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気がかりな森林チップの価格動向

IEAによるバイオマス燃料の類別

以前、このシリーズで触れたことだが(「木質エネルギーの市場競争力」)、国際エネルギー機関(IEA)は2012年にバイオエルギー(熱と電力)にかかわる「技術ロードマップ」を公表し、その中でバイオマス燃料を四つに区分した。すなわち廃棄物、工場残廃材、地場調達燃料、国際流通燃料がそれである。

この区分は、燃料の出所に着目したものだ。しかし、表1から明らかなように、熱量(ギガジュール)当たりのドルで表示された調達コストにも歴然とした差が出ている。われわれ日本人にも馴染みやすいトン当たりの円に換算してみよう。各燃料の平均発熱量と為替レートの設定いかんで結果は少し違ってくるが、全体として眺めて見るとそれほどの違和感はない。燃料の価格差をベースにしたわが国のバイオマスFITともある程度の対応がつく。すなわち、リサイクル木材の買取価格13円/kWhは表1の廃棄物に対応し、一般木材の24円は工場残廃材に、未利用木材の32円は地場調達燃料に対応する。

ただし、燃料の種類とコスト(ないし価格)との対応関係は決して固定したものではない。早い話が、パルプ工場から排出される廃液(黒液)はかつてヘドロ公害の元凶とされ、巨大なマイナス価値を生んでいた。それが今ではパルプ工場の貴重な熱源となっている。また製材工場などから出る樹皮(バーク)は廃棄物として焼却や埋立てに回され、処分してもらうには処理費を払わなければならなかった(逆有償)。しかし、これもボイラで燃やして熱や電気に変えられるようになってから、れっきとした有価物になっている。このようにして黒液やバークは、廃棄物から工場残廃材にランクアップしたのである。

森林チップ価格の上昇

近年の傾向としては、石油や天然ガスなど化石燃料価格の上昇が続くなかで、いずれのタイプの木質燃料もその価格を引き上げている。しかし、四種類の燃料がこれからも歩調をそろえて変動するとは限らない。各燃料の集荷可能範囲(ないしは運賃負担能力)に差があるからである(図1参照)。たとえば、国際的に取引される木質ペレットやトレファイド・ペレットであれば、国内の需要が多少増えても海外からの供給増で価格の上昇は抑えられよう。逆に、遠くには運べない低質の工場残廃材や都市廃棄物の場合、大量に集めようとすると膨大なコストがかかるが、発生した場所で利用するのであれば比較的安いコストで調達できる。

この両者の中間にあるのが地場調達燃料の「森林チップ」だ。典型的には森林伐採にともなって発生する林地残材や小径丸太・欠陥丸太からつくられるチップである。スウェーデンやドイツで得られた公式統計によると、近年、森林チップの価格上昇が目立っている。こうした傾向が今後も続くようだと、電気の買取価格を20年間固定するFITとの両立が難しくなってしまう。FITの発電事業者からするとまことに気がかりなことである。

他方、森林・林業のサイドからすれば、これまで山に放置されていた低質材や林地残材がエネルギー源として利用されるのは歓迎すべきことである。国内の林業は過去20年、30年にわたる材価の低迷ですっかり元気を失っている。管理放棄の森林も広がってきた。それだけに木質エネルギーへの期待は大きい。だが、木質燃料価格の上昇は本当に森林経営の再建に結びつくのか。これも気がかりな点である。

今回は、スウェーデンとドイツの経験を踏まえながら、上記の「気がかりな」点について考えてみたい。

森林チップ価格の下降局面と上昇局面:スウェーデンの経験

わが国の場合、建築廃材などのリサイクル材と工場残廃材はあらかた使い尽されており、これから増えてくるのは森林チップに代表される地場調達燃料である。ただ、燃料用森林チップの価格については、きちんとした統計がなく、正確な実態はつかめていない。これは日本だけでなく、どこの国も似たり寄ったりの状況だが、そのなかでスウェーデンのエネルギー庁は1993年から四半期ごとの価格を公表してきた。公表されているのは、森林チップを使う地域熱供給(DH)プラントと木材加工工場からサンプリングで価格データを集め、消費量で加重平均した数値である。

