買取りはあり得ないわけで、奇異に思われるかもしれない。

RHIの狙いは、再生可能な熱(RH)の生産コストと化石燃料による熱生産のコストの差を埋めることである。RHの技術が普及しないのは、化石燃料のそれに比べてコスト高になっているからだ。この差に相当する額を政府の補助金としてRH技術の導入者に与え、障壁をなくそうとする主旨である。熱1kW当たりの助成額は、市場条件の変動に応じて四半期ごとに改定されるが、その支援期間が、7年ないしは20年に及ぶために、固定価格買取と同じような効果が期待できるのである。

RHIのプログラムは、二段階に分けて実施されることになった。第一段階は産業、ビジネス、公共部門を含む非家庭部門(non-domestic sector)が対象で、2011年11月からスタートしている。第二段階の家庭部門については、さしあたってRH機器の導入に対する補助金支給(Renewable Heat Premium Payments, RHPP)で対応し、14年の4月からRHIに移行することになっている。

RHIの現行の助成率(tariff)を表1にまとめておいた。料率はバイオマス、ヒートポンプ、太陽熱のそれぞれについて定められている。非家庭用の場合は熱出力の規模によっても差がつけられており、計測された消費熱量に当該規模の助成率を乗じた額が支払われる。他方、家庭部門の助成率には規模による差がなく、消費熱量の計器による測定もない。定められた標準値が一律に適用される。

非家庭部門での実施状況

助成の対象となるのは、2009年7月15日以降に稼働した施設の設置者である。11年11月28日の応募開始から13年12月31日までに提出された案件のうち、承認された件数は2,917で、熱出力の総計は約70万kWであった。熱供給技術のタイプごとに見てみると、表2に示されるように、固形バイオマスを燃やすボイラが圧倒的に多く、件数で93%、出力では99%を占有する。

固形バイオマスの一部に麦わらのようなものも入っているが、大部分は木質系とみてよい。RHIが始まったことで、木質バイオマスによる熱生産が急速に伸びたのである。その第一の理由は、助成率の高さにあるだろう。表1の助成率を1p(ペニー)=1.7円で換算すると、200kW以下のクラスでは、タイアブレイクと呼ばれる制限量まではkWh当たり14.6円、それ超える分については3.7円が支払われる。

熱の市場取引は、あまり一般的ではないが、せいぜいkWh当たり10円までとするのが常識だろう。制限量を超える部分の3.7円はともかく、最初のタイアでの14.6円は非常に高い。化石燃料価格の上昇とともに、熱生産分野での木質燃料の市場競争力は確実に高まっているはずだ。これほどの助成が本当に必要なのか。

この疑念をいち早く表明したのが欧州委員会(EC)であった。EU加盟国では、特定のビジネスを優遇するような補助金の支出が禁じられている。RHIはその条項に引っかかった。イギリス政府の当初の原案では、1000kW以上のバイオマスの助成率が2.7ペンス(4.6円)になっていたらしい。ECは、効率の高い大型バイオマスボイラの熱生産に2.7ペンスも払うのは「過剰な補助金」にあたると判断したようである。

結局、ECの判断にしたがって大型への助成率は1ペニーに引き下げられた。イギリスの当局にとっては耐え難い妥協であったであろう。彼らの見解に従えば、大規模バイオマスは最も安いコストで熱を生産する技術であり、これを目一杯普及させることが急務である。そのためにこそ、助成率を高くしなければならない、というわけだ。彼らにもそれなりの戦略的な判断があったのである(脚注)。

脚注)法律の条文では読み取れない裏話や当局の本音を知るには、DECC: Renewable Heat Incentive Scheme Q&A (25.Nov.2011)が参考になる。

家庭部門のRHI

イギリスのRHIは、国の補助事業であり、国の予算の裏付けがないと実施できない。そのため、14年4月から実施される家庭部門のRHIも、13年の7月までにその骨格が固まり、公表されていた。表1の右端に記された助成率は、この公表資料によるものである。バイオマスによる熱供給については、出力規模や燃料の種類に関係なく、12.2ペンス(20.7円)の助成率が適用される。

イギリスの家庭暖房で最も一般的なのは、パイプ配送の天然ガスを使うことである。しかし、国内の約400万の世帯はこの恩恵が受けられず、石油やLPG、電気に頼っているらしい。このうち、都市部の世帯はおおむね電気の空調になっており、再生可能な熱を導入しようとしても、スペースなどの制約でバイオマス燃焼やヒートポンプの設置が難しい。

したがって、RHIの対象となるのは、ガス管の通っていない農村部の世帯である。灯油やLPGによる暖房は、天然ガスに比べて50%も割高になっており、これを再生可能な熱に転換することが急務とされている。当局の推定では、2020年までに75万世帯がRHIの支援対象になるとしている。

