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リセットされた英国版「熱の固定価格買取制度」

はじめに

 2000年にスタートしたドイツの固定価格買取制度(FIT)は2017年から入札制度に切り替えられた。このコラムでは、制度の激変に振り回されて困惑する木質バイオマス発電の状況をお伝えしてきたが、ドイツのFITと並んで、筆者が注視してきたのは「熱のFIT」とも呼ばれるイギリスの「再生可能な熱への助成策(Renewable Heat Incentive、RHI)」である。
 イギリスは、ドイツのFITの成り行きを横目に見ながら2010年に自国のFITをスタートさせるが、これにバイオマスを含めなかった。バイオマスの本命は熱の供給であり、発電専用では変換効率が低く、買取りで優遇しても改善の見込みは乏しい、と判断したからである。
 その代わりRHIの導入に踏み切った。世界初といわれるこの制度の眼目は、「バイオマス、太陽熱、ヒートポンプなどによる熱生産のコストは、石油や天然ガスを用いた熱生産よりも割高になっている、その差額を政府の補助金で補填して再エネによる熱供給を増やす」ことにあった。
 まず、産業、ビジネス、公共部門を対象とする「非家庭用」のRHIが2011年11月から、それ以外の「家庭用」が2014年4月から運用を開始したが、われわれを驚かせたのは小規模なバイオマスボイラやストーブに対する助成率(タリフ)が常識を超えた高いレベルに設定されていたことである。
 当然のことながら、非家庭用の小規模と家庭用に申請が殺到する。ところが、このRHIのスキームには、政府の予算を超えて認定熱量が増えた時は、次期の新規申請に対するタリフを自動的に引き下げるメカニズムが組み込まれていた。小規模向けのタリフは急激に下落していき、中規模のタリフを大きく下回るようになった。
 この逆転現象をいつまでも放置するわけには行かない。ついに助成率体系の大幅な見直し、つまりはリセットが断行されたのだ。新規の申請分に対しては、今年の9月から新しいタリフ表が適用されている。助成率自体は常識的なレベルに落ち着いたものの、規模別の落差は一挙に取り払われた。当初の構想からすると、まったく予想外の結末である。
 筆者は以前、日本のバイオエネルギー政策においても、電力のFITではなく、英国型の熱のFITから始めるべきではないかと考えた時期があった。熱を軸とした熱電併給(CHP)が今後の方向であるとすれば、イギリスと同様まず熱利用の推進が求められるからである。
 しかしRHIを巡るイギリスでのドタバタ劇を見ていて、固定価格買取型の助成策に深刻な疑念を抱くようになった。RHIがこれまでにもたらした顕著な成果と、今回のリセット騒動で明確化した負の側面をどう秤量するか。皆さんもよく考えていただきたい。

逆転現象の実態

 激変するタリフの状況を表1にまとめておいた。バイオマスの熱に対して支払われるタリフは4本立てになっている。非家庭用はボイラの出力規模に応じて小中大の3区分、家庭用は規模区分のない一本で、計4本だ。また非家庭用の小中規模については、タリフの支払いが、これまで二段構えになっていた。高いレベルに設定されたTier1のタリフが適用されるのは、フル稼働による総熱生産の15%(今回の改定後は35%)に限られる。これを超える熱生産には額の低いTire2のタリフが支払われる。
 表1では三つの時点をとってタリッフの変化を追っている。最初の「2014/15年」というのは、13年12月に政府が提案した2014/15年向けの改定タリフだが、非家庭用小規模のTier1では熱1kWh当たり8.8ペンス、また家庭用では12ペンス支払われることになっていた。1ペニー=1.7円で換算すると、それぞれ15円ないしは20円にもなり、バイオマスの熱利用が盛んな北欧や中欧の常識では考えられないほどの高いレベルである。

表1 英国RHIのバイオマスに対する助成率(タリフ)

 こんなに多額の補助金が20年間にもわたってもらえるとすれば、たくさんの応募者が出てくるのは当然である。そこで冒頭に述べたタリフ引下げのメカニズムが強力に働いて、小規模の助成率は猛烈な勢いで圧縮されていった。2014年4月から17年7月まで4ヵ年足らずの間に、Tire1のタリフは8.8→2.71ペンス、Tire2のそれは2.3→
0.71ペンスになった。ともに70%前後の下落である。
 その一方で中規模では応募が少なかったために低減メカニズムの発動があまり見られず、タリフもわずかな引下げにとどまった。Tire1が5.1→4.79ペンス、Tire2が2.2→2.08ペンス。小規模と中規模の間で、タリフの大変な逆転現象が起きているのは明らかである。

