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再エネ新時代における木質エネルギーの役割(4)

ドイツ経済エネルギー省『2030年の電力』に見る将来展望

 「再エネ新時代」という表現が適切かどうかよく分からないが、欧州、とくに近年のドイツの状況を見ていると、これまでとは全く違った新しい時代に突入したという思いに駆られる。固定価格買取制度(FIT)という温室の中で育てられていた風力発電や太陽光発電が、今では逞しく成長して母屋であるFITの骨組みを壊しつつあるのだ。やがて電力市場においても火力発電や原子力発電から主導権を奪い、市場システムそのものを大きく変えていくのは間違いない。
 しかし風力や太陽光はお天気まかせの「変動電源」である。この両者を軸にして安定した電力供給を実現するには、広域的・地域的な送・配電網の拡充と並んで、変動電源の「穴」を埋めるさまざまな措置がとられなければならない。おそらく再エネ新時代で木質バイオマスに期待されるのは、ベースロード電源としてではなく、穴埋めの調整電源ということになるであろうが、技術的・経済的に見てどのような可能性があるだろうか。
 その一つの答えが、ドイツの経済エネルギー省が最近公表した成果報告書『2030年の電力』(注1)に記されている。今回はこの報告に依拠して木質バイオマスの新しい役割について考えてみよう。

注1)Bundesministerium für Wirtshaft und Energie, Ergebnispapier “Strom 2030: Langfristige Trends – Aufgaben für die kommenden Jahre” Mai 2017

長期トレンドの摘出と課題の整理

 ドイツ政府は早くから野心的なエネルギービジョンを世界に向けて発信してきた。例えば、2050年までに温室効果ガスの排出量を1990年比で80~95%減らし、発電の分野では再エネの比率を少なくとも80%までに高めるという長期目標がそれだ。しかしこの目標を達成するには、相当に早くから準備しておく必要がある。『2030年の電力』には、中間地点である30年までに準備しておくべき要件がまとめられている。
 ドイツのいくつかの研究機関や調査会社は、2050年の最終目標を念頭に置いて、さまざまなエネルギーシナリオを作成してきた。経済エネルギー省はこれらのシナリオから「長期トレンド」12項目を摘出し、この方向に沿って政策を進める場合にどのような課題があるかを整理して、2016年9月に「Impulspapier “Strom 2030”」を公表した。これはいわば論議を進めるための「たたき台」で、これをもとに電力市場と送電網をテーマとするプラットホームで検討が始まった。討論に参加したのは、各州の代表、連邦議会の政党代表、関係省庁、経済界・学会・市民団体の代表などだが、各界の意見を踏まえて作成されたのが上記の「成果報告書(Ergebnispapier)」である。

ようやく明確になった再エネ電源の役割分担

 ドイツが「再生可能エネルギー源法(EEG)」に基づいてFITをスタートさせるのは2000年のことである。助成の対象となったのは、風力、太陽光、水力、地熱、バイオマスの5種類で、最初のうちは将来どれが有望な電源になるのか見当がつけられなかったのであろう。各電源はほぼ同じような扱いになっていた。
 言うまでもなくFITというのは、再エネ発電の事業者が生産した電気を政府の定めた固定価格でこの先20年にもわたって全量優先的に買取る制度である。破格の優遇措置で競争力をつけさせようとするものだが、制度を運用しているうちに5種類の再エネ電源の間で明暗がはっきりと分かれてきた。「明」のほうは風力と太陽光で、発電プラントの設置容量を大幅に増やしながら、発電コストの顕著な低下に繋げていく。ところが、水力、地熱、バイオマスの三者は、技術的な理由で容量の拡大が難しいとか、発電コストがあまり下がらないという難題を抱えてしまった。
 今回の成果報告書は、将来を担う電源は風力と太陽光の二つだと断定する。その第一の理由は発電コストが着実に下がっているからだ。触りの文章をそのまま引用しよう。
 「10年前、大型のPVプラントへの投資を誘おうとするとkWh当たり約40ユーロセントの支援を準備しなければならなかった。それが2016年の時点では7セント以下に下落している。風力、とくに洋上風力でも同様の下落が期待できる。これは国際的に定着した傾向であって、国際エネルギー機関(IEA)によれば、太陽電力のコストは2040年にかけてさらに40~70%低下し、風力のそれは10~25%下落するとしている。つまり変動電源による発電のコストは今後も引き続き下がっていき、経済的な有利さでも石炭や原子力を凌駕するようになる。」

