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急がれる木質燃料統計の整備

 国際エネルギー機関(IEA)などの公式統計で欧米諸国と比較すると、日本における木質バイオマスのエネルギー利用は、その豊かな森林資源にもかかわらず、かなり低いレベルにとどまっている。日本の木質燃料消費量が他国に比べて落ち込んでいるのは事実だが、関連統計の不備にも原因がある。行政サイドで正確な数字を把握していないために、過少な数字が国際機関に報告されていたのだ。
 最近になってようやく是正の兆しが見え始めた。林野庁が新しく公表した2014年の「木材需給表」には森林から下りてくる燃料チップ用木材の項目が付け加えられた。さらに工場残材や建設廃材に由来する燃料用のチップの量も「外書」で把握できるようになっている。この両者を加えたエネルギー用木質バイオマスの総量は、丸太換算で1,268万立方メートルになる。
 このような総量が公表されるのは初めてのことだが、残念なことに正確な数字とはとても言えない。多種多様な木質バイオマスの発生源と仕向け先が体系的に捕捉されておらず、「穴」がたくさんあるからである。この「穴」が残されている限り、過少推計からの脱却は難しい。在来型の木材需給表の枠組みから離れて、欧州で使われ始めた「木質原料のバランシート」の考え方を取り入れる時期に来ている。

IEAのエネルギー統計に表れた「歪み」

 表1は、2年ほど前に出版した小著から抜き出したものだが、一次エネルギー総供給に占める固形生物燃料のシェアとその仕向け先について、欧州連合(27ヵ国の集計値)と日本とを比較したものである。ここで言う固形生物燃料には一部農産系の麦わらなどを含むものの、大部分は木質系と見てよい。エネルギー総供給に占める比率では、EU27の5%に対して日本は1%にとどまる。
 そこで固形生物燃料の仕向け先を見ると、日本の場合木材産業と発電専用の二つが折半する形で圧倒的なウェートを占め、その一方で、EUで50%近いシェアをもつ個別熱供給はゼロに近い。統計の不備がこの結果に如実に表れている。
 まず木材産業の代表格は紙パルプ産業だが、黒液や木屑からつくられる電気や熱は工業統計などでかなり正確に抑えられる。また建廃や木質系の廃棄物を使った発電についてもそれなりの統計がある。ところが個別熱供給になると、木屑焚きのストーブやボイラについての信頼できる統計がなく、使われる木質燃料についてもきちんと把握されていない。後者に関連する業務資料を比較的多く持っているのは林野庁だが、統計として見るとさまざまな問題がある。

 国連食糧農業機関(FAO)の林産物統計では各国の丸太生産量を「産業用」と「燃料用」に大別して計上している。林野庁の統計でも1970年ころまでは伐採量を「用材」と「薪炭材」に分けていたが、それ以降はこの区分がなくなってしまった。薪炭は過去の燃料であり、いずれ消えていく運命だから調査の必要はない。当時はそんな雰囲気だった。これが今日まで尾を引いているのである。それはともかく、薪炭材の伐採統計が消えたことで、燃料に向けられる木材の量を丸太の段階で把握することができなくなった。
 残された手掛かりは、「特用林産基礎資料」として公表されている木炭、薪、および木質粒状燃料(ペレット)の生産量である。これは都道府県と市町村を通して調べられたもので、関係する事業体が少なく市販品の多い木炭とペレットではまあまあの数字が出ているが、自家消費の多い薪に至っては統計の体をなしていない。林野庁の「森林・林業統計要覧」によると、2013年の薪の生産量は85,136層積立方メートルとなっているが、数値を計上していない県が岩手県はじめ15もあり、1,000立方メートル未満が18ある。
 薪の生産量を問われた市町村にしても、答えように困ったであろう。自家消費分まで推計するのは非常に難しい。確実に市販されている量だけとらえて報告したのかもしれない。それも面倒なら白紙のままで調査票を返すことになる。

困難な薪の把握

 実のところ、薪の生産/消費量の把握にはどこの国も頭を悩ませている。農村部の世帯数に1戸当たりの平均薪消費量を乗じて総量を推計するケースもあった。このやり方だと過大な数字になることが多い。正確を期すのであれば、やはりきちんとしたサンプリング調査を実施すべきであろう。国連のFAOとUNECE(欧州経済委員会)は域内の木質エネルギー統計の精度を高めるべく、合同の作業委員会を設けてプロジェクト(Joint Wood Energy Enquiry)を実施している。
 薪の統計がこれほど問題になるのは、どこの国でも薪が木質エネルギーの大きなシェアを占めているからである。ドイツでは2003年から2012年までの10年間に木材のエネルギー利用は3,000万→7,000万立方メートルに増えているが、このうち山から伐り出される薪の量は1,000万→2,500万立方メートルに増加している。またオーストリアでは2011年の時点で、約2,000万立方メートルとされるエネルギー用木材のうち700万立方メートルは薪であった。
 ここでわが林野庁の木材需給表に目を向けよう。表2の上段にある13年の需給表において、エネルギー用木材の消費量として計上されているのは、薪炭材の120万立方メートルだけである。うち「薪等用材」にはペレットも含まれていて、薪だけ抜き出すと5万立方メートルにしかならない。これは明らかに実態からかけ離れた数字である。いくつかの地域で行われた実態調査から判断すると、薪の消費量かなりの量に達しているはずだ。前記のIEAの統計で、日本の個別熱供給がごく小さな値になっているのは、このお粗末な「薪炭材」の統計をベースにしているからである。

