木質燃焼灰は産業廃棄物か

自然の循環に返されなくなった木質灰

 木を燃やすと、必ず一定量の灰が出る。古来、かまどなどで薪を燃やして出た灰は、肥料として畑にまかれるか、近くの野山に捨てられるかして、自然に返されるのが常であった。灰の成分は、いずれ植物の成長に使われるだろう。つまり、灰は自然の循環の中にあった。
 ところが、今では、木質バイオマスボイラから排出される燃焼灰が、都市ゴミなどの焼却灰と同一視されて、産廃扱いになっている。埋立て地への直行で、もはや自然の循環には戻れない。確かに、大型のボイラで燃やされるバイオマスの量が大変なものだ。年に6万トンのチップを燃やす5MWのバイオマス発電所からは、数千トンもの灰が出てくる。そこらに捨てられるような半端な量ではない。そのうえ、人間の健康や環境に良くない重金属などを含んでいる可能性もある。そうした懸念があるために、しっかりした証拠がないまま、有害な廃棄物として処分されてきたのである。
 オーストリアのI. Obernbergerらの推計によると、固定床ボイラから出る1トンの木質灰の中には、241ユーロに相当する肥料分が含まれている(2009年1月の各種市販肥料の価格を適用)。しかるに、これを産廃として処理する場合には、200~500ユーロの出費になるらしい。どちらに転ぶかで雲泥の差が生じるのだ。有害な重金属などの混入が少なくなれば、肥料として十分に活用することができる。それにはどのような方策があるのか、今回はこの点を中心にして話を進めることにしたい。

木質灰の正体

 表1は、温帯で生育した(平均的な)木材が、どのような元素からできているかを見たものである。樹皮を除く木部の大部分は、炭素(C)と水素(H)と酸素(O)である。もともと、光合成の産物である木の主たる原料が、大気中のCO2と地中の水(H2O)であることを考えれば、当然のことだろう。木が燃えると、炭素と水素はそれぞれ酸化されて、CO2と水になり、自然界に戻っていく。燃えないで残る部分が「灰分」である。水を除く木の重量比で見ると、0.5~2%ほどしかないが、灰分の中にはさまざまな元素が含まれている。

 植物の生育に欠かせないカルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、カリウム(K)、リン(P)などと並んで、鉛(Pb)やカドミウム(Cd)、水銀(Hg)のような重金属が、いくつも入っていることに注意したい。こうした重金属の多くは、通常低い濃度で地中に埋め込まれていて、害を与えることはめったにないのだが、樹木はこれを水と一緒に少しずつ根から吸収する。寿命の長い樹木は、草本類よりもずっと多くの重金属類を貯めこんでいる。木が燃やされるとそれがすべて灰に集まり、灰での濃度が危険なレベルにまで高まることがある。こうなると、まとまった量の灰を放置するわけにはいかない。
 燃焼灰の量や成分は、バイオマスの種類によってかなり違ってくる。表2にあるように、樹皮の灰分率は5~8%とかなり高い。また、バイオマスの集荷や貯蔵の過程で土砂が付着し、灰分率を高めることがある。おが屑の灰分が少ないのは、この両者がほとんど入り込んでいないからである。さらに、一度使われた「廃材」からチップをつくると、プラスチックや金属のような異物のほか、塗料や接着剤、防腐剤に含まれる有害物資が入り込む可能性もある。灰分率は、3~12%で扱いの厄介な燃料と言ってよい。

燃焼灰の類別

 燃焼灰を肥料として利用する場合に一番問題になるのは、重金属類の混入であるが、これを避けるオーソドックスな方法は、サイクロンやバグフィルタのような除塵装置をつけることである。比較的熱出力の大きい固定床のバイオマスボイラには、この二つの除塵装置が図1にあるような順序でつけられている。燃焼炉でバイオマスが燃やされて出てくる灰は、三つに分かれて流れ、それぞれの灰ピットに落とされる。

