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海外のバイオマス資源にどこまで頼れるか ~国内の放置林に目を向け始めたイギリス~

問われるバイオマスの持続可能性

このところの化石燃料の高騰で、木質エネルギーの市場競争力が世界的なスケールで、にわかに高まってきた。とくに熱供給の分野では、石油や液化天然ガスと対抗できる状況が生まれつつあるし、発電の分野でも石炭火力でのバイオマス混焼が、そのコストパーフォーマンスの良さから急速に普及している。木質バイオマスのこうした利用が順調に増加していけば、化石燃料の消費が減り、温暖化防止にも大きく寄与することになろう。

しかし、その一方でバイオマスには「過剰利用」の不安が常につきまとっている。長いあいだ、木質燃料は人類にとってほとんど唯一のエネルギー源であったのだが、燃料用の木材が樹木の成長速度を超えて伐り出され、森林を荒廃させてしまった例は枚挙にいとまがない。それはかつての日本にもあったし、一部の途上国では今でも「森林消失」の一因に数えられている。

近年よく聞かれる疑念は、木を燃やすことが本当にCO2の削減につながるかということである。大きな樹木の生い茂った森林には、大量の炭素が貯め込まれている。この森林を伐採すれば、それが大気中に一挙に放出され、バイオマスのエネルギー利用によるCO2削減などかすんでしまうかもしれない。また、天然林を皆伐してエネルギー・プランテーションに転換しようという提案にも同じような問題がある。

バイオマスは、一般に「カーボン・ニュートラル」とされている。バイオマスを燃やせば、熱量当たりにして石油と同じくらいのCO2を排出するが、このCO2は、植物が成長する過程で大気中から吸収したものであり、植物が燃やされてCO2が出たとしても、それは大気中に返しただけのことだ。したがって、大気中のCO2濃度を高めることにはならない、というわけである。しかし、森林が伐採された後、農地に転換されたり、林木蓄積の貧弱なエネルギー・プランテーションに変えられたりしたら、放出されたCO2が吸収されないまま大気中に残ることもあり得る。カーボン・ニュートラルの錦の御旗がどこでも通用するとは限らないのだ。

深刻な問題がもう一つある。もともとバイオマスの用途は極めて多様で、食料のような形で人間の生存を支え、また構造用・紙パルプ用木材の給源ともなっている。大量のトウモロコシがバイオ燃料に振り向けられたり、あるいは、木材のエネルギー利用がマテリアル利用を大きく蚕食するようなことがあれば、やはり問題だろう。用途間の適切なバランスが求められる。

英国の気候変動委員会(CCC)が、2011年11月に公表した「バイオエネルギー・レビュー」は、上記の持続可能性の問題を強く意識しながら、低炭素社会を実現するうえで利用できるバイオマスがどれほどあるかを論議した興味深いレポートである。

シマリング・バイオマス発電所の教訓

イギリス政府は、2008年の「気候変動法」で、温室効果ガスの排出量を2050年までに80%削減すると宣言している。この法律とともに誕生したCCCは、いち早く『低炭素社会の構築』と題するレポートで、80%削減の大まかな筋道を提示していたが、今回のレビューはそこで果たすべきバイオマスの役割を明らかにしたものだ。その結論を要約すると次のようになる。

○2050年の削減目標を達成するには、総エネルギー供給の10%をバイオマスに頼らざるを得ない。このレベルなら持続可能な範囲に何とかおさまるが、それでも他の社会的目標や環境保護の要請と衝突する可能性があり、きちんとした制御を必要とする。いずれにせよ10%を超えるのは危険である。

○もう一つ欠かせないのが、石炭火力発電などから出るCO2を回収して地層深くに貯留するCCS(Carbon Capture and Storage)技術の確立で、これなしには80%削減は難しい。バイオマスの場合も熱利用や発電にこの技術を導入することで、「カーボン・ニュートラル」にとどまらず、実質的なCO2吸収(削減)が可能になる。