図2には、1993年から2010年までの森林チップの価格が、DH用と林産業用に分けて示されている。ここでいう林産業用のチップは、外部からの購入分に限られていて、内部調達分は含まない。一見して明らかなように、世紀の変わり目あたりまで比較的安定していた価格はこの数年来上昇の速度を速めている。上昇に転じる時期は、DH用チップで2003年前後、林産業用で2007年あたりからである。

以前の常識からすると、これは驚くべき変化だ。というのも、スウェーデンの森林チップの実質価格は1970年代半ばから90年代半ばに至るまで低下の一途をたどっていたからである。この期間の価格データには信頼度に多少の問題はあるが、積算生産量と関連付けてグラフにすると、図3のようになる。これは一種の「学習曲線」で、森林チップの生産量が増加するにつれて、コストがかなり顕著に低下してきたことを示している。

かつては、森林を伐採しても梢端や枝条は山に残されたし、樹冠部から小径丸太を無理して採るようなこともしなかった。原料そのものはタダであったにせよ、枝払いや集積、搬出にコストがかかり引き合わなかったのである。それが伐出作業の機械化や作業システムの改善により、比較的安いコストで林地残材や小丸太が搬出されて、チップ化されるようになった。図3にそれが示されている。

しかし、90年代の半ば以降の実質価格はおおむね横ばいで推移し、低落傾向は見られない。コストダウンの限界を思わせる。しばらく横ばいを続けた後、00年代の半ばから図2のような上昇基調に転じることになった。これはおそらく林地残材の搬出や破砕コストの上昇に起因するものではないだろう。化石燃料価格の高騰と森林チップの需要増加に連動している。もしそうであるとすれば、林地残材そのものの価格(原木代)が大幅に引き上げられている可能性が強い。その分森林所有者の所得も増えているはずだ。この点をドイツのデータで確かめてみよう。

産業用丸太価格の上昇で潤う森林経営:ドイツでの経験

ドイツで森林チップの価格統計が整ってくるのは2003年からで、四半期別平均価格の推移が図4にまとめられている。これ以前についてはデータがなく、コストダウンの局面がどのようなものであったか知る由もないが、チップ価格の上昇はやはり2005年あたりから始まったと見てよいであろう。この10年ほどの間に平均価格は約2倍になり、2010年の第3四半期にはトン当たり90ユーロになっている。ただしこれは平均値であって、原資料にあたって見ると、最低値は40ユーロ、最高値は140ユーロで、上下の開きがべらぼうに大きい。いずれにせよ一口に森林チップと言っても品質はさまざまである。高い品質のものもあれば、ごく低質のものもあり、それが用途に応じて使い分けられているのだ。

さて、森林チップの価格が全般的に引き上げられているのは疑いないが、問題はこれが山元での木材の販売価格にどのような形で反映しているかである。ドイツの連邦政府が毎年出している『木材市場報告』には連邦有林での丸太の販売価格が、建築などに使われる「構造用」と紙パルプやエネルギーに向けられる「工業用」にわけて、公表されている。図5は2010年を100とする指数で示したものだが、まず工業用丸太の販売価格に着目すると、1990年代から2000年代の前半にかけて低い水準で低迷していたことが知られよう。この時期のドイツの林業は、長期にわたる低質丸太の売れ行き不振で苦しい状況にあったのだが、2005年あたりから工業用丸太の販売価格が上昇に転じ、この5、6年の間に2倍になった。

それと同時に構造用丸太の売渡し価格も1.5倍くらいに引き上げられている。おそらく工業用の丸太価格とも多少連動しているのであろう。それはともかく、丸太の売値が1.5~2倍になり、そのうえ林地残材のようなものまで薪やチップの原料として売れるようになった。森林経営の収支が大幅に改善されるのは当然である。図6に示されているのは、ドイツの3つの州有林における生産林1ha当りの営業所得の推移であるが、近年の順調な伸びが目立つ。赤字続きのブランデンブルク州でも黒字になった。

