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「再エネ新時代」の到来と木質バイオマス発電  (その1)

 ドイツのエネルギー政策は2010年代に入って大きく変わり始めた。この国では、政府の定める固定価格で再エネ電気を優先的に全量買取るFITの制度を比較的早くからスタートさせ、相当な成果を上げていたのだが、2012年の法(EEG)改正あたりから、「市場適応」に向けた動きが出てくる。まず再エネ発電の事業者は電力の「直接市場販売」を求められるようになった。売電価格と政府が目標とする参照価格との差は「プレミアム」として支給される。そして2017年の1月からは、このプレミアムも政府が決めるのではなく、一般入札を通して競争的に決められることになった。
 FITのこうした「市場統合」が実現したのは、風力発電と太陽光発電の発電コストが急速に低下してきたからである。これは正にFITという制度の目覚しい成果というべきだろう。ドイツのFITが狙っていたのは、技術的に未熟な再エネ発電をFITで誘って市場に参加させ、技術革新のための時間的な余裕を与えることであった。この期待によく応えたのが、風力発電と太陽光発電である。太陽光や風力のエネルギーは自然の賜物だから燃料費がかかっていない。電力のスポット市場でまず引取られるのは、変動費ゼロのこの種の電力だ。 
 風力や太陽光でつくられた電気が大量の出回るようになると、電力の卸価格は押し下げられる。そうなると変動費の割合が高い火力発電の経営は押しなべて苦しくならざるを得ない。木質バイオマス発電もその一つだ。
 しかし自然のエネルギーをそのまま利用する発電には致命的な弱点がある。「変動電源(variable renewable energy source)」と呼ばれるように、お天気まかせのところがあって、風がなかったり、太陽が出ていなかったりすると電気がつくれない。木質バイオマスの大きな特徴は、天候等の制約を受けることなく、電気も熱も生産できる再生可能なエネルギー源であることだ。
 木質バイオマスによる発電のコストが、風力や太陽光の電気より多少高かったとしても、変動型電源の致命的な欠陥を補正することができるなら、そのことで高く評価されるだろう。ドイツなどでは、ポストFITの「再エネ新時代」におけるバイオマスエネルギーの新たな役割を巡って、「スマート・バイオエナジー」のような模索が始まっている。

日本の長期エネルギー需給見通し(2015年)

 FITの終焉は再エネにとって新しい時代の始まりでもある。市場の荒波から庇護される形で展開していた風力発電や太陽光/熱発電がたくましい競争力をつけて電力市場に乗り込み、主導的な役割を担い始めている。このような時代が日本にも来るだろうか。来るとすればいつ頃になるのか。
 エネ庁が2015年に策定した長期エネルギー需給見通しには「再エネ新時代」の到来までは書き込まれていない。東日本大震災の後、ほとんどの原子力発電所が操業停止に追い込まれ、電力の自給率はわずか6%ほどに落ち込んでしまった。この自給率を2030年までに25%程度にまで引き上げることを目標に策定されたのが新しい需給見通しである。2013年度の実績と対比するかたちで目標値を示すと、表1のようになる。
 13年度に87%になっていた化石燃料への依存度を56%にまで低下させ、残りの44%を原子力と再生可能エネルギーで22%ずつ折半して負担させることにしている。ただ両者の分担率には下向きと上向きの幅がつけられていて、できれば原子力の比率を減らし、再エネのシェアを高めたいという願いが込められているように思う。
 長期見通しが公表された当時、原発をこのレベルまで回復させるのは難しいのではないかという意見が多かった。また再エネ比率を22~34%にまで引き上げることについても筆者などは半信半疑であった。このいずれか、または両方ともうまく行かなければ、火力発電を増やさざるを得ない。現に石炭火力プラントの新設や増強の計画が目白押しに持ち上がっていた。

 たまたま2013年度は原発停止と火力発電の焚き増しでエネルギー起源のCO2排出量が過去最高を記録した年である。欧米に遜色のないCO2削減を目指す政府にとって、石炭火力の増加は決して好ましいことではない。このジレンマを乗り切るには石炭火力でバイオマス混焼を増やすしかないだろう。世界の木質ペレット生産者から、日本は最も有望な輸出市場と目されるようになった。北米、東南アジア、ロシア極東の大型ペレット工場が日本市場への進出を虎視眈々と狙っている。

アメリカのある研究機関からの異論

 今年の4月にアメリカの「エネルギー経済・財務分析研究所(IEEFA)」は、前項の日本のエネルギー需給見通しの問題点を指摘しながら、2030年に向けての独自の見通しを公表した。その表題「Japan: Greater Energy Security Through Renew-ables」が示唆しているように、再生可能なエネルギーは日本のエネルギーの安全保障において大きな役割を果たし得るという主旨である。重要なポイントを抜き出してみよう。
(1)人口の減少と節電の進展で総電力需要は年に1.2%の割で減り続け、2010年度
  の1,140TWhが2030年度には868TWhになる。
(2)2030年度には太陽光・風力を主とする再エネで総電力需要の35%が賄われ
  る。
(3)閉鎖されている原発40GWのうち2030年度までに稼動するのは1/4にとどま
  り、電力需要への寄与は8%。
(4)2030年度における火力発電プラントの発電量は、15年度と比べて40%減少す
  る。現在のところ多数の石炭火力プラントの新設が計画されているが、その多く
  は建設されないだろう。
 具体的な予測値は表2にまとめられている。この予測の大きな特徴は、風力発電や太陽光発電の国際的な動向を下敷きにして書かれていることだ。わが国のエネ庁の長期見通しより2、3年後れて出たことも大きい。この間に変動型電源の発電コストが急速に低下しているからである。

 例えばエネ庁が長期見通しの付属資料として公開した「2014年モデルプラントによる電源別発電コスト」では、kWh当たりにして陸上風力が21.6円(15.6円)、太陽光メガが24.2円(21.0円)、太陽光住宅が29.4円(27.0円)となっている(括弧内は政策費用を除いたコスト)。おそらく日本でも先端的な装置の発電コストはこれよりずっと低くなっているであろう。30年にはさらに低くなっているはずだ。
 今の時点でエネ庁の長期見通しとIEEFAの予測を比較して、将来どちらになりそうかと問われれば、後者だと答える向きが圧倒的に多いのではあるまいか。つまり将来的には日本もドイツと同じような電源構成になり、ポストFITの再エネ新時代に突入するということだ。

動画:木質バイオマスエネルギー ~日本の森林を活かして 地球温暖化を救え!~