木質エネルギーの市場競争力:熱供給と発電

熱軽視のエネルギー政策

 最初のレポート(「バイオマスの近代型利用に向けて動き始めた世界の状況」)で触れたように、2010年の時点で広い意味でのバイオマス(IEA統計でいう「生物燃料および廃棄物」)は、先進国(OECD加盟国)においても、一次エネルギー総供給の4.9%を賄っている。再生可能なエネルギーの中でこれに次ぐのは水力発電だが、大規模水力を含めてそのシェアは2.1%ほど。風力、太陽光、地熱などその他の自然エネルギーは全部合わせても1.2%くらいにしかならない。
 にもかかわらず再生可能なエネルギーと言えば、風力や太陽光、地熱などが前面に出てきて、バイオマスの影が薄い。こうなった理由の一つは、電力を重視し、熱を軽視する各国のエネルギー政策にあると思う。総エネルギー消費の40%前後が暖房や給湯などの熱供給に向けられていることを考えれば、片手落ちと言うべきだろう。バイオマスの得意分野は熱供給であり、実績でもそうなっている。
 ところが発電が政策的に優遇されるとなれば、多少無理をしてでもバイオマスで発電しようという動きが出てくる。わが国でもFITの制度が発足して、バイオマスでつくった電気がかなり有利な固定価格で販売できるようになった。5~10MWないしそれ以上の本格的なバイオマス発電所を建設する計画が全国のあちこちで持ち上がっている。欧州ではこうした「発電先行」の考えに疑問を呈する向きが少なくない。その根拠となっているのは次の三点である。

  1. 発電ではバイオマスに含まれるエネルギーのごく一部しか電気に変えられない
  2. 一定量のバイオマスで化石燃料を代替する場合、節約されるCO2の量は発電より熱供給のほうがずっと大きい
  3. 石油価格の高騰でバイオマスによる熱供給の市場競争力は確実に強まっている

 今回はまずこの三つの論点を一瞥した後、バイオマスによる熱供給と発電が化石燃料との対比でどれほどの市場競争力を持っているか、国際エネルギー機関(IEA)が最近公表したデータをもとに検証することにしたい。

バイオマス資源の効率的利用を重視するオーストリア

 バイオマスのエネルギー利用で電気と熱のどちらに軸足を置くべきか。これはなかなか微妙な問題で一律には論じられない。欧州ではどちらかと言うと熱重視の傾向が強いように思う。たとえば以前オーストリアのバイオマス協会で会長を務めていたH.コペッツ氏などは、公の席で熱重視の考えを繰返し強調していた。その根拠となったのはエネルギー変換効率の違いである。

 表1は、2007年にユトレヒトで開かれた会議に提出された資料の一部だが、彼が言いたいのは、バイオマスを直接燃やして熱を生産すれば、バイオマスが内包するエネルギーの85〜90%が有効な熱に換えられる。ところが、バイオマスから電気だけをとろうとするとせいぜい25〜30%しか電気に換えられない。残りが無駄になってしまう。それゆえ発電するなら排熱も利用する熱電併給でなければならぬ、という主張である。
 この表のエタノール発酵には若干の注釈が必要だ。40〜50%という効率は、穀類などを原料とする「第一世代」のバイオ燃料の話である。木質系の「第二世代」ではとてもこのレベルの効率は得られない。ところがEU当局はバイオ燃料についても2020年までに達成すべき目標を各国に提示していた。こうしたEU指令に反発する声も聞かれる。オーストリアは既存のバイオマス資源をほぼ目一杯に使っており、発電や液体燃料についてのEU指令を達成しようとすると、熱供給に使われていた木質燃料を不本意でもそちらに振り向けるしかない。これは最適利用からの逸脱だと言うのである。
 いずれにせよバイオマス資源の需給がひっ迫してくると、資源のより効率的な利用が強く求められるということだろう。早い話が、未利用バイオマス資源の多いアメリカでは熱電併給の評判はあまり良くない。発電に熱利用を義務づけると、発電できる場所が限られて資源の有効利用がかえって妨げられると見られている。

