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木質バイオマス発電のFITは両刃の剣だ

 2012年7月にスタートしたFITの制度が、国内の木材利用にどのような影響をもたらすのか、期待半分、懸念半分で見守ってきたが、4年目を迎えた今、ようやくその影響が少しずつ表に出てきた。とくに未利用木材の電気に対する買取価格が比較的有利に設定されたために、相当数の発電事業者がこの制度に参加することになり、燃料用の森林チップの需要が押し上げられた。そのお蔭で、日本林業の積年の悪弊ともいうべき「伐り捨て間伐」の類が急速に減っている。この限りで木質バイオマスFITの導入は所期の目標を達成しつつあると見てよいであろう。
 その一方で森林から下りてくる小径丸太の価格上昇が見られ始めた。紙パルプ、合板、製材などマテリアル利用での原木調達に影響が出てくるのは当然である。発電以外のエネルギー利用も、使う木質原料が共通しているから、影響をもろに受ける。木質バイオマスFITは木材利用の既存の秩序を根底から揺るがす可能性があり、まさに「両刃の剣」なのだ。顕著な効き目とともに副作用も大きい劇薬と言っていい。この副作用をなるべく少なくするにはどうすればよいか。それが当面の最大の課題である。

目を見張る効果

 資源エネルギー庁の公開資料で、木質バイオマス発電のFIT認定(新規)状況を見ると、2015年6月末の時点で、116件、213万kWとなっている。このうち電力の買取が始まっているのは、30件、20万kWにとどまっており、発電量が本格的に増えてくるのはこれからだろう。
 しかしそれでもFIT制度の導入は国内の木材需給や木材価格にさまざまな影響を与え始めている。とくに筆者が目を見張ったのは、伐り捨て間伐が急速に減ってきたことだ。伐倒されたまま搬出されないで山に放置される「未利用木材」が年に2,000万立方メートル発生していると言われ、これの有効活用を主眼としてkWh当たり32円の買取価格が決められた。
 その狙い通りに、放置木材はあっという間に見られなくなった。バイオマスプラントの出力規模に関係なく、生産された電気が32円で無制限に買ってもらえるとなれば、比較的規模の大きい発電事業の内部収益率は相当に高くなる。燃料用チップとその原料となる小径丸太の奪い合いが激しくなるのは当然の成り行きであった。
 ただ残念だったのは、低質材の需要が増えても、供給側がそれにうまく対応できず、早々と供給体制の不備をさらけ出してしまったことである。FITへの参画を狙う事業者の皆さんも最初のころは、それほど苦労しないで燃料用の小径丸太を集めていた。というのも山側では人工林の主伐・間伐に伴って発生する低質丸太の適当な出口がなく、その処分に困っていたからである。だがこの種のストックは予想外に小さかった。発電を始めて1、2年もしないうちに毎月5,000トン前後の森林チップを確保するのに苦労する事業者さんも出てきた。
 2014年に入ると、小径丸太の1立方メートル当たりの価格が上昇しているという情報があちこちから聞こえてくるようになる。それと同時に、紙パルプ業界や針葉樹合板業界からは、原木価格の上昇・入手難を訴える苦情が出始めた。発電に使われる森林チップの量がまだそれほど多くないのに、早くもこのような事態が起きている。
 国内の森林には60億立方メートルもの林木蓄積があり、その年間の成長量は2億立方にもなる。供給不足の原因は資源的な限界によるのではなく、木材供給体制の不備にあると言わざるを得ない。

径級別丸太価格の動向

 前項の記述は筆者の見聞情報をもとにした主観的なものである。できることなら、客観的なデータに基づいて、木質バイオマスFITが国内の木材市場に与えつつあるインパクトがどのようなものか明らかにしたい。まだ予備的な分析しかできていないが、FITの発足以来、径級別の製材丸太価格や、合板用、パルプ用の丸太価格がどのように動いてきたかを見ておこう。
 使用するデータは農林水産省が行っている木材流通統計調査の中の「素材・木材チップ価格調査」で、毎月の統計値(都道府県別)は同省のホームページに月ごとに公表されている。この中から6種類の素材(丸太)を取り上げ、月別の価格をグラフにしてみると、図1のようになる。製材用スギ丸太の価格を4つの径級に分けて細かく調査されるようになるのは13年1月からであり、ここを起点に15年8月までのデータを取った。
 図1によると、製材用素材の価格は住宅建設の動向などに左右されて、かなり特異な変動パターンを取っているが、径級の細いものほど価格の上昇率が高いように見える。これに対してパルプ用丸太は一貫して緩やかな上昇を続けてきた。6種類の丸太の間で、上昇倍率にどれほどの差があるのか、グラフ横軸の最初の6ヵ月の平均と最後の6カ月の平均をとって比較したのが表1である。
 13年1月以降、最も上昇倍率の高いのは製材用の小丸太(直径8~13cm)で1.31倍、次いでパルプ用丸太の1.20倍である。この両者は発電用の燃料となる小径丸太とまともに競合する可能性が高い。FIT対応の発電プラントの増加で価格が大きく上昇したと見ることもできるだろう。しかし発電以外のエネルギー利用も何がしか効いているであろうし、製材用小丸太の場合はもっと別の要因が作用しているのかもしれない。
 実のところ、われわれが一番知りたいのは燃料チップ用の丸太価格だが、それは農水省の調査には含まれていない。ただ仮に、燃料用丸太がパルプチップ用丸太の価格を押し上げているとすれば、燃料用丸太はパルプ用丸太と似たり寄ったりの価格で取引されていると見てよいのではあるまいか。

