木質バイオマス発電への期待と懸念(2)~森林チップの生産コストはどこまで下げられるか~

従来のやり方では調達コストは下げられない

 これまで、熱供給用や発電用のボイラで燃やされるチップと言えば、おおむね廃木材系のチップに限られていて、森林系はほとんど使われていなかった。その理由は、森林燃料の調達コストがあまりにも高かったからである。

 今から10年前の2004年6月に、経済産業省から『新エネルギー産業ビジョン』と題する報告書が公表された。この冊子には参考資料として「木質系バイオマスの資源コスト」が表1のような形で掲載されている。資源コストというのは、木質燃料の調達費用のことだが、森林から出てくる3種類の木質チップと、廃棄物系の5種類の木質燃料のあいだには、画然とした落差がある。
 廃棄物系燃料の場合は、処理費の収入も加わることで、製材残材、建築廃材ともに、おおむねトン当たり5,000円以下に収まっている。ところが、森林系のチップは、その3倍から6倍の15,000円から32,000円に及んでいる。これが事実なら、ボイラ燃料の市場で廃木材系のチップが出回っている限り、森林系チップの出番はないことになる。
 また、未利用木材でつくられた電気が、たとえkWh当たり32円で販売できたとしても、こんなに高い燃料を使ったのでは、全然引き合わない。32円の買取価格が低すぎるという意見はここから出てくる。
 たしかに、人力中心の在来型の作業方式で森林チップの生産費を求めると、かなりの高額になってしまう。例えば、表の左端にある「林地残材」というのは、スギ・ヒノキなどの人工林を皆伐して製材用丸太を運び出した後、山に残る端材や梢端、枝葉のことだが、あちこちに散らばった残材を人手で集めるとなると、その労務費は大変なものだ。
 次の「間伐材」については、二つのケースがある。一つは、比較的若い林の「保育」間伐だが、細い樹木の抜き伐りだから、伐倒、造材、集材のいずれの段階でも能率が上がらない。もう一つのケースは、「利用間伐」と呼ばれるもので、太い丸太が伐り出された後の林地残材がエネルギー利用の対象となるが、その搬出には皆伐の場合よりもずっと手間がかかる。
 三番目の「未利用樹」で想定されているのは、道が入っていないために手が入らないまま放置されている森林からの出材などだろう。林道整備まで要求されるとすれば、コストが嵩むのは当然である。
 いずれにしても、チェンソーで伐倒して枝を払い、ウィンチのような簡単な機械で引き出す在来の方式を踏襲する限り、これを大幅に引き下げるのは至難である。また、共通して入ってくる5,000円/トンというチップ化のコストも著しく高い。

求められる林業そのものの近代化

 筆者も当初、経産省の報告書に付された参考資料など気にも留めていなかったが、一部のエネルギーの専門家が、表1のデータをもとに「森林バイオマスは高すぎてエネルギーとして使えない」と言うのを聞いて、放置するわけにはいかなくなった。森林チップの「資源コスト」は、明らかに高めに推定されている。ネガチィブな結論が出るように仕組まれたものではないかと疑ったほどだ。しかし、在来のやり方を踏襲すれば相当に高くなるのは事実だから、全面的に否定するわけにはいかない。

 そこで、決まって引き合いに出すのが、スウェーデンでの経験である。図2は、以前このシリーズで紹介したものだが(「気がかりな森林チップの価格動向」、2014/
01/20付)、森林バイオマスのエネルギー利用を早くから進めていたスウェーデンでも、1970年代の半ばころは森林チップの価格がMWh当たり40ユーロにもなっていた。1トンの木質チップの発熱量が4MWhとすれば、トン当たりでは160ユーロである。日本円にすると2万円前後になるだろう。それが20年後の90年代半ばになると、トン当たり50ユーロくらいまで引き下げられている。
 図の横軸は、森林チップの累積の生産量が取られていて、チップの価格と強い負の相関関係にあることが分かる。典型的な「学習曲線」だ。生産の拡大とともに経験が積まれ、生産の方式や技術が改善されていったのだ。しかし、さらに重要なのは、1975~95年まで20年間に伐出作業の体系が、旧来の人力中心から機械力中心の体系に代わり、作業員一人当たりの丸太の生産量が飛躍的に伸びていることである。林業と林産業で、生産規模の拡大や機械化の進展といった「近代化」がなければ、森林バイオマスのエネルギー利用は進まない。これが欧州の経験から得られた結論である。
 わが国の場合は、林業も林産業も外材に対抗する戦略として規格品の量産ではなく、多少手間が余計にかかっても高く売れる良質材の生産を志向してきた。そのために近代化が遅れ、伐出作業での本格的な機械化は、今世紀に入ってからである。