森林チップの生産コストと原木代

森林チップの価格は、(原木代を含まない)狭義の生産コストと森林所有者に支払われるべき原木代に分けて考えることができる。前者の生産コストは、図3のスウェーデンの経験が示すように、高性能な伐出機械・破砕機械の援用や生産システムの改善などに伴って低下していく。スウェーデンの森林燃料の実質価格は1975年から95年までの20年間に約1/3になった。ちなみに、75年、76年の価格をトン当たりに直すと、120ユーロにもなる。1ユーロ130円で換算しても、1.5万円を超える。伐出作業の機械化が遅れた日本はごく最近までこのレベルにあった。

さて、こうした森林チップの原料は、構造用材の生産に付随して出てくる梢端や枝葉、小径丸太などだが、当初、森林の所有者などにその対価が原木代として支払われることはほとんどなかったであろう。後年になって支払われるケースも出てくるが、その額はおおむねごく少額にとどまっていた。ところが00年代の半ばあたりから状況が大きく変わり、原木代の部分が膨らんでくる。森林チップの需要が増えたため、ある程度の原木代を支払わないと林地残材などの原料が入手できなくなったのだ。

もちろん現実には、チップ需要の増加で条件の悪い伐採現場からの集荷が増え、コストアップにつながったというケースもあるだろう。しかし図2(スウェーデン)や図4(ドイツ)に見られるようなチップ価格の上昇は、原木代の高騰によるところが大きく、生産コスト上昇の寄与分は比較的小さいのではあるまいか。

日本の森林チップは原木代を支払えるか

森林チップの詳細なコストデータがないと、狭義の生産コストと原木代の分離は難しいが、今回用いたスウェーデンとドイツのデータで大まかな見当をつけてみよう。そのために準備したのが表2であって、2003年と2010年のチップ価格を比較している。もともとの価格表示はドル/MWhとユーロ/トンになっているが、この両者をともに円/トンに換算して比べることにする。

10年のデータによる森林チップの平均価格はスウェーデンが7,500円、ドイツが11,900円である。スウェーデンの値が系統的に低くなるのは、一回当たりの伐採の面積と材積がドイツよりも大きく、より効率的なチップ生産が行われているからであろう。しかし日本でも路網が整備されていれば、人工林間伐の低質材からトン当たり7,500円のチップを生産するのは決して不可能ではないし、このあたりが目標になると思う。ドイツの11,900円ならまったく問題はない。日本のバイオマスFITでは未利用木材でつくられた電気には32円/kWh支払われることになっているが、ここで前提とされたチップの価格はトン当たり12,000円であった。

ところで、これまでの論議から知られるように、スウェーデンにしてもドイツにしても10年のチップ価格には、狭義の生産費に加えて相当な額の「原木代」を含んでいると見なければならない。ただ00年代前半の前半までは原木代のウェートが小さかった。その限りで03年のチップ価格は狭義の生産費に近いと言えるだろう。スウェーデンの4,500円、ドイツの6,300円がそれだ。

冒頭に出てきたIEAのデータ(表1)では地場調達燃料の平均価格がトン当たり5,000~10,000円になっていた。これにはリーズナブルなレベルの原木代も含まれていると思われるが、こうした数字に比べても、わが国のFITで想定された未利用木材のチップ価格12,000円はやや高いという感じは否めない。事実、国内の森林チップの生産コストは北欧や中欧にくらべてかなりの割高になっている。森林伐採の後の小径丸太の生産や林地残材の集荷・搬出、さらには低質バイオマスの破砕などで、コストを引き下げる余地が多々残されているように思う。

生産コストの引き下げがなければ、たとえ12,000円の森林チップであっても原木代が出てこない。原木代が出なければ、森林所有者の所得は増えず、森林経営の改善にもつながらない。表2のチップ価格で03年と10年の差が原木代だとすると、スウェーデンではトン当たり3,000円、ドイツでは5,600円になる。長年にわたる合理化とコストダウンの努力が化石燃料価格の高騰という新しい状況のなかでようやく実を結び、こうした原木代を生み出しているのである。

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