木質バイオマス発電への期待と懸念(4)~眠れる森林資源を活かす道~

増え続ける国内の森林蓄積

 森林で生育している樹木群は、時間とともに絶え間なく変化している。2,500万ヘクタールとされる日本の森林に、どれほどの林木がストックされ、それがどれほどのスピードで成長しているのか、正確に把握するのは容易ではない。むろん、全数調査は難しいから、サンプリング調査に頼ることになる。わが国の林野庁も、1999年から「森林資源モニタリング調査」を実施してきた。国土全域をカバーする4 kmメッシュの交点に固定プロットを設定し、継続的に調べているのである。毎年、全プロットの1/5について植生や林木の状況を詳しく調査し、5年経ったらまた同じ場所に戻って調べるから、この間に生じた変化が正確にとらえられる。
 第1期(1999~2003年度)の調査から推計される全国の森林蓄積量(皮付きの幹の材積)は52億立方メートル(m3)であった。それが、第2期(2004~08)の調査では、実に60億m3になり、年に1.6億m3ずつ増えてきた勘定になる。他方、年間の林木伐採量は0.35億m3前後と推定されているから、森林の年成長量は2億m3程度と見て差し支えあるまい(注)。国内の木材消費量が、立木材積で高々、1億m3/年であることを考えれば、大変な量である。蓄積量、成長量ともロシアを除く欧州のどこの国よりも大きい。

(注)拙稿「混迷を深めるわが国の森林資源統計:モニタリング調査をなぜ活用しないのか」『山林』2012年9月号

低調を極める国内の木材生産

 ところが、森林1ヘクタール当たりの木材生産量を見ると、図1にあるように、0.69m3ときわめて低いレベルに低迷している。ドイツやオーストリアの1/7、フランスやイギリスの1/5でしかない。温暖多雨な気候条件からすれば、これらの諸国と肩を並べて然るべきである。事実、1960年代の日本の木材生産はヘクタール当たり2 m3以上のレベルを確保していた。それが今では気温の低い北欧の諸国や雨量の少ない南欧諸国にも及ばないというのは、どうしたことか。

 木材生産がこんなに低調であれば、木質バイオマスのエネルギー利用が振るわないのは当然だろう。というのも、木質燃料の多くは素材生産や木材加工の副産物や残渣であるからだ。図2は、各国の一次エネルギー総供給(TPES)に占める木質エネルギーの比率を見たものである。これは、本シリーズの最初の記事(「バイオマスの近代型利用に向けて動き始めた世界の状況」2013/08/05)に出した図と基本的には同じものだが、比較の対象となる国を図1に合わせて8か国に絞った。木質エネルギーのTPES比は、森林資源の賦存状況に左右される。
 北欧二国のTPES比は20%前後、オーストリアも約15%でかなり高いが、これらの三国は、人口当たりの森林蓄積量がとりわけ大きく、いずれも木材・木製品の輸出国である。ドイツとフランスの蓄積水準は、ともに42m3/人であり、資源的には国内で必要とされる建築用の木材などを十分ではないにせよ何とか賄えるレベルにある。言わば、マテリアル利用を続けながら、その副産物・残渣などもフルに活用して、TPESの4%前後に相当するエネルギーを生み出している。日本の森林蓄積は47m3/人だから、独仏とほぼ同じレベルにあるのだが、木質エネルギーのTPES比はたったの1%。わが国の場合、小規模な熱利用がエネルギー統計できちんと捕捉されていないため、どうしても過少になるが、それを補正したとしても1.3~1.5%くらいにしかならないだろう。

豊かな森林資源が活用されないのはなぜか

 現段階での最大のネックは、木材を山から運び出す路網の不備にあると思う。中欧や北欧の諸国では、60年代に路網整備に力を入れ始め、90年代の末には、林道ネットワークの骨格部分をほぼ完成させている。ところが、日本では逆にこの90年代から路網の拡張が見られなくなった。維持管理さえまともにできなくなって、消えてしまった林道もかなりあるだろう。平成25年度の『森林・林業白書』によれば、林道、作業道のほか「公道等」を含めた林内路網密度は、森林1ヘクタール当たりわずか19mである。ドイツの118m、オーストリアの89mに比べればその差は明らかだ。
 第二次世界大戦で日本は植民地を失い、国内の森林を総動員して必要な木材を賄わなければならなくなった。奥地の森林にも林道を入れ、天然林を伐採してスギ、ヒノキの植林が進められたのである。しかし、その植林地に林道を入れるという発想は乏しかった。人工林が全般に若く、収穫までにかなりの時間があった。また当時は、皆伐が一般的であったから、林道がなくとも、旧来の架線集材などで何とか出せたのかもしれない。
 前にもふれたように、戦後の復興期から高度成長期にかけてわが国の林業は好景気に沸いていた。木造建築に使われるスギやヒノキの「良質材」が、海外では信じられないほどの高値で取引されていたからである。多少手間を余計にかけても高く売れるものをつくるという風潮が定着し、森林を育成するにも、木材を収穫するにも労働集約的な技術が選ばれてきた。
 ところが、木材市場の国際化で、外国産の木材がどんどん入るようになり、それが消費者にも広く受け入れられるようになった。スギやヒノキの良質材は特権的な位置を失い、並の商品になってしまうである。木材の価格が大幅に下落したために、在来の技術で木を伐り出していたのでは、経済的に引き合わなくなった。補助金を支給して間伐させても材は出てこない。林道がすぐ近くにあっても出てこないケースがあちこちで見られるようになった。
 このような状況に直面して、全国的なスケールで基幹林道のネットワークを構築するという政策がいつの間にか消えてしまったように思う。むしろ、木材生産を一部の森林に限定しようとする動きが出てくる。とくに、2001年に林業基本法と森林法が改正されて、林政の重点が木材生産から環境保全に大きく傾いた。それを最も端的に示したのが、国が定める森林の機能別整備目標である。全森林面積の52%が「水土保全林」、22%が保健休養関連の「共生林」になり、木材生産を重視する「循環利用林」は残りの24%になってしまった(国によるこの種の森林区分は2012年に廃止された)。

