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放射能に汚染された木質燃料と燃焼灰の取扱い

チェルノブイリ原発事故の教訓

放射性セシウムに汚染されたチップやペレット、薪などの木質燃料を燃やすと、放射性物質の濃縮が起こり、燃焼灰の線量が驚くほど高くなることがある。そのため、東北や関東の一部の地域では木質バイオマスのエネルギー利用がかなりの制限を受けるようになった。しかも、その制限の基準が必ずしも明確でないために、各地でさまざまな混乱を招いているように思う。

同じような混乱は、1986年のチェルノブイリの原発事故のあと周辺の諸国で生じていた。この事故でヨーロッパに降下したセシウム137は、64テラベクレルと推定されているが、そのうちの約7割は、ロシア共和国、ウクライナ、ベラルーシの3か国に集中する。これ以外で目立つのは、スウェーデン、フィンランド、オーストリアなどの諸国で、各国とも100万ha前後の土地に平方メートル当たり3.7~18.5万ベクレルが沈着した。

後者の3か国は、木質エネルギーの先進国である。放射能で汚染された木質バイオマスの燃焼実験が繰り返し行われ、放射性物質の濃縮の様相が、かなり明らかになっているし、それらのデータをもとに燃焼灰の取り扱いについても、一定の基準が決められている。また、国際原子力機関(IAEA)の専門部会でもデータの集積と分析が行われてきた。とくに、2006年に刊行された包括的なレポート『チェルノブイリ原発事故の環境への影響と対応策~20年の経験~』は参考になる。

ところが不思議なことに、日本ではヨーロッパのこうした状況があまり紹介されていない。というより、受け入れを断固拒否する傾向さえ見られる。たとえば、IAEAの報告書などは、原子力発電の正当化を目的としているから、データの収集と解釈に偏りがあるという理由で一蹴されてしまう。一般のジャーナルも、こうした批判が怖いのであろう。筆者自身、ある月刊誌に頼まれて原稿を送ったところ、公表するといろいろな誤解を招くから取り下げてほしいと言われたこともある。問題の文章は一部修正して別の雑誌に掲載された(図1の出所を参照のこと)。今回は論議の多い放射能汚染の話をしよう。

放射性セシウムに阻まれる被災地支援

今となっては旧聞に属するが、秋田県にある能代バイオマス発電所は、震災後の2011年5月から被災地支援として、岩手県奥州市の産廃業者の木質チップを購入して燃料にしていた。ところが、奥州市のごみ焼却施設の灰から㎏当たり1万ベクレルを超える放射性セシウムが検出されたため、能代の発電所でも燃焼灰を3か所で採取し、民間の調査会社に分析してもらったところ、1か所の灰から3,300ベクレルという値が出たため、「放射性物質が含まれている疑いが強い」として、8月からこの産廃業者からの購入を中止したという。

これを報じた新聞記事には、灰の出所が明記されていないが、能代バイオマス発電所には、マルチサイクロンとバグフィルタの二段構えの除塵装置があるから、灰のほうもボトムアッシュ、サイクロン飛灰、フィルタ飛灰の三種類が出てくる(図1)。3,300ベクレルというのはフィルタ飛灰であって、ボトムアッシュとサイクロン飛灰はそれぞれ133と490ベクレルしかない。

フィルタ飛灰で線量が高くなるのは、セシウムがカドミウムや鉛などと同様の揮発性重金属であるからだ。高い燃焼温度で気化し、少し冷えると凝縮して微細な粒子に変わる。そのため、ボトムアッシュやサイクロン飛灰のピットにはあまり落ちないで、圧倒的部分がフィルタ飛灰として出てくる。この値が高いということは、バグフィルタが効率よく放射性物質をつかまえていることの証左でもある。何トンものバイオマスに含まれていた相当な量の放射性物質が、わずかな量の飛灰の中に閉じ込められたのだ。この高濃度のフィルタ飛灰は、いずれ産業廃棄物として処理されるわけだから、汚染されたバイオマスの燃焼は除染にも役立つことになる。このバイオマスをそのまま放置しておいたら、放射性物質のほとんどはいつまでも同じ場所にとどまるだろう。 能代発電所としては、線量の高いチップを拒むのではなく、「うちの発電所は高性能のバグフィルタが装備されていて、放射性セシウムをしっかりとつかまえてくれる。チップの線量が多少高くても、どんどん持ってきてください」と胸を張って言えたのではないか。