懸念される国家予算の浪費と拭えない不公平感

 ここでタリフ低減(degression)のメカニズムについて簡単に説明しておこう(脚注)。RHIのスキームでは、各四半期に補助金として使える政府の予算額が熱供給の技術(区分)ごとに決められている。表1の四つの技術区分がそれに相当する。予算額が決められている以上、それを大幅に超えた支出は許されない。予算の枠内に納めるような仕組みが要る。 
 目安になるのは、認可されたボイラへの合計助成額で、これがTriggerまたはSuper Triggerと呼ばれる閾値を越えると、次期のタリフが自動的に引き下げられる。例えば、家庭用RHIで2016年1月31に決められたTriggerは1,910万ポンドで、これに引っかかると次期のタリフは10%引下げられる。またSuper Triggerは3,820万ポンド、これだと20%の引下げだ。
 確かにこれで予算と支出の辻褄は合わせられるかもしれない。しかし国家予算の使い方からすると大きな疑問が残る。2016年には家庭用のタリフはすでに6ペンス/kWhくらいまで下がっていたが、応募は結構あった。当初の12ペンスという高いタリフ設定は、結局予算の大変な無駄遣いではなかったか。適正なタリフのレベルを事前に予測できず、試行錯誤するしかなかったということかもしれないが、これほど高い「授業料」を払う必要があったかどうか。
 さらに非家庭用RHIの場合は、申請時の助成率が20年にもわたって継続される。その時々の状況に応じて不安定に動く助成率が、大きな不公平を生み出し、それを固定させるのだ。非家庭用の小規模ボイラで、当初と直近のタリフを使って助成額を試算すると大きな差が出てくる。定格熱出力100kWで、年間稼動時間3,000時間のボイラを想定する。表1の「2014/15年」のタリフが適用されれば、1年間の助成額は15,441ボンドになるが、「2017年7月」のタリフでは4,758ポンドしかもらえない。両者には3倍もの開きがある。不公平の極みとも言うべき、この状態を20年も続けてよいものか。常識的には受け入れ難いと思う。

脚注)詳しくは、拙稿「英国版「熱の固定価格買取制度」その後の展開(後編)~助成率引下げのメカニズム~」『環境ビジネスオンライン』2016/04/11付を参照されたい。

助成率の平準化

 小規模なボイラやストーブが優遇される一方で、1MW以上のボイラのタリフは当初1.0ペンス/kWhという低い水準に抑えられていた。ただこれには裏話がある。イギリス政府のオリジナルの素案では2.7ペンスになっていたらしい。これを見た欧州委員会(EC)から「特定のビジネスを優遇する過剰な補助金」だとクレームを付けられ、やむなく1.0ペンスのレベルまで引き下げたと言う。ところが、このタリフでは応募する事業者が出てこない。13年12月の改定で2.0ペンスまで引き上げられていた。
 さて、今回の改訂で新たに提示されたのが、表の右端にある「2017年10月」のタリフである。非家庭用では大中小の規模区分がなくなり、統一されたタリフはTier1が2.96ペンス、Tier2が2.08ペンスとなった(タリフの値に細かい端数が出るのは物価指数で四半期ごとに調整されているからである)。
 見た目には常識的なレベルに落ち着いたと言える。13年の改定タリフと比較すると、小規模と中規模でTire1がそれぞれ5.8と2.1ペンス引下げられ、大規模では逆に1.0ペンス引上げられた。家庭用は6.54ペンスで、今年の7月に比べれば相当に改善されているが、当初のタリフの55%にとどまっている。

イギリス政府の誤算

 誰が見ても不可解なのは、スタート時点での小規模のタリフが異様に高いことである。大規模のタリフにクレームを付けた欧州委員会が、なぜ中小規模のタリフを問題にしなかったのか、その理由はよく分からない。しかしタリフが常識を超えて高くなっていることくらいはイギリス政府も重々承知していたはずである。むしろ意図的に高く設定してバイオマスによる熱供給を一挙に広めようとしたのではあるまいか。
 この国では木質燃料の利用が北欧や中欧ほどには進んでいない。暖房油や液化天然ガスに替えて木質燃料を使うことにはまだまだ強い抵抗がある。そこでまず強力な経済的インセンチィブを与えて、一挙に壁を破る必要があったのであろう。木質バイオマスによる熱供給がある程度のレベルまで普及すれば、そのコストも下がってくるはずだ。
 これに加えて、化石燃料の価格は上昇するという見通しがあったと思う。暖房油や液化天然ガスの価格が上昇すれば、その分RHIの助成率を引下げることができ、政府の財政支出を減らすことができる。四半期ごとのタリフの見直しも、こうした状況変化を迅速に受け入れるための仕掛けであった。
 ところが現実の化石燃料価格は下降気味に動き始めた。RHIへの参加をためらっていたボイラ所有者も、これを見て申請を急いだ。化石燃料の価格が下がると、バイオマスによる熱生産がより割高になる可能性がある。RHI本来の趣旨からすれば、タリフの引下げではなく、むしろ増額すべきだろう。だが、暖房油や天然ガス価格が下落している局面で、そのようなことはできるはずもない。申請のラッシュを前にして「予算の制約」を口実にタリフが強引に引き下げられたのだ。