 燃焼炉の火格子を通してすぐに落下するのがボトムアッシュ(主灰)で、全体の60~90%はここに落ちる。しかし、細かい不燃物などは、ここには落ちないで排ガスに混じって浮遊している。そこで、まず、サイクロンにかけて粗い粒子を振るい落とすことになるが、ここで出てくるのがサイクロン飛灰だ。重量でのシェアは10~30%。もっと微細な粒子はバグフィルタ(あるいは電気集塵機)で取り除かれ、フィルタ飛灰となって別の灰ピットに入る。その量は、比較的わずかで2~10%にとどまる。
 サイクロンやバグフィルタのような除塵装置を二段構えで付けるのは、バイオマスの燃焼に伴って発生するさまざまな浮遊物をしっかりと取り込み、煙突から外に逃げていく量を可能な限り少なくすることにある。しかし、それは燃焼灰の類別を可能にし、有用な肥料成分と有害な重金属類の分離にも役立っている。

 図2を見ていただきたい。樹皮の含まれた木質チップを固定床ボイラで燃やした時に出てくる灰を対象にして、Ca、Mg、K、P、Naの植物栄養素が、それぞれ3種類の灰の中にどのような比率で分布するかをグラフにしたものである。各要素の3本の柱を足し合わせると100になる。全体を通して言えることは、栄養素の約50%はボトムアッシュに、40%はサイクロン飛灰に行き、フィルタ飛灰として落ちるのは10%程度ということである。

 次の図3は重金属について見たものだが、非揮発性のコバルト(Co)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、バナジウム(V)は植物栄養素と同じようなパターンになっている。ほとんどがボトムアッシュとサイクロン飛灰に行き、フィルタ飛灰に入るのは10%に満たない。他方、揮発性のZn、Pb、Cd、Hgではボトムアッシュにはごくわずかしか入らず、大部分はサイクロンとバグフィルタで捕捉される。環境保護の観点から危険視されているのは、揮発性の重金属類である。その大部分が燃焼灰の2~10%とされるフィルタ飛灰や10~35%のサイクロン飛灰の中に効果的に閉じ込められているのは幸いなことである。
 というのも、ボトムアッシュは肥料として活用し、フィルタ飛灰は産業廃棄物として処理するという原則が得られるからだ。両者の中間のサイクロン飛灰については、植物栄養素が相当量含まれているという理由で、欧州ではボトムアッシュと同じ扱いになっていることが多い。

クリーンな木質燃料だけを使う

 以上に見たように、除塵装置の導入は有害な重金属の混入を避けるのに有効ではあるが、かなり高価であるため、小出力の燃焼機器には付けられない。事業用のボイラでも、せいぜいサイクロンまでで、バグフィルタまで装備するケースはまれである。住宅用のストーブや小型ボイラは、サイクロンも欠いている。(2.9このような場合に適用される原則は、「有効な除塵装置がなければ環境汚染物質を含むバイオマスは燃やさない」ことである。前回話題にした「燃焼用木質チップの品質規格」でも、この原則が貫かれていて、小型のボイラで使える燃料は、クラス1または2(EN規格のA1、A2)のクリーンなチップ(virgin wood)に限られる。混じりけのない自然のままの木質チップであれば、重金属もそれほど含まれておらず、施肥に向けてよいとされている。薪ストーブから出た灰を庭園や自家菜園に撒くのは構わない。

 要するに、肥料に使える燃焼灰はボトムアッシュとサイクロン飛灰、それに自然のままの木質燃料を燃やした灰ということになるのだが、これは一種の目安であって、正確なものではない。欧州の一部の諸国では、重金属の含有量が一定の限界値以下でないと肥料としては使えないという規則を定めている。三つの国の例を表3にまとめておいた。

