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木質バイオマス先進地域の取り組み:岩手県住田町

 もう10年も前の話だが、2004年1月20日に盛岡市で「木質バイオマスサミット in いわて」が開催された。これは当時の岩手県知事増田寛也氏が青森、秋田、和歌山、高知の各県知事さんに呼びかけて実現したもので、スウェーデン・ベクショウー市の市長さんも招かれていた。全国各地から約900人の参加があったという。その時に出された「宣言」には次のような文言が見える。
 「本日、私たちは、<みどりのエネルギーが日本を変える>をテーマとした全国初の木質バイオマスサミットに参加し、木質バイオマス利用の重要性を改めて認識するとともに、これら関連産業の振興を通して、地域経済の活性化と雇用の拡大を図ることを決意しました。このサミットの開催を契機にして、地域のエネルギー自立が促進されることになれば、地域から日本を変える歴史の転換点として記憶されることになるでしょう。」
 朗々と読み上げられる宣言を耳にして会場は異様なほどの高揚感に包まれていた。誰もが新しいうねりの到来を予感したと思う。ところがその後、知事さんたちを集めたこの種のサミットは一度も開かれていない。増田氏が岩手県知事を辞められて、旗振りがいなくなったからであろうか。それでも心強く思うのは、市町村のレベルで木質バイオマスによるエネルギー自立を目指す動きがあちこちで出てきたことである。
 国内のそうした事例をこのシリーズでも折に触れて紹介することにしたい。10年前にサミットを主催した岩手県にも格好の事例がある。県東南部にある住田町だ。

ペレットボイラによる木造幼稚園の床暖房

 盛岡でのサミット集会のあと、エクスカーションがあって私たちは住田町を訪れた。ここには気仙大工の伝統があり、第三セクターによる木造住宅の産地直産を80年代の前半から手掛けていた。われわれはまず「木工団地」に案内され、製材工場や集成材工場、プレカット工場などを見学したように思う。それから木造で新築された世田米保育園に行き、ペレットボイラによる床暖房を見せてもらった。驚いたことに、1月半ばの寒い時期だというのに、板張りの床の上を子供たちが裸足で走り回っている。何とも温かで微笑ましい光景であった。保育園の先生がたも手間がかからないと喜んでおられた。朝出勤してボイラのスイッチを「オン」にし、帰るとき「オフ」にするだけで済むからである。
 この時の鮮烈な印象が消えずに残っていたのであろう。今年の8月、別件で岩手県に出向く機会があり、住田町に立ち寄ることを思い立った。早速、この町と縁の深い沢辺 攻氏(岩手大学名誉教授)に相談したところ、同行してもらえることになり、興味深いお話をいろいろと聞くことができた。今回はその報告である。
 くだんの保育園は現在も80余名の子供たちで賑わっていた(写真1)。ペレットボイラのほうも10年前と同様にきちんと機能していたが、このボイラが導入される経緯を沢辺氏から聞いてちょっと驚いた。北米で開発された木質ペレット製造の技術をいち早く取り入れ、広葉樹の樹皮(バーク)を使ってペレットを製造したのは岩手県の葛巻林業である。バークペレットは灰分が多いために、燃焼時にトラブルを起こしやすい。そこで浜松にあるニ光エンジニアリング㈱がバークペレットでも燃やせる日本独自のボイラを開発した。80年代前半のことである。
 ところがその後石油価格の下落もあって、ペレットは市場競争力を失っていく。二光のペレットボイラも販売中止を余儀なくされていた。そこへ住田町からの注文が入り、鋳型を作り直して製造を再開するのである。写真1のボイラはまさにその復活のきっかけとなった記念すべき製品であり、同社の納入実績(ホームページ)に記されている266台の中では最古参だ。
 現在、販売中の製品に比べると、確かに野暮ったい。新しいシリーズでは、図体がずっとコンパクトになっているし、缶体は溶融アルミニュームのメッキ処理がなされているから耐久性が高まっている。制御盤もアナログからデジタルに変わり、扱いやすくなった。国産のペレットボイラも比較的短い期間内にどんどん改善されているのである。2001年に設置された古いモデルを見ながら、そんなことを実感した。

