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森林経営とバイオマス利用のカーボンインパクト

 イギリスの森林研究所(Forest Research)は、同国のエネルギー・気候変動省(DECC)の依頼を受けて、木質バイオマスのマテリアル利用とエネルギー利用が大気中の温室効果ガス(GHG)バランスにどのような影響を与えるかを包括的に分析している。分かりやすく言えば、次のような設問に答えることであった。
 ① 樹木を森林に残して成長させるか、それとも伐採して用材あるいは燃料として
  利用すべきか
 ② 収穫した木材をマテリアルとして利用すべきか、それとも燃料として使うべき
  か
 ③ 国内の木材を使って期待される便益が最大になるような選択肢はどのようなも
  のか
 ④ 国産材ではなく輸入木材を使った場合、そのインパクトはどのようなものか
 この設問に答えるべく、代表的な森林経営のバターンをいくつか設定したうえで、木材利用のさまざまなシナリオを準備し、ライフサイクル・アセスメント(LAC)の手法を用いてGHGの動態が定量的に分析されている。今回は上記の②の設問に焦点を合わせ、マテリアル利用とエネルギー利用の競合問題にどのような決着がつけられたか、見てみよう。

無収穫の森林におけるGHGの経年変化

 本題に入る前に基礎的な事柄を整理しておきたい。図1は森林経営のカーボンインパクトを説明するときなどに、よく使われる模式図だが、とりあえず最上段のグラフに注目しよう。縦軸は1ヘクタールの森林に貯め込まれるGHGで、CO2換算のトン数で表示されている。横軸のゼロの時点で針葉樹(スプルース)の植林が行われる。年数が経過するにつれて木が大きくなり、樹木に含まれるGHGは急速に増えていく。
 サンプルとなった林地は泥炭性の土壌であるため、植林の時点で相当な量の還元炭素が貯め込まれていた。還元炭素というのは植物の光合成を通して大気中のCO2から取り込まれた炭素のことである。植栽木が茂ってくると土壌中のGHGも増加する。当然のことながら土壌表面には落葉落枝などの有機物(リタ―)も積もり始める。
 樹木を収穫しないで100年くらい自然の成長にまかせておくと、森林の保有するGHGの総量は1,800トン(炭素量でいえば492トン)にもなるが、このすべてが還元炭素であるから、その分だけ大気中のCO2が減ったことになる。100年を過ぎると森林は一種の「定常状態」に入りGHGの純増はもはや見られない。

収穫が繰り返される森林の場合

 図の中段にあるのは、この森林が35年周期で皆伐されて、そこから出る木材が利用されるケースだ。木が伐採された時点で樹木のGHGはゼロになり、土壌中の炭素も減少するが、再植林がなされれば再び増加に転じていく。この間の間伐や主伐で出てくる木材のうち太い丸太は製材に、細い小丸太はボード類の製造に、そして末木枝条は燃料に向けられる。
 カーボンインパクトの計測で重要なのは、こうした木材製品や燃料の「寿命」と「仮想代替物(counterfactual)」のGHG排出量である。丸太類の寿命には指数関数が用いられ、製材品の滞留期間は60年だが、95%の寿命が尽きる減衰期間は30年とされた。小丸太は滞留期間が30年、減衰期間は20年だ。燃料用バイオマスについては1年以内に直線的に減衰すると仮定されている。木製品の寿命が長くなれば、そこに含まれるGHGも大気中には放出されないで、木材に残ることになろう。図の濃茶の部分「木製品の炭素」がそれである。
 さらに建築などの構造物に木製品が使われれば、製造により多くの化石燃料を必要とする鉄鋼やセメント、プラスチックの消費を減らすことができる。また化石燃料の代わりに「カーボンニュートラル」な木質バイオマスを使えば、これまたGHG排出の削減につながるだろう。図の薄い茶色の部分、つまり「代替炭素」がそれにあたる。
 森林の樹木に貯められる炭素はいずれ上限に達して定常状態に入り、それ以上は増えない。悪くすると火災にあって無に帰してしまう。しかし持続可能な形で森林から木を伐り出して、構造材として長く使用したり、あるいはエネルギー源として上手に活用すれば、化石燃料の消費を末永く持続的に減らすことができる。その限りで、木材を持続的に収穫して利用する森林経営は、無収穫の森林管理よりずっと好ましいのである。
 ただ伐期が比較的短い35年では製材用の丸太はあまり採れず、小丸太と燃料用バイオマスの収穫が多くなるであろう。その最たるものが「エネルギー・プランテーション」で、ヤナギやポプラ、ユーカリなどの早生樹種を3~5年の超短伐期で回転させ、専ら燃料材だけを収穫する方式である。
 逆に最下段のグラフは伐期80年の構造材狙いの森林経営であり、生産される丸太の径級別の比率がまったく違ってくる。できるだけ多くに還元炭素を長期間木材製品に中に貯留することが狙い目となる。