効率重視の姿勢が強まる

 当局の政策のスタンスが小規模一辺倒から少し軸足をずらせて大規模に移っていることも否めない。
 2016年12月に公表されたRHI改革の提案書によると、RHIが目指すべき目標は、
 ① 適切な技術を適切に用いて、この国が定めた低炭素化の長期目標と再エネ導入目標を達成すること
 ② 政府が預かった国民の税金は消費者を保護する方向で有効に使用すること。コストをコントロールし、熱供給技術に対する消費者の信頼を高め、制度の抜け穴にも目を光らせる必要がある。
 ③ コストダウンとイノベーションを通して、政府の支援がなくとも良質の熱を持続的に消費者に提供できるような市場を形成すること
 以上の三項は固定価格買取型の助成策にほぼ共通して見られる目標設定だが、全体のトーンとしては「効率重視」に傾いているように思う。効率が前面に出てくると、小規模の影が薄まり、軸足が大規模のほうへ動いていく。これはまたバイオマスによる熱供給の将来展望とも関わってくる。今後重要になるのは、冷暖房の低温熱ではなく、製造業などで使われる高温のプロセス熱だと明記されている。 
 今回の改訂でバイオマスの大規模ボイラもタリフが二段構えになった。そのうえでTier1のタリフが増額され、Tier Breakも35%に引上げられた。熱出力が1MW以上のボイラになると、年間の稼働時間が中小出力のボイラに比べてずっと長くなり、投資額も大きくなる。事業者に投資を決断させるには、それなりのインセンチィブを準備する必要があるとしている。

RHIのお陰でバイオマスによる熱生産は大幅に伸びた

 ここでRHIのスキームがこれまでにどれほどの成果を挙げてきたか見ておきたい。表2は非家庭用、表3は家庭用で、バイオマスのほかヒートポンプ、太陽熱など助成の対象となる他の技術も一括して取上げている。成果の指標としたのは、2017年8月までに助成を受けた施設数と熱生産量の累計値だ。
 まず非家庭用のRHIの実績で目を惹くのは、バイオマスボイラの伸びが大きく、太陽熱やヒートポンプなどを圧倒していることだ。助成された施設数は15,000を超え、助成金が支払われた総熱生産量は1.28TWhで、認可されたバイオマスボイラの熱出力は合計で330万kWに達する。
 施設の数で見ると、小規模が圧倒的に多く、大規模は非常に少ない。タリフの高低が相当に効いている可能性はあるが、母数に大差があるから一概には言えない。ただ、前述したように、タリフがかなり低下した時期にも相当な応募があったことに注意すべきである。当局は小規模からの応募は山を越えたと見て、大規模に軸足を移したのかもしれない。
 次の表3が家庭用である。特徴的なのはヒートポンプのウェートが高くなることだ。助成された施設数で63%、同熱量で45%を占める。これに対してバイオマスシステムは施設数では22%しかないが、熱量では過半の54%になっている。

表2 非家庭用RHIで助成された施設と熱量
2011年11月~2017年8月の累計

表3 家庭用RHIで助成された施設と熱量
2014年4月~2017年8月の累計

顕在化する補助金の不正受給

 RHIの制度がスタートした頃にはあまり聞かれなかったが、運用を続けているうちに、さまざまな形での補助金の不正受給が浮かび上がってきた。当局は「あり得べき抜け穴(potential loophole)」の探索と対応に追われている。最近賑やかに論議されているのは、木材乾燥にまつわる抜け穴である。
 非家庭用のDHIで助成の対象となる熱は、建物の中で利用する熱とされていたが、2013年の改正で、外部向けでも商業用の木材乾燥などは適格と改められた。ところがその直後から木質燃料の乾燥を目的とする熱生産の申請が目立って増えており、不審の目が向けられるようになった。
 例えば、補助金の獲得を目的にして、不十分または過剰な乾燥が行われているという指摘がある。ボイラ用の木質チップの場合は、一般に時間をかけた天然乾燥で水分率を30~35%まで下げている。わざわざお金をかけて乾燥するようなことはめったにない。熱の補助金が健全な慣行を歪めているのではないかと疑われている。また乾燥チップの供給過剰で市場が混乱し、天然乾燥でやっているチップ業者にも影響が及んでいるとするクレームも出ている。当局は建物の外での木材乾燥を禁止する方向で検討しているとのことだ。
 木質焚きボイラの多くは給湯・暖房用の熱や木材乾燥用の熱を得るために運転されている。このボイラから出てくる低温の排熱で湿ったチップを乾燥するのは全く合理的だし、広く行われている。イギリス政府もそれは是認してきた。木質燃料の乾燥にも補助金がつくようになって、本末転倒が起きているのだが、「木材の乾燥」と「木質燃料の乾燥」をきちんと区別して対処できなかったであろうか。当局の見解は「そのようにやっても乱用の恐れがあるし、常に監視して順守を強制するのは難しい」という。