競争原理の導入で電力価格を引下げる

 とは言え、現状では電力の卸売価格が下がってきているのに、消費者の支払う電力価格はあまり下がっていない。また熱供給や輸送の分野では化石燃料が依然として強い競争力を持っている。これも高い電気料金に一因があるのだが、なぜ高くなるかと言えば、さまざまな課徴金や税が課されているからだ。課徴金や税のあり方を見直し、市場での自由な競争を通して電力価格が低く保たれるようなシステムを工夫しなければならない。『2030年の電力』で繰り返し強調されているのはこの点である。
 風力や太陽光に由来する不安定な電力の流れをフレキシブルに補正する技術(方式)はいくつもあるだろう。特定に技術だけに補助金を与えたり、あるいは特定の技術を除外するようなやり方は好ましくない。電力の需給を的確に反映する市場ができていれば、発電事業者は市場からのシグナルに従ってフレキシブルに対応するはずだ。再エネ新時代で肝要なのは、こうした対応を阻害するような規制を取り払い、発電事業者の誰もが市場にアクセスできるようにすることだ、と言う。

バイオマスのエネルギー利用:三つの原則

 エネルギー供給の主軸を風力と太陽のエネルギーが担うとすれば、バイオマスに残される役割はどのようなものか。これまでバイオマスと言えば、熱と輸送燃料の供給を担い得る、ほとんど唯一の再エネ源のように見られてきた。しかし電気、熱、輸送燃料という三区分は絶対的なものではない。三者の間で結構融通が利くのである。最近のドイツでよく聞かれる「部門間連結(Sektorkopplung)」が正にそれだ。変動電源で生産された電気を使ってヒートポンプを駆動させれば、大気中や地中にある熱を冷暖房用の熱に変換してくれる。また風況に恵まれて大量の余剰電気ができているのなら、水の電気分解で水素を生産することができる。水素は何にでも使える万能のエネルギー媒体と言っていい。
 このように考えると、「どうしてもバイオマスでなければ」という局面はかなり限られてくる。『2030年の電力』で取り上げられた12のトレンドの8番目がバイオマスに関わる項目だが、ここではまず次の三つの原則が掲げられている。
(1)バイオマスは普遍的に存在するが、希少な資源である
(2)バイオマスはエネルギーシステムにとって最も利益の大きい分野に使われるべきである
(3)発電と熱供給に使えるバイオマスの量は限られており、可能な限り効率的かつ弾力的に使われなければならない 
 以下この三原則について中身を見てみよう。

エネルギー用バイオマスの資源的なポテンシャル

 バイオマスのエネルギー利用は多方面に及ぶが、ある地域でエネルギーとして使えるバイオマスの量は限られており、さらに食料・飼料の生産や木材のマテリアル利用と競合する可能性が高い。また持続可能なエネルギー政策の観点からすると、エネルギープランテーションの拡大や外国から大量のバイオマスを輸入することにも慎重でなければならない。
 ① ネルギー利用の最大のポテンシャルはバイオマス系の残廃物で、ドイツ国内で毎
  年700~1000PJ発生していると推定されるが、このうちの2/3はマテリアルまた
  はエネルギーとしてすでに利用されている。
 ② 現在220万ha(全農地の20%以上)にエネルギー作物が植えられているが、こ
  れ以上拡大する余地は乏しい。
 ③ イオマスベースのエネルギー担体の輸入は、由来が明確で、持続的に生産された
  ものに限るべきである。
 ④ バイオマスはカスケード的に利用さるべきもので、エネルギー利用はその末端に
  位置し、優先されるのは食料生産やマテリアル利用である。
 こうした提言から読み取れるのは、風力や太陽光で相当なエネルギーが賄えるから、バイオマスであまり無理をする必要はないというスタンスである。バイオマスのエネルギー利用では残廃物の活用に重点をおくべきで、食料・飼料生産の領域や木材のマテリアル利用の領域にまで食い込むべきではない。またエネルギープランテーションやバイオマスの輸入に対してもすこぶる慎重な姿勢を貫いている。あるいは、これが本来の姿かもしれない。