 オーストリアの基準は、農地と林地の両方に適用されるが、施肥の対象となる土壌の化学的特性に応じて、クラスAかBのいずれかの限界値が使われる。北欧の2国は、皆伐に近いやり方で木材が伐り出され、しかも梢端や枝葉(時には根株)まで燃料用バイオマスとして持ち出されているため、燃焼灰は可能な限り森林に返すという方針が取られている。重金属の上限値と並んで、(この表では省いたが)植物栄養素(Ca、K、Mg、P)の下限値を規定しているのはそのためだ。
 ただし、燃焼炉から出てきた灰をそのまままき散らしているわけではない。スウェーデンでは、粒状化処理(granulation)をして林地に散布している。また、ドイツからの報告では、スクリーニングした木質のボトムアッシュに若干の水(2~10%w/w, w.b)を加えたものを、石灰に混ぜて林地に施用する試験が行われた。乾量基準で木灰30%、石灰70%の割合だが、技術的にも経済的にも実行可能だとされている。
 残念なことに、木質灰の利用は欧州でもあまり進んでいない。先頭を走るとされる中欧や北欧の国ぐにでも、実際に利用されている量は比較的少なく、今なお廃棄処分が幅を利かせているようだ。表3の出所となったIEA Bioenergy Task 32の報告書は、その原因として技術的な難しさのほかに、法律・制度の不備、基礎知識・訓練の欠落なども指摘している。

廃棄物から工業製品になった石炭灰

 火力発電所から大量に出てくる飛灰も、かつては産業廃棄物として扱われていた。それが、今では工業製品と位置付けられ、日本工業規格でもその品質基準が定められている(JIS A6201-1999)。石炭飛灰はコンクリートと相性がよく、骨材にすると耐久性や施工性、流動性が高まる。それが認められたのだ。また、吸湿性が高いため、汚泥処理やシールド工法で排出される流動性残土を処理する際、混合して埋戻しに使用される。そのほか、埋め立て工事の土質改良に使われたり、比重が小さいことを利用して、土留工事や擁壁工事などで地泥と混合して使用されているという。
 石炭の場合は、ボトムアッシュ(クリンカーアッシュ)が5~15%、フライアッシュが85~95%を占め、木質灰とは構成がまったく違うが、この両方を合わせた石炭灰の発生量は、2011年度の統計によると1157万トンで、実にその98%が再利用されている。燃焼灰がさまざまな用途で有効に使われるためには、火力発電所の側でも灰のしっかりした品質管理が要求される。用途、またはJIS規格に合わせて、粒径による分別やブレンディングなどの調整が入念に行われているようだ。
 アメリカなどで微粉炭燃焼による発電が始まるのは1920年代のことだが、石炭灰の活用についても早くから研究が始まり、基礎的な枠組みは第二次世界大戦前におおむね出来上がっていた。つまり、半世紀以上に及ぶ長い歴史の中で石炭灰利用のシステムがつくられてきたのである。これに対して、木質燃焼灰の用途開発は、まだ緒に就いたばかりだ。石炭灰と同様に、コンクリートの混和材、充填材、土壌・地盤改良材などとして活用する試みが、欧州の一部で始まったのはごく最近のことである。
 欧州のEN規格では、バイオマス混焼で出てくる石炭飛灰でも、混焼率が20%までなら、セメントの添加材にできるとされていたが、この混焼率が50%まで引き上げられるという。ただし、この場合のバイオマスは、クリーンな木質に限定されるようだ。木質燃焼灰に対する認識が、少しずつ改まっているのかもしれない。
 わが国でも昨年、環境省から木質燃焼灰の産廃扱いを見直す指示が出されている(環廃産発第1306282号、平成25年6月28日)。クリーンな木質チップやペレットを専焼ボイラで燃やして出てくる焼却灰のうち「有効活用が確実で、かつ不要物と判断されない」ものは産業廃棄物に該当しない、とされたのである。科学的な分析データに基づいて、木質灰のまっとうな取り扱いを論議する時代が、ようやく開けてきたように思う。

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動画:木質バイオマスエネルギー ~日本の森林を活かして 地球温暖化を救え!~