やっと出てきた燃料用チップの統計値

 表2の下段に14年の需給表からの抜粋値を掲げておいた。木炭用材と薪用材は前年までと変わらない。目新しいのは「燃料用チップ等用材」の一項が付加されて、前年の薪等用材に入っていたペレット用丸太がここに移し替えられたことと、「工場残材・建廃等のチップ」が外書として計上されたことである。
 林野庁は近年「木質バイオマスエネルギーを利用した施設の現況調査」を行ない、木質焚きボイラや発電施設の状況を全国スケールで調べている。この調査をベースにして燃料用チップの消費量が推定された。うち山から下りてくる小径丸太や林地残材を破砕してできたものが「燃料用チップ等用材」であり、14年の消費量は192万立方メートルと推定された。
 もちろんこれは燃料用チップの一部でしかない。圧倒的なウェートを持つのは工場残材や建設廃材などでつくられるチップだが、それは976万立方メートルで、カッコつきの「外書」になっている。なぜ外書になるかと言えば、木材需給表の主たる関心事が山から下りてくる素材(丸太)が製材、合板、パルプ、燃料などの(一次)需要部門にどれほど流れたかであり、それ以降の追跡はやっていないからである。
 実際には、製材工場に入った丸太からは、製材品のほか背板、端材、おが屑、樹皮などの副産物が発生し、それがパルプ用チップや燃料として利用されているけれど、需給表には書き込まれない。それを書き込むと二重計算になるからである。しかしパルプ用や燃料用チップの過半は工場残材やリサイクル材だ。パルプチップはかなり以前から外書扱いになっていたが、今回燃料用もこれと同じ扱いになり、ようやく表に出てきたのである。しかし、木質原料のエネルギー利用を在来型の需給表で処理しようとするのは、そもそも無理なことなのだ。例えば製材残材でつくられるパルプ用チップは、紙パルプを製造する段階でも木屑や黒液が発生し、これがエネルギー利用に向けられている。こうした関係を需給表で表示するには「外書」にもう一つ「外書」を付けねばならない。

欧米で使われ始めた「木質原料のバランスシート」

 木材のカスケード利用が深化してくると、新しいタイプの需給表が必要になってくる。ハンブルク大学木材経済研究センターのU.マンタウらは表3に示されるようなバランシートを提案した(脚注1)。表の左側は「発生源(供給サイド)」で右側は「仕向け先(需要サイド)である。発生源は丸太、丸太以外、産業残材三つに分かれ、仕向け先はマテリアル利用とエネルギー利用に大別される。
 森林から伐り出された丸太類はその実材積が左側の発生源に記載され、同時にその仕向け先が右側に書き込まれる。製材、合板、紙パルプ製造などに仕向けられた丸太はそれぞれの製品に加工されるが、同時にさまざまなタイプの残廃材も発生する。後者のうちマテリアルないしエネルギーとして実際に利用された量が左側の産業残材の項に記載され、発生源に書かれたら、必ずその仕向け先が右側に書き込まれる。
 製材用丸太として一度計上しておいて、その丸太を製材して出てくる背板やおが屑を産業残材として再度計上するわけだから、明らかに二重計算である。同じ1立方メートルの丸太でも残渣をカスケード的に何回も利用すれば、総使用量は大きくなり、製材用丸太であれば、1.4~1.5倍くらいにはなるだろう。しかし使う側からすれば、森林由来の小径丸太でつくったチップと、製材の背板を破砕したチップとを差別する理由はどこにもない。このバランスシートは、いわば需要サイドからのアプローチである。

 表3の発生源には、森林から下りてくる丸太以外に、森林伐採の後に残される残材や丸太の加工に先立って剥がされる樹皮、公園緑地の伐り透かしや剪定で発生する「修景残材」、さらに建築廃材などのリサイクル材も計上されている。これらも在来型の木材需給表では無視されていた。
 近年、FAOやUNECEも木材需給の予測作業などでマンタウらの提案するバランシートを使い始めている。近い将来、国際機関などからわが国に対しても同様のバランシートの提出を求めてくるであろう。残念ながらわれわれはそれに必要な統計資料を揃えていない。何が不足しているかをしっかりと見極めて、今からデータの整備に取り掛かるべきである。
 表3によると、ドイツにおける木質原料の使用量(2010年)は、マテリアル利用とエネルギー利用がともに実材積で7,000万立方メートル近くになっている。日本で同様のバランシートを作成したとしたら、どのような結果が得られるであろうか。私の予感では、エネルギー利用だけで2,000万立方メートルくらいになるのではないかと踏んでいる。

脚注1)詳しくは拙稿「木質資源のエネルギー利用で木材の需給構造はどう変わるか~新しい需給バランス表で見るドイツの最近の動向~」大日本山林会『山林』(2013年9月号)を参照のこと。

動画:木質バイオマスエネルギー ~日本の森林を活かして 地球温暖化を救え!~