バイオマス発電をFITから外したイギリスの論拠

 イギリス政府が再生可能なエネルギー源の一つとしてバイオマスを本格的に取り上げるようになるのは、2003年のことである。この年にエネルギー問題を所管する通産省(DTI)と環境・食糧省(Defra)が共同して「バイオマス・タスクフォース」を立ち上げ、集中的な検討を行った。その最終報告書で強調されているのは熱生産の重要性である。風力発電や太陽光発電と比べてバイオマスがとりわけ優れているのは、質の高い熱が効率的に生産できることにある。加えて昨今の石油価格の上昇でバイオマスによる熱生産が経済的にも有利になったことも指摘している。
 地球温暖化対策で世界をリードしようとするイギリスは、エネルギー政策においてもCO2の削減が重要なポイントである。たとえば1トンの木質チップ(発熱量4000kWh)を用いて化石燃料に置き換えたとき、どれほどのCO2 が節約できるか。タスクフォースの報告書によると、変換効率の低い発電では0.5トン程度しか節約できないが、変換効率の高い熱生産であれば、その倍の1トン強の節約になる、と言う。
 こうした理由をもとに、イギリスでは「バイオマスは熱生産に振り向け、発電には使うべきではない」というスタンスが定まった。熱に対しては「世界初」と自賛する固定価格買取制度(Heat Incentive)を立ち上げたが、通常のバイオマス発電は効率が低くコスト的に割高だとして電力FITの対象から外してしまった。政策的に力を入れているのは国内の森林資源を利用した分散型の小規模CHPである。
 しかしその一方で、イギリスは海外から大量の木質ペレットを輸入して石炭火力でのバイオマス混焼を積極的に進めている。この背景には、CO2をたくさん排出する石炭の使用を何としても減少させるという政策目標があるようだ。

ペレット暖房でのコスト比較

今世紀に入って石油や天然ガスの価格が上昇し、熱供給分野での木質燃料の競争力を強めていることは疑いない。この文脈でよく引き合いに出されるのが、石油暖房とペレット暖房のコスト比較である。

 図1はオーストリアのペレット協会が継続的に調査している燃料価格の推移である。価格は発熱量当たりのユーロセントで示されているが、2002年あたりでは暖房用軽油とペレットはともに5セントでほぼ同じレベルにあった。その後、ペレットの価格はおおむね横ばいで推移しているのに、軽油は約2倍の10セントに跳ね上がった。これが国内のペレットの消費を大きく押し上げる一因となっている。

 ただ最終的な優劣は発熱量当たりの燃料価格だけでは決められない。というのも木質焚きの燃焼機器は、化石燃料焚きのそれに比べて構造が複雑で設備費が嵩むからである。図2は、戸建て住宅に出力15kWの小型ボイラを導入して1年間運転した場合、石油とペレットで総暖房費にどれほどの差が出てくるかを見たものである。設備費は石油ボイラの700ユーロに対してペレットボイラはその2倍の1400ユーロ。運転費もペレットのほうが若干高い。
 しかし燃料価格の高騰で石油ボイラの燃料費が大きく膨らんで、総暖房費ではペレットボイラのほうが2割近く低くなっている。もちろん燃料の価格は毎年不安定に揺れ動く。図1の即して言うと、石油価格の高騰した2008年のデータを使えばペレットは確かに有利になるが、石油の下落した翌09年のデータでは逆転する可能性もある。とはいうものの石油価格の高止まりが続く限り、ペレット市場は安泰だと見る向きが多い。