それにしても、家庭でのバイオマス暖房にkWh当たり20円の助成というのは、信じがたいほどのレベルである。おそらく、これも戦略的な意味合いが強いであろう。北欧や中欧の諸国では、木質燃料がごく普通に使われているのだが、イギリスではそれほど浸透していない。灯油やLPGに替えて木質燃料を入れることに、まだまだ強い抵抗がある。まず、当初の助成率を思い切って引き上げて、一気に普及させようという魂胆なのだ。木質暖房が、北欧や中欧並みに普及してくれば、暖房コストも次第に低下していく。それに応じて、助成のレートを引き下げ、最終的にはゼロにすることを狙っている。

住宅部門のCO2削減に寄与する木質バイオマス

再生可能なエネルギー源にはいくつかの種類があり、有用なエネルギーに変換する方式にもさまざまなやり方がある。その中から適切な技術を選択することになるが、2010年の『行動計画』でとくに強調された原則は、第一にCO2を確実かつ効果的に削減できること、そして第二にCO2の削減コストが可能な限り低いこと、の二つであった。

イギリスでも、2010年から5MW未満の小規模発電を対象に固定価格買取りが始まっている。ところが、バイオマス発電は上記の原則に照らして除外されることになった。その理由として挙げられているのは、発電効率が低いことと、技術進歩の余地が乏しいことである。

その一方で、バイオマスによる熱供給には強い期待が寄せられている。図1を見ていただきたい。住宅部門で採択できるCO2削減策について、期待できるCO2の削減量(横軸)と、それに必要なトン当たりのコスト(縦軸)が描かれている。これを「限界費用曲線」と称しているのは、コストの低い順に並べられているからである。最もコストがかからないのは、電力消費の少ない家電製品の導入とか、部屋の設定温度を1℃だけ下げるといった省エネ対策で、マイナス値をとる。また壁断熱もコストがゼロ近くになっている。

この後に続くのが、化石燃料を再生可能なエネルギーに置き換えてCO2 を減らす方策であるが、その中ではガス配管のない地域でのバイオマス暖房が最も効果的で、CO2トン当たりのコストは約50ポンドである。太陽光発電で同じ効果を得るには、この5倍のコストがかかり、太陽温水器では8倍にもなる。そのうえ、バイオマス暖房で削減可能なCO2の量はかなり大きく、2000万トンを超えている。イギリス政府が再生可能な熱の供給源としてバイオマスを重要視する理由がここにある。

欧州各国の状況を見ると、風力発電や太陽光発電の普及により、電力の分野では再生可能なエネルギーの比率が着実に引き上げられている。ところが、熱の分野ではおおむねバイオマス頼みになっていて国による違いが大きい。冒頭でふれたように、熱の再エネ比率はイギリスで1%程度だが、木質燃料の普及したオーストリアではこれが30%にもなる。

電気のFITよりもまず熱のFITを

残念ながら、わが日本はイギリスに近い。2012年に始まったFITの制度で、バイオマスの電気はかなり有利な値段で販売できるようになった。とはいえ、木質燃料の場合、本来の力を発揮するのは発電でなく、熱供給においてである。通常のバイオマス発電では、木材の持っているエネルギーの25%くらいしか電気に変えられない。これを熱供給に向ければ、85%かそれ以上が暖房給湯用などの有効な熱に変えられる。これはまた、化石燃料代替によるCO2の削減にもそのまま反映する。1トンの木質チップ(4MWh/トン)を発電に向けると、約0.5トンのCO2が節約できるが、熱供給であればその倍の1トン以上になる。雇用の創出を含む地域経済への貢献においても、大型の発電より分散型の熱供給が勝るとされている。

もちろん、これは発電の排除を意味するものではない。可能であれば、電気と熱を一緒に生産する熱電併給(CHP)がやはり望ましいであろう。ドイツやオーストリア、スイスなどでは変換効率が60%以上になっていないとFITの対象にならない。発電だけでこの条件をクリアするのは無理だから、発電排熱を利用したCHPにするしかないのである。それにバイオマスFITの買取り価格自体が、CHPを前提にして決められているから、熱利用がないと発電そのものがビジネスとして成り立たない仕組みになっている。

わが国においても、将来的にはバイオマス発電の主流はCHPになるであろう。この場合、とくに留意すべきは、CHPプラントの設置場所や出力規模は、熱需要のあり方のよって決められるということだ。5MW、10MWクラスのバイオマス発電所をつくってしまった後で、ここから出てくる膨大な排熱の出口が簡単に見つかるとは思えない。プラントの設計で先行するのは熱利用の計画である。中欧の諸国でこの10年ほどの間にバイオマスCHPが急速に広がったのは木質焚きボイラによる熱供給の豊富な経験があったからであろう。

こうした素地のないイギリスで、電気のFITからではなく、熱のFITから始めたのは自然な成り行きであった。以前のドイツのバイオマスFITでは、CHPには割増し(ボーナス)をつけていたが、これだけでは再生可能な熱の振興策にはならないと思う。イギリスで始まった熱の固定価格買取り制度がこれからどのように展開していくのか、われわれとしても無関心ではいられない。

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