燃料用のセシウムはすべて灰に移行するか

ただし、ちょっと心配だったのは、放射性物質の一部が排ガスとして、煙突から外に漏れていないかどうかであった。カドミウムのような重金属の場合、一部はサイクロンやバクフィルタなどの除塵装置をすり抜けて大気中に出てしまう。幸いこの心配を打ち消してくれる論文が見つかった。

スウェーデンのルンド大学の放射能の専門家たちは、チェルノブイリの事故直後にかなり大がかりな燃焼試験をサンドビケンの地域熱供給プラントで行っている。この地域は、スウェーデンの中でも沈着量の非常に多い地域で、表1にあるように、燃料のピート(泥炭)自体が放射性セシウムにかなり汚染されている。サイクロン飛灰やフィルタ飛灰に至っては何万ベクレルのオーダーだ。

 表2には、燃料に含まれていた放射性セシウムの行方が示されている。10%強の「行方不明」というのは、計測上の誤差、燃焼装置への付着などによるものと思われるが、放射性物質の大部分は飛灰に移り、外部に出ている量は1%以下で、きわめて少ない。バグフィルタ(ないしは電気集塵機)がついていれば、ほぼ完全に捕捉できる。

スウェーデンにおける燃焼灰の処理規則

冒頭で述べたように、スウェーデンに沈着したセシウム137の線量は3.7~18.5万ベクレル/m2の範囲であった。木質チップとピートにも、かなりの量の放射性セシウムが付着していたことになるが、線量が高いからと言って、エネルギー利用を断念することはなかった。その代り、燃焼灰の取り扱いについては次のようなルールが定められている。

  1. 年間の灰の排出量が30トン以上の場合は、セシウム137の放射線量を計測しなければならない。
  2. 規制の対象となるのは、セシウム137の線量が500ベクレル/㎏以上の燃焼灰で、とくに水系への影響を考慮して散布場所が制限される。
  3. セシウム137の線量が500~10,000ベクレルの灰は、農地への施用は許されないが、森林への散布や土木工事での利用は可能。ただし、スウェーデンの放射線防護研究所は5,000ベクレル以上の灰は、森林への散布もやるべきではないとしている。
  4. セシウム137の線量が10,000ベクレル以上の灰は、指定された場所で処分しなければならない。

この規則には注意すべき点が二つある。一つは、小規模燃焼の灰は線量が高くても規制の対象にしていないことだ。ストーブの灰の線量をいちいち測るのは技術的に難しいし、小量の灰であれば、どう処理しても環境への影響は小さいという判断があるのであろう。

もう一つは「灰は畑や森に散布するもの」という考え方である。言うまでもないことだが、木灰には植物の生育に不可欠なミネラルが含まれおり、これを土壌に返すことで、土地の肥沃度が維持される。有害とされる重金属にしても自然の中にごく低い濃度で分散しているなら、あまり大きな問題にならない。重金属の濃度が多少高い燃焼灰でも広い面積に薄くばら撒けば、元の鞘に収まったことになるだろう。放射性セシウムについても同じことが言える。

樹木に吸収される放射能性セシウム

厄介なことに、森林に降り注いだ放射性セシウムは、いつまでも森林にとどまる傾向がある。チェルノブイリの原発事故のあと、周辺の森林で観測された調査報告によると、当初、枝葉や樹皮に付着した放射性物質は、1年以内に風雨であらかた流れ落ちているが、それが地中に入って表層土壌の粘土粒子と結合すると、森林生態系の外への流出は、非常に少なくなる。正確に言えば、生態系の中で循環しているのだ。つまり、樹木による放射性物質の吸収→落葉による放出→落葉の分解→土壌粒子との再結合がそれである。

森林土壌に貯め込まれた放射性セシウムを、樹木が長い年月にわたって吸収し続けるとすれば、沈着量が高かった地域で育つ木材は、すべて汚染されていると見なければならない。木材を使う側からすると座視できないことだ。どれほど吸収するのか。実のところ、土壌粒子と結合した放射性セシウムが植物に移行するプロセスはかなり複雑で、その程度は、土壌の特性などによって大きく変わってくる。

ごく一般的に言えば、放射性セシウムは粘土粒子と結合するから、粘土分の少ないところでは遊離したセシウムが多く、植物に吸収されやすい。また、カリウムが欠乏していると、植物はカリウムに似たセシウムを吸収してしまうという。

図2は、樹木によるセシウム137の吸収が、樹齢とともにどのように変化するかを模式的に描いたものである。これは、コンピュータ・モデルをベースにした予測であるが、考えられる無数の事例の中から、植物の吸収量が大きい半水成土壌のケースと、それが小さい保形土壌のケースを対比する形で例示したと見るべきであろう。両者の差は確かに大きい。また、当然のことながら、20年生の若い林は、80年生の高齢林と比較して、ずっと多くのセシウムを吸収する。