IEAの包括的なデータから見たバイオマス熱供給の市場競争力

 さて、バイオマスのエネルギー変換は、熱供給にしても発電にしても、すこぶる多様である。生産コストは変換方式、出力規模の大小、各地の燃料価格などによって大幅に変わってくる。市場競争力の判定においても、できることなら包括的で国際標準となるようなデータで比較したい。ここでは最近公表されたIEAの報告書のデータを使うことにする。
 IEAは新しい長期のエネルギーシナリオをつくるに当って、その前提となる「テクノロジーロードマップ」を作成している。バイオマスについては、熱供給と発電の出力規模別コストが2010年と2030年を対比する形で試算された。もとになったデータは主として欧州のもので国際標準とは言えないし、相当大胆な仮定も含まれていると思う。大まかな目安と解されたい。

 まず熱供給についての2010年の数値をまとめると、表2のようになる。取り上げられているのは、熱出力12kWの家庭用ストーブから5,000kWの産業用プラントまで広範囲に及ぶ。熱供給プラントの大きな特徴は、定格kW当りの資本コストで出力規模による格差がきわめて小さいことと、熱への変換効率でも規模の大小を問わず、高いレベルに達していることである。この点が次項に述べる発電プラントと決定的に違っている。
 熱供給の経済性計算で、いつも問題になるのが燃料の種類と価格だが、小型のものは質の高いペレットを使い、大型のものは普通のチップを使用することになっている。燃料の調達価格について日本と比較すると、チップは日本と大差はないが、ペレットは日本よりもかなり安い。
 以上の前提で算出された熱供給のコストを見てみよう。家庭用のペレットストーブや商業用のペレットボイラでのコストは、前者が7〜26円/kWh、後者が6〜15円/
kWhで、石油やガスと十分競争できる位置にある。他方、産業用のチップ焚きボイラでは熱の生産コストが3〜7円/kWhのレベルにまで下がっている。石油焚きボイラに比べて半分のコストで済むことになり、天然ガス焚きの機器ともいい勝負である。

規模の経済が強く働く発電コスト

 発電のほうは表3にあるように、電気出力1万kW以下、1〜5万kW、5〜10万kWおよび石炭混焼の4つに区分されている。いずれの項目も出力規模による落差が大きい。定格出力当りの資本費用で1万kW以下と5〜10万kWとを比較すると、前者は後者の2倍以上になり、発電効率においても14〜18%と28〜40%という開きが出ている。
 また発電コストで見ると、石炭火力でのバイオマス混焼は6〜13円/kWhで、石炭専焼とほとんど変わらない。ところが1〜5万kWのバイオマスプラントの発電コストはこの2倍、1万kW以下では3倍にもなってしまう。
 IEAのロードマップで興味深いのは、バイオマス燃料の区分で「地場調達燃料(Locally collected feedstocks)」と「国際流通燃料(Internationally traded feedstocks)」のカテゴリーを設けていることだ。前者は森林から出てくる間伐材や小丸太、林地残材などをチップにしたもので、その調達価格はトン当たり5,000〜9,000円。出力の小さい発電プラントではこれが使われる。輸送費を節約すべく近隣の森林から燃料を集め、かつ簡単な前処理で済ますのが原則である。発電規模が小さければ比較的少量のバイオマスで足りるが、反面、発電効率の低下は避けられない。発電の排熱を地域でうまく利用して収支をバランスさせることになる。まさに地産地消型のバイオマス利用と言ってよい。
 もう一つの国際流通燃料のほうは、前処理に手のかかる木質ペレットが想定されているため、調達価格も12,000〜19,000円と地場調達チップの2倍以上になっている。5万kW以上の大規模発電では燃料の消費量が非常に大きくなる。森林から下りてくるバイオマスで全部賄うのは難しく、輸入ペレットに頼らざるを得ない。その結果燃料コストが嵩み、かつ規模が大きいだけに排熱の利用でも多くは望めないが、効率的なエネルギー変換でその不利をカバーしようという魂胆だろう。
 わが国でも中長期の展望としてバイオマスのエネルギー変換がこの二つに分かれていく可能性も考えられる。すなわち内陸部の中山間地で分散型の熱電併給システム、一方の沿岸部で輸入燃料による高効率のエネルギー変換システムという状況がそれだ。
 次回は分散型熱電併給の可能性と課題について考えることにしたい。

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