日本は今、過渡期にある

 近年では、日本でも欧州型の作業体系を採用するケースが増えてきた。伐倒は従前通りチェンソーだが、枝の付けたまま林道端まで引き出す「全木集材」や枝だけ落として引き出す「全幹集材」の方式が導入され、枝払いや玉切も林道端ですべて機械により実行されるようになった。これによって、森林チップの生産コストはどれほど低下したであろうか。

 われわれの木質バイオマスエネルギー利用推進協議会は、既存の174の調査事例をもとに、森林チップの生産コストの取りまとめを行った。それを総括したのが表1である。これらの調査は林野庁、都道府県、NEDOなどの補助事業として2006~12年に実施されたもので、新しい機械設備を導入して試験的に実施したケースがかなり含まれている。

 調査の事例は、全木または全幹集材で林道端まで引き出し、製材用の丸太(A、B材)を取ったあとの小径木(C材)、端材、枝葉を集めチップ化することになるが、収集するバイオマス範囲で三区分してコストが集計されている。つまり①小丸太に限る場合、②これに端材を加える場合、③さらに枝葉を加えた場合がそれである。一見して明らかなように、いずれの場合のコストも、最低値と最高値の開きは極めて大きい。
 これほどの開差が出るのは、伐採の対象となる林分の状況や地形条件などの違いのほかに、新しい機械を導入したものの、十分に使いこなしていないケースが多いように思う。とくに伐出作業の場合は、伐倒に始まって集材、造材、搬出に至る一連の過程で、いくつもの機械を組み合わせて使うことになるが、個々の機械の性能が高くても、組み合わせ方がまずいと遊休の時間が増えて、コストダウンにつながらない。システムの全体が、スムースの動くようになるまでに相当な時間を要する。筆者自身、この調査事業のいくつかにかかわり、現場も見てきているが、1年目、2年目と経験を重ねながらコストを引き下げる例が少なくなかった。わが国でも、近年伐出コストを欧州並みに引下げた事例が各地に出ているとも言われている。しかし、全体としては「過渡期の学習段階」にあるように思う。安定したコストデータが得られるのは、もう少し先になるかもしれない。

 次の表2は、チップ化のコストだけを抜き出したものである。まず、破砕する場所が、山土場かそれ以外かで大別されているが、前者は、燃料用のバイオマスを林道端の土場に集積しておいて、そこに移動式のチッパーを持ち込んで破砕する方式であり、後者はプラントないしは中間土場にまでバイオマスを運んで、固定式または移動式のチッパーで加工する方式である。チッパーには、ナイフで切削するタイプのものと、シュレッダーやハンマーミルで砕くタイプのものとがある。
 この表で何よりも驚かされるのは、破砕だけにトン当たり5,000円以上も費やしている事例がきわめて多いことだ。欧州では、せいぜい1,000円台か、あるいはそれ以下で済ませているだろう。後述するように、わが国では破砕機の選択と使い方に問題があるように思う。

伐出方式のブレークスルー

 172の調査事例をもとに、森林チップの平均的な生産コストを求めると、トン当たり12,783円(表1)になり、うち破砕だけで4,631円(表2)かかっている。欧州に比べるとかなり高い。伐期が80~100年の墺・独の森林に比べると、日本の人工林は、全般に未熟で材が細く、主伐にしても、間伐にしても、能率が上がらない、と言われる。また、傾斜の急な日本の森林の不利を指摘する向きもある。しかし、こうした不利は絶対的なものではない。
 木質バイオマスエネルギー利用推進協議会が、2104年1月に開いた勉強会で、㈱環境リアライズの石山浩一氏から、オーストリアの興味深い間伐の事例を紹介してもらった。間伐の対象となったのは、傾斜地にあるⅣ齢級(16~20年生)の人工林で、間伐木の胸高直径は18~20cm、面積は2ヘクタール。

 間伐は、架線集材機のタワーヤーダと枝払いと玉切り用のハーベスタを一体化した「コンビマシン」が使われた(写真)。作業員は、チェンソーによる伐倒、荷掛け、オペレータに各1名で合計3人。このチームの作業能率は極めて高く、一日に100立方メートルの材を生産するという。日本の場合、3人一組で一日20立方メートルを超える例は珍しいのではないか。

