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マテリアル利用とエネルギー利用の競合

「木をそのまま燃やすのは先進国のやり方ではない」

 ドイツ在住の池田憲昭氏は、エネルギーコンサルタントのT. シュヴァルツ氏とともに、わが国で大型バイオマス発電への関心が高まっていることについて、下記のような疑問を投げかけている脚注1)。
 「日本の森林には、地域木材クラスターを発展させ、地域経済を豊かにできる莫大なポテンシャルがある。ヨーロッパで過去5年以来、誰も持ちたいと思わなくなった大型木質バイオマス発電に、なぜ日本が関心を示しているだろうか。」
 ドイツの森林・木材クラスターは約130万人に就労の場を提供しており、雇用量では自動車産業(80万人)や機械産業(85万人)を大きく上回る。森林・木材クラスターの中核は、地域に分散する中小企業であり、業態としては製材、木造建築、家具製造など木材のマテリアル利用が軸になっている。
 ところがここ数年来、木材価格の上昇が目立ち始め、マテリアル利用に向けられる原木の確保が難しくなってきた。少し過去に遡って言うと、2000年から08年にかけてドイツの森林で風害と虫害が頻発し、大量の低質材が発生した。これをマテリアル利用で捌ききることができず、エネルギー利用の急増を招いたのである。
 問題は暴風害や虫害の蔓延が終息した「普通の状態」になっても、エネルギー利用は増加の一途をたどったことだ。近年ではその総量がマテリアル利用と肩を並べ、ともに7,000万立方メートルの大台に乗っている。化石燃料価格の上昇と再生可能エネルギーへの政策支援が強い追い風となっているのは間違いない。しかし国内の森林からこれ以上の量の木材を持続可能な形で伐り出すのは不可能な状況になりつつある(図1)。

 かつてエネルギー利用と言えば、工場残材や廃材などで、マテリアル利用との競合はほとんどなかった。それが最近ではマテリアル利用への食い込みが目立つようになり、ドイツ木材産業連盟などからの強い反発を招くことになった。貴重な木材資源を単純に燃やしてしまうは先進国のやるべきことではない、というのである。
 池田氏らもマテリアル利用を重視していて、立ち位置としては木材産業連盟に近いと思う。しからば木質エネルギーを推進する立場にある人たちはマテリアル利用との競合問題をどのように考えているであろうか。

脚注1)トアステン・シュヴァルツ、池田憲昭「森林はエネルギー問題を解決できるか(前編)(後編)」『地球温暖化』2014年5月号と7月号

「マテリアル利用との深刻な対立は回避できる」

 再生可能エネルギーの普及を目指す、ドイツの専門誌は、2年ほど前に「木質エネルギー~意義、ポテンシャル、チャレンジ~」をテーマとする特集号を出した脚注2)。特集を締めくくる「むすび」において「マテリアル利用とエネルギー利用は将来においても十分に両立しうる」と断言して、次のように説明している。
 ひと口に木材と言っても実際にはすこぶる多様である。森林から樹木が伐り出され、工場で加工され、最終的に消費されていくプロセスで、製品とともに実にさまざまな木質系の残廃材が生み出される。マテリアル利用、エネルギー利用のいかんを問わず、そうした残廃材を需要する側でも、末端は細かく細分化されていて、これまたさまざまな形質の木質原料を求めている。
 こうした状況の下では、木質原料の市場はその形質の違いなどに応じて細かく分割されるだろう。各々の市場で需給が調整されることになり、用途間の小競り合いは絶えず起こるだろうが、木質資源に未利用のポテンシャルが残っている限り、マテリアル利用とエネルギー利用の深刻な対立は回避される、と言うのである。
 この観察は木材利用の歴史とも符合する。木材原料のうちエネルギー利用に向けられてきたのは、森林伐採の後に残る「林地残材」、木材加工で発生する「工場残廃材」、さらには木製品の消費の後に残される「木質系廃棄物」であり、製材用材、合板用材、紙パルプ原木の領域にまで喰い込むことはめったになかった。つまり低質材の未利用のフロンティア(ポテンシャル)があれば、エネルギー利用はそちらに向かう。その限りでマテリアル利用との深刻な競合はあり得ない。
 特集記事では、現在のドイツにも相当なポテンシャルがあるとして、次の5つを挙げている。
 (1)小私有林における未利用の林木蓄積
 (2)森林残材の集約利用
 (3)リサイクル材の集約利用
 (4)修景残材の集約利用
 (5)短伐期エネルギー林の造成
 ちなみに、2020年に利用可能は木質原料のポテンシャルとして次のような推定値が示されている。
  ・林業バイオマス 2,650万絶乾トン/年 (511 PJ/年)
  ・工場残材     300        ( 57    )
  ・リサイクル材   610        (117     ) 
      計      3,560         (685   )
 なお上記の林業バイオマスには、森林から出てくる小丸太や樹皮のほか、森林残材、修景残材が含まれる。            

脚注2)”Holzenergie: Bedeutung, Potenziale, Herausforderungen” In Renews Spezial , Aufgabe 66/April 2013 (Agentur für Erneuerbare Energien)