バイオマスが優先して使われるべき領域

 貴重なバイオマスは、技術的、経済的な理由により風力や太陽のエネルギーでカバーしきれない分野に振り向けられるべきである。重要なのは、全体としてのエネルギーシステムのコストをなるべく低く抑えることであり、バイオマスの限られたポテンシャルは、他では不可能か非常に高いコストをかけてしかなし得ない分野に投入さるべきである。現在の知見に基づいて判断すれば、次のような部門が候補に挙げられる。
 ① 交通においては航空、船舶、および重量物輸送
 ② 産業では100~500℃のプロセス熱の生産。具体的には化学工業、繊維工業、食
  品工業など。プロセス熱やプロセス蒸気はCHPで生産することができ、原料の高
  度利用にも繋がる。例えば木材加工業や化学工業では、マテリアル利用を優先さ
  せ、エネルギー利用を最後におくことで、より多くのCO2が削減される。
 ③ 建造物の分野で断熱など省エネの難しい建物でバイオマスが使われる。
 ④ 発電の分野では、バイオマスはもっぱら調整の役を担うことになる。つまり全負
  荷時間は減少するが、必要に応じて熱供給を切り離して運転することが多くな
  る。風力や太陽光の電気はバイオマスのそれよりも安くなるから、バイオマスの
  発電プラントは弾力的に電気を生産することになる。
 こうした見通しのうえに、2020年から2050年までのエネルギー源としてのバイオマスの利用の推移を図1のような模式図にまとめている。

木質バイオマスの効率的でフレキシブルな利用:熱電併給と熱のネットワーク

 風力や太陽エネルギーに由来する電力は1日のうちでも絶えず変化するし、季節的な変動も無視できない。調整電源としてのバイオマスの役割は、風の吹かないときや、太陽光が利用できないときに発電することだが、これを発電専用のバイオマスプラントでやろうとすると、発電時間が細切れになるうえに、年間の稼働時間も大幅に減ってプラント経営はすこぶる不安定になってしまう。
 この場合の一つの解決策は、一つのプラントで熱と電気の両方を生産する「熱電併給」のCHPプラントを導入することだ。このタイプの施設は発電専用のプラントよりもずっと熱効率が高いうえに、熱と電気の生産比率を一定の範囲内で変えることができる。ただ問題は熱需要の時間的な変動パターンにも一定の規則性があるから、電力サイドの都合だけで熱電比率を勝手に変えるわけにはいかない。
 ここで登場するのがバッファータンクとも呼ばれる蓄熱槽だ。電気を蓄えるのは相当な難事だが、冷暖房や給湯に使う熱なら温水の形で比較的簡単に蓄えられる。変動電源から大量の電気が流入している間は、発電を止めてせっせと熱をつくり蓄熱槽にためておく。変動電源からの電気が途絶えたら、熱生産を減らして全力で発電する。熱需要のほうはバッファータンクに蓄えられた熱で何とか対応できるだろう。
 もともと熱の需要は概して小規模であちこちに分散していることが多い。これまでに設置された熱供給専用のプラントの大部分が小型で占められているのはそのためだが、今後とくに要求されるのは、これらの装置でも必要に応じて発電できるようにしておくことだ。大掛かりなCHPよりも分散型の小規模CHPのほうがフレキシブルな対応に向いている。極端なケースではあるが、マイクロCHPが各戸に導入されれば、世帯単位で相当程度まで調整できるようになるだろう。
 その一方で、今回の成果報告書では熱供給ネットワークの活用が繰り返し強調されている。人口の密集した場所であれば、比較的大型のCHPプラントで集中的に熱を生産し、パイプを通して冷暖房・給湯用の熱を近隣の住宅や事業所に送ることができる。一般に「地域熱供給」と呼ばれるシステムだが、個別的な熱供給に比べてエネルギー効率が一段と高く、その分CO2削減効果も大きい。
 しかしこのシステムのもっと大きな利点は、地域にあるさまざまなエネルギー資源を束ねて利用できることだ。大型のボイラが入っていれば低質のバイオマスや家庭ごみも燃料として使えるだろう。焼却炉や工場の廃熱を有効に利用する道もあるし、太陽熱の取り込みやヒートポンプの大掛かりな導入も十分に考えられる。電気や有効な熱に変換できるエネルギーのポテンシャルは一挙に拡大するだろう。
 熱源の多様化はそれ自体でバランスの取れたエネルギーの流れを生み出すが、これに加えて、高性能の貯熱槽を設置したり、ピークロード対応のボイラを導入すれば、変動電源の弱点を相当程度カバーできるのではないか。成果報告書には図2のような模式図が載せられている。