耐震構造の木造新庁舎とペレットによる冷暖房

 昨年の7月に完成した町役場の庁舎(写真2)は、住田町の新たなランドマークと言うにふさわしい。木造2階建てで、延べ床面積は2,883平方メートル。耐震安全性の分類からすると耐震基準値Ⅰ類(1.5)で、構造的には「ラチス耐力壁」と「レンズ型トラス梁」という新しい工法が使われている。ラチス耐力壁というのはスギの集成材をひし形に連続して組んだもので、耐震性が高いうえに光と風を取り入れることができるという。またトラス梁というのは3本の木柱(カラマツの集成材)を組み合わせた大きな梁で、広い空間を柱無しで支えることができるそうだ(写真2にあるレンズ型の屋根の部分)。
 いずれにしても、このような木造の建築物を目にしたのは初めてのことで、一瞬息をのんだ。東日本大震災の過酷な経験が木材の新しい使い方を生み出しているのかもしれない。木構造に使われた木材の大部分は地元産で使用量は710立方メートル、当町の木工団地の工場がその加工にかかわった。
 新庁舎の空調は矢崎エナジーシステム㈱製の木質ペレット焚きアロエース3台が担っている。木質バイオマスによる冷暖房システムとして比較的早くから普及していたのは、ペレットやチップを給湯用のボイラで燃やして70~90℃の温水をつくり、この熱で吸収式冷水器を駆動させる方式であった。
 これに対して上記のアロエースは直接燃焼による冷暖房システムで、エネルギー効率は約2倍に高まっている。ただ直火焚きでは、燃焼の安定性や制御性に優れた燃料でないと使えない。現在のところ、チップはだめで、ペレットしか燃やせないのはそのためである。

特別養護老人ホームのチップ焚きボイラ

 住田町ではつい最近、特養老人ホーム新すみた荘(社会福祉法人鳴瀬会が運営)が完成して、入居が始まった。延べ床面積は約5,000平方メートルで、入所定員は80名(長期70、短期10名)、デイサービス利用定員は33名の本格的な施設である。ここには暖房給湯用のチップ焚きボイラ(200kW)が3基入っている(写真3)。
 「エコモス」と呼ばれるこのボイラは、岩手県の肝いりで2003~04年度に開発されたものだ。開発に当たったのは、盛岡市に本拠のあるオヤマダエンジニアリング社で、県の工業技術センターと林業技術センターの協力を得ている。
 沢辺氏によると、岩手県が独自のボイラの開発に踏み切ったのは、生チップを燃やせる既存のボイラがなかったからである。当時、ボイラ燃料として一般的に使われていたのは乾いた建築廃材であり、生木のチップを乾燥して使うという習慣がなかった。しかし生チップをそのまま燃やせるボイラをつくれというのは、いささか無理な注文と言うべきである。チップの水分が多いと、どんなボイラでも本来の性能を発揮することはできない。欧州産の小型ボイラの変換効率が高いのは比較的乾いたチップを使っているからだ。
 わが国でも次第にこのことが分かってきて、乾燥チップが出回るようになった。そのためにエコモスの変換効率も高まっているとのことだ。ボイラの基本的な構造は変わっていないが、燃料の特性に応じた調整がうまくいくようになったのである。「エコモス」はこれまでに岩手県を中心に32基が設置されているが、経験を積み重ねることでさらなる改善が期待できると思う。

木材加工場の残廃材をベースにしたエネルギービジネス

 住田町役場の入口には「森林・林業日本一の町づくり」と大書した木造の大きな看板が立てられている。林業・林産業の盛んな場所柄、毎年大量の林地残材や工場残廃材が発生する。これをエネルギー源として利用しようという機運が生まれるのは、ごく自然な成り行きであった。2000年度には「森林エネルギーのまち」を実現すべく、地域新エネルギービジョンが策定されている。
 まず着手されたのが、木質バイオマスの産業的利用であった。現在、木工団地内の製材工場、集成材工場、プレカット工場に木材の乾燥施設が全部で31基入っているが、それらに蒸気を供給しているのが木屑焚きボイラ(蒸気発生量8t/h)である。
 またプレカット工場にはかんな屑(プレーナ屑)を原料とする木質ペレットの製造施設が03年に付設された。かんな屑であれば、破砕と乾燥の工程を省くことができ、最良のペレット原料とされている。14年度のペレット生産量は572トン。ここでつくられたペレットは、世田米保育園の暖房や町役場の冷暖房に使われている。さらに町は独自の助成制度でペレットストーブの普及に努めてきた。14年度末までに家庭や事業所、公共施設に設置された台数は162に達する。
 以上に述べたように、「森林エネルギーのまち」をめざす住田町は、この10年着々と実績を積み上げてきた。現在までのところ、木材加工工場から排出される残廃材がベースになっている。特別養護老人ホームで使われるチップも当面は製材工場から出る背板で賄われるようだ。しかしいずれは、森林伐採に伴って発生する林地残材を活用して、木質エネルギービジネスのさらなる拡大を目指すことになろう。可能性はまだまだ残されている。

付記 今回の調査では、同行していただいた沢辺氏と、住田町の関係者の皆さんにいろいろとお世話になった。とくに記して感謝の意を表したい。また本稿で使用した写真はすべて住田町林政課から提供していただいたものである。

動画:木質バイオマスエネルギー ~日本の森林を活かして 地球温暖化を救え!~