上昇する木材のエネルギー価値

 木質バイオマスのエネルギー利用が、マテリアル利用の領域に食い込むのではなく、より質の低い木質原料のフロンティアを切り開いて、それを活用しながら伸びてきたという一面は確かにあると思う。これまでは構造用の木材と燃料用の木材との間に圧倒的な価格差があり、燃料用は下に向うしかなかったのである。
 ところが、化石燃料価格の上昇を受けて木材のエネルギー価値が著しく高まってきたために、状況の変化が見られ始めた。1立方メートルの木材が内包するエネルギー量は、1バレルの原油とほぼ同じである。原油がバレル100ドルの時代であってみれば、1立方メートルの木材のエネルギー価値も100ドル、日本円にして12,000円ということになるだろう。これは製材用のスギ中目丸太の工場着価格とほぼ等しく、10,000円前後の合板用スギ丸太や5,000円前後の針葉樹パルプ原木よりも高い。
 伝統的なかまどで薪を燃やすと、薪のもつ化学エネルギーの10~20%くらいしか有効な熱に変換できなかった。それが今日の先端的な燃焼機器なら有効な熱への変換効率は90%に達していて、灯油焚きの機器とほとんど遜色がない。原油を基準にして測られる上記の木材のエネルギー価値が、にわかに現実味を帯びてきたのである。
 かつて紙パルプ製造に回されていた小径丸太が、ボイラ用チップや木質ペレットの製造などに使われるケースが増えてきた。やがてその累は合板用の丸太にも及ぶかもしれない。これらは明らかにマテリアル利用への喰い込みであるが、市場メカニズムによる需給調整の結果であるとすれば、好むと好まざるとにかかわらず、受け入れざるを得ないであろう。

判断の分かれる政策的支援の功罪

 マテリアル利用の側から強い反発が起こるのは、固定価格買取価格(FIT)などの政策支援に支えられて、エネルギー用木材の価格が引き上げられることである。とくに木質バイオマス専焼の場合は発電効率が25%前後で、最新鋭の火力発電とは比較にならない。また近年では太陽光や風力などによる再生可能な電気の発電コストが大幅に下落してきたために、木質バイオマス発電の割高感が目立つようになった。図2にあるように、将来に向けてのコストダウンも見込まれていないのである。マテリアル利用を犠牲にして発電を増やす必要が本当にあるのか。
 木質バイオマス発電が増えれば、化石燃料の消費が節減され、温暖化防止に役立つというメリットは確かにある。問題は、そのメリットがマテリアル利用を断念することのデメリットを十分にカバーできるかどうかである。この答えを直感で引き出すのは難しいだろう。
 ただはっきりしているのは、木を燃やせば「木」の構造が最終的に破壊されてしまうということだ。製材品にしても、合板にしても、あるいは紙にしても用が済んだらいずれ廃棄される運命にある。この最終廃棄の段階で登板するのがエネルギー利用であって、マテリアル利用の可能性がある限り、それを優先するのが本筋かもしれない。事実、山から下りてくる木をそのまま燃やすより、マテリアル利用を繰り返した後に燃やすほうが、節減されるCO2の総量は大きくなる。そうしたシミュレーションの結果は次回に紹介することにして、今回は筆者の政策提言で締めくくっておきたい。

競合を回避するためになすべきこと

 FITの買取価格を決める場合にも、マテリアル利用への喰い込みを可能な限り小さくことが望ましい。例えば、マテリアル利用と競合する木質原料を使う場合にはFITの買取価格を低めに設定し、競合しない原料で発電した場合は高めの価格で買い取るようにすることである。2013年までのドイツのバイオマスFITでは、林地残材や修景残材を使った発電にはkWh当たり6セント(発電容量0.5MW以下)ないし2.5セント(同0.5~5MW)の「割増し(ボーナス)」を付けていた。こうすることで従来未利用のままに残されていた低質バイオマスの掘り起こしに繋がることになる。
 長期の視点から重要なのは、未利用のフロンティア(ポテンシャル)の開拓である。幸いなことに、日本森林には膨大な量の「未利用の林木蓄積」である。森林1ヘクタール当たりの木材生産量がドイツやオーストリアの1/6程度にとどまっているのは、木材生産の対象地が一部の森林に限定されているからである。放置されてきた人工林や天然生林に木材を搬出するための林道・作業道のネットワークが整備されれば、木材の総生産量を大幅に増やすことができるであろう。この場合には構造用、紙パルプ用、燃料用の3種類の木材が同時に増加するわけだから、マテリアル利用とエネルギー利用の競合が大幅に緩和される。
 現在FITで認定されている木質バイオマス発電の施設(116件、213万kW)が順次建設され運転を開始すれば、相当量の燃料用チップが必要となるが、国内の森林はそのかなりの部分を供給するだけの潜在的な能力を持っていると思う。今から計画的に林道を入れて発電用木質燃料の需要増加に対応すべきであろう。
 燃料調達の見通しがつけられないまま、大型発電プラントの運転を始めるのはあまりにもリスクが大きい。万が一、燃料不足の事態になれば、木質原料の奪い合いが激しくなって価格が上昇に、共倒れのようなことになってしまう。これだけは何としても避けなければならない。

動画:木質バイオマスエネルギー ~日本の森林を活かして 地球温暖化を救え!~