○長期的には高温の熱を使う産業分野でのバイオマスの役割は大きい。また耐用年数の長い構造材として木材を使用することもCO2を貯留する効果がある。

○発電の分野で重点を置くべきは、既存の石炭火力プラントでのバイオマス混焼と石炭からバイオマスへの燃料転換、および地場調達燃料をベースにした小規模な熱電併給である。バイオマス専焼による通常の発電は効率が悪く、助成の対象にするべきではない。

この最後の論点に関連して、図1のデータが示されている。ここにある発電技術はいずれも「低炭素技術」と呼ばれるもので、風力発電と原子力発電のほか、CCS付の石炭火力、天然ガスの複合発電などが、比較の対象として選ばれている。1ポンド=170円として、バイオマスのkWh当たりの発電コストでみると、石炭混焼が約12円で極めて低いレベルにあるが、バイオマス専焼の新規プラントは、その倍の22~24円になっていて、洋上風力とあまり変わらない。石炭火力の燃料転換はこの中間にあり、バイオマス専焼発電よりも優先順位が高くなっている。

必要なバイオマスの85%は海外から

以上のように、総エネルギー供給の10%はバイオマスに頼らざるを得ないという結論になったのだが、イギリスの保有するバイオマス資源で、これが賄えるとはとても思えない。この国の「再生可能エネルギー・ロードマップ」(2011年)などによれば、2020年の目標値として固形バイオマス発電が40TWh、同じく熱供給が25TWhとなっていて、これに必要なバイオマスの量は前者で2300万トン、後者で600万トン以上、合わせて3000万トンとされている。これは、イギリスで近年消費されている木材の総量にも匹敵する。

しかるに、国内で生産できる固形バイオマスの量は、2020年の時点で約400万トンと推定されており、需要量の15%ほどしか賄えない。残りの85%は輸入である。海外資源への依存度があまりにも高く、リスキーな感じもするが、全世界で流通する木質燃料の貿易量の1割くらいなら、それほどの摩擦なく自国に輸入できると考えられているようだ。かつて七つの海を支配した大英帝国の末裔であってみれば、国産、外国産を区別する意識が希薄なのかもしれない。それ以上に重要視されているのは、可能な限り安いコストで低炭素社会への移行を果たすことなのである。

当然と言えば当然のことだが、木質燃料の需要増加と価格の上昇で国内のバイオマス資源が見直されることになった。この国の森林利用の動向と森林政策に目を転じよう。

木質バイオマスによる地域熱供給

表1にあるように、イギリスの森林面積は310万haほどで、日本の1/7しかない。森林の半分を占める針葉樹林のほとんどは、第二次大戦後に植えられたもので、その多くは企業や国の所有になっている。林の姿はスギ・ヒノキの人工林と似ているが、日本と違って木材生産が活発で、1ha当たりの丸太生産量は5.8m3、日本の1.7m3とは比べものにならない。

残りの広葉樹林は大部分が私有林だが、こちらは近年、製材用材やパルプ材の伐り出しがほとんど見られなくなって、木材生産の戦列から離れてしまった。経済的な利用がなくなれば、森は見捨てられる。向こうではこのような林を”neglected woodland”と呼んでいる。核心を突いた呼称だと思う。しかし今や、その見捨てられた広葉樹林にも熱い視線が注がれるようになった。

イギリスの林業統計によると、燃料用木材の供給量は今世紀の初頭あたりまで、20万トン程度の低いレベルにとどまっていた。それが、ここ数年のあいだに急増して、今では140万トンのレベルに達している(図2)。前回述べたように、RHIの導入で非家庭部門でのバイオマス熱供給が大幅に増え、それが燃材供給に反映したと見てよいであろう。14年4月から家庭部門でのRHIがスタートする。木質燃料の需要が、さらに増加することは間違いない。こうした国内の熱需要に対しては、何とか自国の資源で賄いたいというのが当局に意向のようだ。