地域差の拡大するパルプ用丸太価格

 パルプチップ用の針葉樹丸太は、製材用や合板用の小径スギ丸太に比べて価格が安く、平均値では半値くらいになっている。時系列的には比較的穏やかな上昇傾向を示しているが、調査対象となった17の道県について個別的に見てゆくと、14年に入って価格が急伸する個所がいくつか出てくる。そのため地域ごとの価格差が拡大した。
 図2はパルプ用針葉樹丸太価格の散らばり具合を示す散布図である。横軸に13年10月の価格を、縦軸に15年7月の価格をとった。この21カ月の間に、福島を除くすべての道府県で丸太価格が上昇し、全国平均では1.23倍になった。図上に挿入された斜線の左上に位置する府県では、全国平均を上回る価格上昇があったことになる。17道府県のうち平均価格が5,000円を超える地域が70%になり、7,000円台、8,000円台の地域も出始めている。
 燃料チップ用の丸太価格が上記のパルプ用丸太価格に置き換えられるとして話を進めよう。バイオマス発電施設が設置された地域で丸太価格が高くなっている可能性が大きい。現在、丸太価格の安い地域でも大型の発電プラントが設置されれば、丸太価格は突発的に上昇する。また他地域に所在する発電プラントの集荷範囲に組み込まれる場合にも、価格上昇は起こり得る。大型の発電プラントが各地に設置されるようになれば、こうしたメカニズムで小径丸太の価格は引き上げられ、平準化していくことになるであろう。

マテリアル利用との競合を激化させないための二つの方途

 小径丸太の価格上昇は国内の森林経営にとって、またとない朗報である。毎年2,000万立方メートルもの伐り捨て材(未利用木材)が毎年発生していたのも、小径丸太の出口がなかったかである。ようやく伐り捨て間伐が減少し、小径材の価格が上がり始めたのである。以前このシリーズでも紹介したように、2000年にFITをスタートさせたドイツでも同様の現象が起こり、州有林などでの経営収支が大幅に改善された(脚注)。
 しかし紙パルプ、合板、製材などマテリアル利用の業界からすれば、原木価格の値上がりであり、悪くすると必要な原木が入手できなくなるかもしれない。これは極めて深刻な事態である。バイオマス発電が、CO2削減や脱化石燃料に役立つとしても、木材のマテリアル利用を犠牲にしてよいということにはならない。ドイツでは木材産業連盟(VHI)を中心にエネルギー利用への反発が異様なまでに高まった。それが一因となって大型発電(5MW以上)の買取価格が引き下げられたと私は見ている。
 日本の場合、2,500万ヘクタールの森林のうち、路網が整備されているのは一部だけである。高度成長期の1965年に造成された人工林はすでに50年生になっているが、木材生産の戦列に組み込まれないまま放置されている林分が予想以上に多い。森林資源のモニタリング調査で見る限り、単位面積当たりの林木蓄積量や成長量が相当なレベルに達している。にもかかわらず、森林1ヘクタール当たりの木材生産量はドイツの1/6くらいしかない。
 木材生産の場が一部の人工林に限られているのだ。このような状況の中で発電用チップの需要が急増したらどうなるか。原木の奪い合いが激しくなって価格が吊り上げられれば、共倒れという悪夢を招来するかもしれない。
 これを回避する第一の方途は、放置された人工林にしっかりとした路網を入れ、木材生産の対象領域を外延的に拡大することである。そうすることで、マテリアル利用に向けられる木材の供給量が確実に増え、それに随伴してエネルギー用のバイオマスも一定量出てくるはずだ。ただし人工林というのは製材用丸太の生産を狙って造成されたものであり、ここから出てくる木質燃料はそれほど多くない。
 もう一つの方途は、人工林以外の天然性広葉樹林などに目を向けることだ。これらの広葉樹林はかつて薪炭林として利用されてきたが、そうした利用がなされなくなって、すでに半世紀が経過し、伸び放題になっている。木材のエネルギー価値が上昇したことで、こうした雑木山も「宝の山」に変わりつつある。将来的にはこれが木質燃料の主要な供給源になるのではあるまいか。詳しくは稿を改めて論じることにしたい。

脚注)拙稿「気がかりな森林チップの価格動向」環境ビジネスオンライン、2014年1月20日付。

動画:木質バイオマスエネルギー ~日本の森林を活かして 地球温暖化を救え!~