多様な木材利用を勘案した「生産シナリオ」

 DECCの要請で始まった調査事業では、イギリスの代表的な森林のタイプとして、①すでに木材収穫が行われている針葉樹の経営林、②同じく広葉樹の経営林、および③広葉樹の放置林(‘neglected’forests)の三つが措定された。①の森林タイプは前出の図1に例示されているものと同じであり、以下この針葉樹経営林に絞って話を進めよう。
 すでに触れたように、伐期が変わると森林から出てくる材の径級分布が変わり、したがって期待される生産物の構成も変化するわけだが、伐期が同じでも丸太の振り向け先は多様である。そのため針葉樹経営林の伐期を60年に固定して282もの「生産シナリオ」がつくられた。この中から6つのシナリオを抜き出して例示したのが表1である。
 製材用丸太(皮付き直径18cm以上)の幹材は原則として製材工場に送られるが、材長が短いものや端材などはボード類の製造に向けられている。また小径丸太(皮付き直径7cm以上)の幹材はパレットやフェンスとして使われ、端材の行き先はボード類か燃料である。樹皮はすべて燃料になり、枝条については半分だけが燃料になると仮定されている。

GHGの絶対排出量と相対排出量

 森林経営におけるGHGの吸収や排出は、経時的に見ると鋸の刃のように波打っている(図1参照)。このままでは比較が難しい。そこで20年、40年、100年というタイムスパンでGHG排出の総量を抑え、その年平均値で比較するという方法が採られた。絶対排出量というのは次の4者の合計値である。
 ① 森林(土壌、リタ―、樹木)の炭素ストックの変化
 ② 木製品に含まれる炭素量の変化
 ③ 森林作業、木材の収穫と輸送、木材の加工にかかわるGHGの排出
 ④ 木製品の最終処理に伴うGHGの排出
 上記のうち①と②で炭素ストックが減れば排出でプラスの値を取るが、逆に増えた場合は「吸収」でマイナスの符号が付く。③と④ではマイナスになるケースは考えられない。
 次に相対排出量というのは、絶対排出量から「仮想代替物」のGHG排出量を差し引いた値である。後者の値が大きければ大きいほど、相対排出量は小さくなってマイナス値をとることが多くなる。表1の右端にあるのが100年スパンの年平均相対排出量で、マイナス値の大きいものほど好ましいシナリオだ。
 この表でマイナス値が一番大きくなるのは、太い丸太から製材品を取り、あとはすべて破砕してパーティクルボード(PB)の製造に回すケースである。イギリスの場合、平均するとPBの70%がリサイクル材からつくられている。木造建築に使われた製材品は、建築廃材となった段階でPBに変身し、燃料として燃やされるのはPBとしての寿命が尽きたときである。こうしたカスケード利用を重ねれば重ねるほど、相対排出量のマイナス値は大きくなる。
 逆にマテリアル利用を何もやらずに、太い丸太までエネルギー利用に向けてしまうのは、最も愚かな選択である。マテリアル利用があれば、木製品の寿命に応じて炭素貯留期間が引き伸ばされるし、製造に化石燃料を多く要する鉄鋼やセメント、プラスチックの代替で、仮想代替物のGHG排出量が相当大きくなる。だが、エネルギー利用だけでは化石燃料の炭素代替しか期待できず、相対排出量はどうしても小さくなってしまう。
 このように考えれば、前回に見た「木をそのまま燃やすのは先進国のやり方ではない」というドイツ産業連盟の主張にも十分な根拠がある。

動画:木質バイオマスエネルギー ~日本の森林を活かして 地球温暖化を救え!~