ところが、国内の森林では、針葉樹林が建築用材の生産などで目一杯使われていて、増産の余地は小さい。エネルギー用に向けられるのは、用材の伐採に伴って発生する梢端や枝条くらいのものだ。資源的なゆとりが大きいのは、やはり広葉樹林である。かつては木質燃料の重要な生産基地であり、高級な造作材や家具材の生産も行われていた。それが、今では木材の伐採がほとんど見られなくなって、樹木が伸び放題に生い茂っている。

とはいえ、このような森林から燃料用の木材を伐り出すのは容易なことではない。木材を継続的に生産する森林管理の体制がすっかり崩れているうえに、材を搬出する路網も未整備のままである。RHIのお蔭で、バイオマスの熱供給が有利になったとしても、放置広葉樹林からの伐り出しが、自動的に増えるという保証はないのだ。

イングランドの放置林活性化対策

これまで、イギリスと言ってきたのはUnited Kingdomのことで、この中には、イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの4つの地方(国)が含まれる。以下に取り上げるのはグレートブリテン島の中・南部を占有するイングランドでの話だが、ここでは、Woodfuel Woodland Improvement Grant(WF WIG)と呼ばれる助成政策が展開されている。この補助金政策の直接の狙いは、放置私有林を対象にして燃料用木材のサプライチェーンを確立することにある。しかし、それだけでなく、長いあいだ見捨てられてきた森林を、再び木材生産の戦列の戻すという長期の視点があることに注意したい。つまり、木質燃料だけでなく、構造用木材などすべての林産物を視野におさめると同時に、森林が本来持っている多面的な価値を高めようとしているのだ。

そこでは、次のような事業が助成の対象となっている。

  1. 経営改善:木質資源の現況調査、木材や林産物のマーケティング、放置林の経営と木材収穫の監督が対象で、標準経費の60%が助成される。
  2. 路網整備:アクセスの困難な樹林地において、木材を持続可能な形で経済的に搬出すべく、路網の建設、補修、改善を実行した場合、その経費の60%が助成される。

燃料用木材のサプライチェーンの構築において、前提とされているのは50kWから5MWのローカルな熱市場である。効率的で質の高い熱供給システムの普及を図りながら、木質エネルギービジネスを通して地域の雇用と所得を増やすとしている。

似た者同士

イギリスと日本は、ユーラシア大陸の西端と東端に位置する島国である。両者とも海運の便に恵まれ、貿易を通して国の経済を成り立たせてきた。ともに木材の輸入量は膨大で、木材の自給率は低い。木質バイオマスのエネルギー利用においても、北欧や中欧に比べると相当な後れを取っている。大量の輸入チップを石炭火力に投入してCO2を大幅に減らすというのは、いかにもイギリスらしいやり方だが、日本もいずれ同じ道を選ぶだろうと言われている。

両国とも海外産木材の流入で、国内の森林では木が伐られなくなって低利用のまま放置される森林が増えてきた。イギリスの場合は、広葉樹の私有林がその典型だが、日本ではそれにとどまらず、針葉樹の人工林にまで管理放棄の波が及び始めている。地域にある未利用の木質資源をベースに、エネルギーの地産地消を実現するというアイデアは確かにすばらしい。欧州にはすでにいくつもの前例がある。ただ残念なことに、オーストリアやドイツと違って、人びとは木質燃料の近代的な使い方に慣れていない。また、山から燃料用の木質バイオマスを下してくるサプライチェーンも未整備のままである。イギリス政府が打ち出した再生可能な熱への助成策(RHI)や、イングランドで始まった放置林の改善助成(WF WIG)などは、独墺の常識からするといささか常軌を逸した政策に見えるだろう。しかし、イギリス(および日本)のような状況の下では、思い切ったことをやらないとエネルギーの地産池消は難しいということかもしれない。

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動画:木質バイオマスエネルギー ~日本の森林を活かして 地球温暖化を救え!~