ブリャンスクの森林での放射能汚染とその対策

ロシア共和国のブリャンスクは、チェルノブイリ原発から200~300kmの距離にあって、大量の放射性物質が沈着した。表4にあるように、その沈着量に応じて四つのエリアに分けられているが、線量の高い地域では森林への立ち入りや林産物の採取に制限が加えられている。すなわち、

  • 「超高」のエリア:森林保全、山火事防止、病虫害防除以外の目的での入山を禁止。すべての林業活動は中止され、森林植物の採取も認めない。
  • 「高」のエリア:一部の林業活動は認められるが、林産物の採取は禁止。
  • 「中」のエリア:林業作業員の外部被曝と木材の放射線汚染が許容の範囲であれば、木材の収穫が認められる。ロシア共和国が定めたセシウム137の暫定許容レベル(ベクレル/㎏)は、剥皮した製材用丸太、製材品(厚板)、製紙用木材が3100、家庭用の林産物2,200、燃材1400、公共用建設材370。
  • 「低」のエリア:木材収穫などへの規制はないが、キノコ類やベリーの採取が許されるのは74kBq/m2以下の森林のみ。実際には、住民たちは森林の全域で採取しているという。

ブリャンスクでは、原発事故から約10年が経過した時点で、域内の木材を伐採して線量が調べられており、その結果の一部を表4に示されている。マツ、トウヒ、カバの三つの樹種について剥皮した木部と樹皮を比較すると、いずれの樹種も外樹皮の線量がきわめて高い。樹皮には、10年前に沈着したセシウムの一部がそのまま残っているのであろう。木部の線量のほとんどは、原発事故後に根から吸収したものと思われるが、図2にように10~20年後にピークがあるとすれば、今後大幅に増加する可能性は小さいかもしれない。

欧州では、北欧における林産業および木材利用の実態から、最も放射線を浴びやすい住民グループについて、セシウム137の年間被曝係数(DCC)が推定されている。単位は、木材の線量(Bq/㎏)当たりのμSv(マイクロシーベルト)で、産業的利用でのDCCは、製材0.15、紙パルプ0.11、燃焼灰の処理0.30となり、また、家庭での利用では、木造家屋0.02、家具0.03、家庭用燃料0.0013、菜園への灰の施用0.05となっている。これを、表4の木材の線量に当てはめて汚染ゾーンごとに「線量評価」を行うと、次のような結果が得られるという。

  • 「低」のエリアで収穫された木材は、どのような用途に用いても被ばく限度量を超える可能性は低い。
  • 「高」「超高」の木材を産業的用途に向けると、燃焼灰の処理と貯蔵にかかわって、被曝量が大きくなる可能性がある。
  • 家庭での利用では、「高」と「超高」エリアから採取される薪で被ばく限度量を超える可能性はあるが、フローリングや家具などであれば「超高」の木材でも、そのリスクは小さい。

むずび

わが国の文部科学省が、航空機モニタリングで作成した放射性セシウム137の沈着量マップをもとに、3万ベクレル/m2以上の場所を探すと、福島県の浜通り・中通りから栃木・群馬両県の北部に連なる帯状の地域に広がっている。これらの地域で生育している樹木の線量は、今後十数年にわたって上昇し続ける可能性が強い。その樹木を山から伐り出して利用するとすれば、関係者は放射線被曝のリスクにさらされる。被曝の限度量を巡って、さまざまな論議が繰り返されることであろう。

今回は、そのような事態を想定して、スウェーデンとブリャンスクの規制措置を一瞥した。おそらく「低線量被曝」の可能性を考えれば、これなら安全だという一線は決められない。リスクを承知のうえで、どこまで「がまんするか」である。食品の放射能基準を見ると、日本の100ベクレル/㎏に対してスウェーデンは1,250ベクレル/㎏だ。

多くの日本人は、福島第一発電所の事故が許せなかった。厳重抗議の意味も含めて、放射能の基準を厳しくする方向に世論が動いたように思う。他方、スウェーデンでは、抗議の声がチェルノブイリまではなかなか届かない。基準を厳しくすれば、自分の首を絞めるようなことになる。いわば、運命として受け入れるしかなかった。それが100ベクレルと1,250ベクレルの差となって表れているのである。

わが国においても、原発を容認するかしないかのレベルではなく、放射能規制のコストとベネフィットを比較して冷静に論議すべき時期に来ているのではないか。

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