むすび

 『2030年の電力』は空想の産物ではない。ここに描かれている「トレンド」は現実に生起し始めている事実であり、ここに言及されている「技術」の多くはすでに実用化の域に達している。日本でも近い将来同じような状況が生まれてくるだろう。提言の多くは傾聴に値すると思う。ただ、木質バイオマスの役割に関しては筆者に多少の異論がある。
 まず2030年まで限って言えば、都市部などで変動電源の欠陥をカバーする主役は天然ガスによる分散型のCHPになるだろう。しかし天然ガスのパイプが敷設されていない中山間地では、バイオマスを軸にした分散型のCHPと、さまざまな熱源を組み込んだ地域熱供給型のCHPが一番有望だと思う。
 燃料用木質バイオマスの欠点としてしばしば指摘されてきたのは、調達コストが高いことと利用可能な資源量に厳しい限界があることだ。しかしこれをそのまま鵜呑みにして、声高に強調するのはいただけない。
 燃料となる木質バイオマスの大部分は、林業、林産業、さらには地域の自然管理・景観管理から出てくる残廃材や副産物である。エネルギーとして利用されなければ、一般廃棄物ないしは産業廃棄物としてコストをかけて処分するしかない。こうした副産物や残廃材を大量に集めようとすると、調達コストは一挙に跳ね上がるが、発生した地点の近くで利用するなら、集荷コストは低く抑えられる。バイオマスのエネルギー利用は地域の林業・林産業、さらには自然管理と切り離したら経済的にまず成り立たない。その一方で地域の林業・林産業はエネルギー利用に支えられて自らの市場競争力を強化することができる。
 また木質バイオマスの利用可能量に限界があるにしても、今の時代は地域のエネルギー需要が年々増えるような状況ではない。これからは省エネの進展や人口の減少でエネルギー需要はむしろ減っていく可能性が高い。地域の林業・林産業、自然管理が生み出す木質バイオマスの安定した流れを軸にして、太陽、小水力、地熱など地場のエネルギー資源をうまく取り込んでいけば、地域のエネルギー需要を永続的に満たしていくこともできるだろう。
 『2030年の電力』を読んでいて、一寸気がかりだったのは、風力や太陽光で安い電気が生産できるようになれば、電力から熱または輸送燃料への変換が進み、バイオマスの役割は縮小する、という記述である。確かにこうした変換の技術的な可能性は否定できないが、どれでも簡単にできるというわけではない。成果報告書から借用した表1からも明らかなように、熱供給や自動車燃料の分野で化石燃料1単位を代替するのに必要な電気量は技術によって大差がある。電気でヒートポンプ稼動させて熱を取るのはすこぶる効率的だが、電気ボイラや電気からつくられたガスで熱を生産するとなると、効率は格段に悪くなる。Power-to-heatの変換でバイオマスが担ってきた役割の一部が不要になるにしても、決して全部ではない。両者が共存できる均衡点が必ずあるはずだ。
 もう一つ言及しておきたいのは、太陽熱を直接取り込む太陽集熱器のことである。早くから市販されていたもののあまり普及しなかった。欧州では、この機器を単独に設置するのではなく、集められた熱をバイオマスボイラに付設されたバッファータンクに入れて運用するのが一般化している。協働することでより大きな成果がもたらされる一例と言えよう。

付記 本稿の初出は、週刊ウェッブ誌『環境ビジネスオンライン』に三回に分けて掲載したものである(7月3日、10日、19日付)。

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