熱電併給(CHP)プラントでの抜け穴対策

 非家庭用のRHIではCHPプラントからの熱を優遇する措置が2014年からとられている。今回の改訂でもCHPのタリフは一律に4.29ペンス/kWhになっていて、通常の熱専用プランの2.69ペンス(Tier1)、ないしは2.08ペンス(Tier2)のタリフよりもかなり高い。
 なぜ優遇されるかといえば、熱と電気を合わせた総合変換効率が高いうえに、CHPプラントの設置には余分のコストがかかるからである。ドイツの電力のFITでも、総合効率が60%以上であれば、CHP割増(ボーナス)を支給していた。発電専用のバイオマスプラントの場合は、発電効率がせいぜい25~30%だから、総合効率60%のハードルをクリアするには発電廃熱を有効に利用するCHPにするしかない。ところが熱供給プラントでは熱だけで80%、90%の熱効率が得られる。問題は、発電効率がごく低くてもCHPと言えるかどうかである。
 バイオマス焚きの蒸気タービンでも相当高圧の蒸気が得られるが、実際に使うときには減圧していることが多い。この圧力差を利用すれば、効率は低くとも比較的わずかな投資で電気をつくることができる。これにもCHPタリフを支払うべきか。イギリス政府は発電効率20%を条件とした。発電効率がそれよりも低ければ、未達成の比率に応じてCHPタリフの対象となる熱量が減らされる。
 これは興味深い取り決めなので、具体的な数値例で説明しておく。熱出力が1,000kWで、年間に6,000kWhの熱を生産し、発電効率12%のバイオマスプラントがあったとする。CHPタリフの対象となるのは生産された熱の60%(発電効率の比、すなわち12/20)だけで、残りの40%にはTire1とTire2のタリフが適用される。計算式で表すと、
 CHPタリフの支払   6,000kW×60%×4.29p/kWh=£154,440
 Tire1タリフの支払  3,066kW×40%×2.96p/kWh=£36,301
 Tire2タリフの支払 (6,000-3,066)kW×40%×2.08p/kWh=£24,411 
        合計 £215,152

 注) 上記の3,066kWがこのプラントのTire Breakで、定格出力×年間稼働時間×35%で算出されている。

むすび

 2011年に始まったイギリスのRHIがこれまで相当な成果を挙げたことは疑いない。だが、意地の悪い言い方をすれば、再生可能な熱にしても電気にしても、20年もの長期にわたって有利な価格で買取ってもらえるとなれば、多くの発電事業者が応募するのは当然だろう。問題は、申請の殺到に起因する「暴走」を如何にコントロールするかである。
 これまで述べてきたように、これが相当な難事である。買取価格の設定を誤ると、国民負担が大幅に膨らむだろう。また買取価格がくるくる変えられるようだと、発電事業者の間で不公平感が残る。
 さらに補助金を交付するスキームでは、制度の欠陥を突かれてさまざまなタイプの不適切な受給が起こりやすい。それを防ごうと新たな規制措置がとられるのだが、それがまた新たな問題を生む。規制の体系は複雑になるばかりだ。
 重要なのは、スキームのこうしたメリットとデメリットを冷静に比較して、採否を決め、運用することであろう。
 FITはいわば、副作用の大きい劇薬である。一歩誤ったときのリスクがあまりにも大きい。やはり望ましいのは、カーボンプライシングのような包括的な政策で大筋を抑えておいて、あとは可能な限り市場メカニズムに委ねることではないか。現時点での筆者の結論は、そんなところに落ち着いている。

付記 本稿の初出は、週刊ウェッブ誌『環境ビジネスオンライン』の12月4日付から三回に分けて掲載したものである。

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動画:木質バイオマスエネルギー ~日本の森林を活かして 地球温暖化を救え!~