 伐り出された間伐材の60%が製紙用で、残りの40%が燃料に向けられる。燃料用の低質材が売れるようになって、若齢級の間伐でも採算がとれるようになったという。
 コンビマシンの第一の特徴は馬力が大きく、力が強いことだ。日本に入っているタワーヤーダは、枝葉をつけたままの伐倒木を一本持ち上げるのがやっとなのに、向こうのは三本も四本も束にして持ち上げている。わが国で使われている林業機械を見て、いつも思うのは、小型のものへの執着が強いことだ。生産規模に見合った機械が選択されているということであろうが、性能の低い小型の機械では、どのように工夫しても生産性の飛躍は望めない。思い切って高性能の機械を導入し、その機能がフルに発揮されるような使い方を工夫すべきであろう。
 破砕機のチッパーについても同じことが言える。1時間に1トンのチップを生産する小型は数百万円くらいで入手できるが、50トン生産する大型機の価格はその10倍くらいになるだろう。しかし、チップ1トン当たりの破砕費用は前者が5,000円、後者が500円くらいの差が出てくる。オーストリアには巡回する専門の破砕業者がいて、驚くほど安い料金で仕事をしてくれる。この仕組みのお蔭で、小規模の生産者は独自の機械を持つ必要がなくなり、しかも大型チッパーの恩恵にあずかれるのだ。

補助金政策を見直そう

 最後に一つだけ強調しておきたいことがある。日本では、間伐には補助金がつきもののように思われているが、オーストリアでもドイツでも間伐への公的補助金は一切ない。補助金がないからこそ、収益の上げにくい間伐のコストをどうやって引き下げるか、誰もが真剣に考えるのだ。欧州では毎年、大掛かりな林業機械展やバイオマスエネルギーの展示会・シンポジウムがあちこちで開かれ、大勢の参加者で賑わう。彼らは絶えず新しい技術を求めているのだ。そうした努力のお蔭で、林業の市場競争力が強まり、木材・木製品の輸出が目に見えて伸びた。木質バイオマスのエネルギー利用も着実に進展している。
 ところが、日本は林業を補助金漬けにしてしまった。林業振興の名のもとで植林、保育、間伐、作業道の整備など、いろいろなものに補助金がつくようになり、それがいつの間にか、補助金がないと何もしないという風潮を生んだ。木を植え、手入れをして、間伐するという一つ一つの行為が林業経営の一環としてではなく、あたかも雇用対策の公共事業のようにバラバラにして取扱われるようになった。その結果、木材生産を通して収益を上げるという林業経営の本来の理念がすっかり霞んでしまい、コストダウンのインセンティブも働かなくなった。これこそわが国の林業が、市場競争力を失って長期衰退を余儀なくされた根本的な原因である(脚注)
 これまでの政策をそのまま続けてよいかどうか。とくに、間伐補助金は木材市場への影響が大きく、この先の展望もなしにだらだらと続けるのは非常に危険だと思う。政府が真っ先になすべきことは、林業の基本インフラである路網の整備である。路網がなければ、高性能の林業機械も入れられない。のみならず、軽装備の「自伐林家」の活動領域も著しく狭められてしまう。
 実のところ、先に紹介したコンビマシンで所期の成果を上げられる場所は比較的限られている。欧州の木材生産において、中小の森林所有者や農民たちの果たす役割は非常に大きい。農業用トラクタをベースマシンにして、自分で伐倒した林木を山から引き出し、破砕までやっている。それというのも、所有森林の中や近くに車の通る道ができているから、大型の重機を入れなくとも、リーズナブルなコストで材を出すことができるのだ。大きな機械を入れたらかえって割高になる。
 これまで見てきたように、未利用木材のFITの買取価格が32円に設定されても、森林チップの調達コストが高ければ、木質バイオマスは山から出てこない。木材が下りてこなければ、限られた木質原料を巡ってマテリアル利用との奪い合いがますます激しくなる。しかし、だからと言って、このコスト高を一時しのぎの補助金でカバーしようとするのは完全に間違っている。事態を一層悪化させるからだ。路網をしっかりと整備して、伐出コストの確実な低下を目指すのが本筋だと思う。

(脚注)この点については10回にわたる次の連載記事で詳しく述べている。熊崎 実「林業再建の道(1)~(10)」『山林』(大日本山林会)2010年4月号~11年1月号。

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動画:木質バイオマスエネルギー ~日本の森林を活かして 地球温暖化を救え!~