急がれる路網の整備

 国産材価格の大幅な低落を受けて、わが国でも人力中心の伐出作業から脱却しようとする動きが出てきた。ハーベスタ、プロセッサ、フォワーダ、スイングヤーダなどの「高性能機械」の導入が始まったのは、90年代の半ばあたりからである。新しい世紀に入ってその動きが加速され、2012年度末までに高性能機械の総保有台数は民有林だけで約5,700台に達した。

 これらの機械の生産性自体は、旧来のものより格段に高く、上手に使いこなせば、伐出コストの大幅削減にもつながる。ドイツやオーストリアのレベルまで引き下げることも、十分に可能だろう。ただし、それには路網の林内密度を高めることが絶対の条件である。国内の森林の40%を占める人工林が、間伐や主伐の収穫期を迎えつつある中で、基幹林道の整備をないがしろにしてきたことが、重ね重ね悔やまれる。 
 これまでの間伐補助金は、1ヘクタールの人工林の間伐に対して、いくら支給するというタイプのものが多かった。樹木を伐倒しても、搬出する道がなければ材は出てこない。伐り捨て間伐などで年に2,000万m3もの「未利用木材」が発生しているのは、政策のこうしたちぐはぐに一因があるのではないか。そのうえ、間伐補助金が各地の原木市場での素材価格を押し下げているという話は、以前から囁かれてきた。また、補助金制度の変更があると、市場への材の出方が極端に変わってくる。林業の先進国で間伐補助金がほとんど見られないのは、市場メカニズムを狂わせる危険が大きいからである。
 政府が本来やるべきこのとは、一時しのぎの間伐補助金で出材を促すことではなく、路網整備や伐出技術の改善を通して、補助金がなくても林業経営が成り立つような条件をつくる出すことだ。

放置林を木材生産の戦列に復帰させる

 具体的な数字で検証することは難しいが、筆者がこの2、30年来各地を見てきた印象からすれば、林道がないために材が出せず、林業経営の戦列から離脱する森林が確実に増えているように思う。森林1ヘクタール当たりの木材生産量が、中部ヨーロッパの1/5とか1/7になってしまうのは、木材生産に参加する森林があまりにも少ないからである。このような状況をそのままにして、発電用バイオマスの需要が大幅に増えるようなことがあれば、マテリアル利用など他用途との競合が激しくなるのは避けられない。原料を奪われる製材、合板、木質ボード、紙パルプなどの業界が危機感を募らせるのは当然だが、燃料用チップの価格上昇を通して禍は発電事業にも及んでくる。FITでの売電価格は20年間も固定されるわけだから、燃料の調達コストが年々引き上げられるようなことにでもなれば、悪夢以外の何物でもない。
 現時点で優先的になすべきことは決まっている。長年放置されてきた人工林などに、順次基幹林道を入れて、これらの森林を再び木材生産の戦列に引き戻すこと、そして構造用の木材とエネルギー用バイオマスの供給をともに増やしていくこと、これしかない。マテリアル利用とエネルギー利用が、木質資源の取り合いをやってのでは共倒れになってしまう。資源の徹底したカスケード利用を通して、互いに利益が得られるような共存共栄の方策を探っていくべきである。
 この点については、本シリーズの「鍵を握る木質バイオマスのカスケード利用」で言及している。思い起こしてもらうために、図3を再掲した。製材工場に入る丸太のうち発電プラントに行くのは樹皮であり、製材に向かない小丸太や枝条で発電などの大型ボイラに向けられるのは、最も質の低い木質バイオマスである。製材用丸太のカスケード利用と低質材の分別利用を徹底させることで、発電用燃料の調達コストは引き下げられるだろう。それは、また「森林チップの生産コストを引き下げて電気の買取価格を低いレベルに抑えることがマテリアル利用との競合を避ける最善策である」とする筆者の主張にも通じる。

結び

 放置林を木材生産の戦列に復帰させるうえで、今回のバイオマスFITが果たすべき役割は決して小さくない。低質バイオマスの有力な出口になるからである。近い将来、バイオマス発電で1,000万トンの燃料需要が発生したとしても、国内の森林にはそれを満たすだけの資源は十分にある。問題は、必要な木材が山から安定して出てくるようなサプライチェーンが構築できるかどうかだ。
 もちろん、将来に向けて状況は変わっていく。2000年にFITの制度をスタートさせたドイツの場合は、マテリアル利用とエネルギー利用の両方が大幅に増えて、木質原料の需給が逼迫し、森林チップの価格も2倍になった。その結果、大規模発電の抑制と小規模な熱電併給への傾斜が目立っている。木質バイオマス発電を手掛ける事業者の皆さんも、将来起こり得る状況変化を絶えず念頭に置いて、事業を進めていただきたいと思う。

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動画:木質バイオマスエネルギー ~日本の森林を活かして 地球温暖化を救え!~