木質バイオマスへの高まる期待と将来展望

ユニークなエネルギー源:木質バイオマス

 バイオマスは、数ある再生可能なエネルギー源のなかで、石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料に最も近いエネルギー源である。そのためエネルギーとしての使い道がすこぶる広い。冷暖房用、産業用の熱はもとより、発電にも使えるし、輸送用の燃料生産にも振り向けられる。端的に言えば、化石燃料にできることは何でもできる。
 現在のところ、水力、風力、潮力、太陽光に期待できるのは発電に限られている。また太陽熱や地熱にしても高温の熱や輸送用の液体燃料までは生産できない。それができるのはバイオマスだけであり、バイオマスの際立った特徴がここにある。
 地中に埋蔵された石炭、石油、天然ガスはいずれ掘り尽くされよう。それを再生可能なエネルギーで埋めていくことになるが、バイオマスでないと埋めきれない分野が必ず出てくる。木質バイオマスが果たすべき役割は、時代とともに大きく変わっていくだろう。変化の方向を決めるのは、何よりも各種化石燃料の需給動向であり、いま一つは太陽光や風力、地熱など自然エネルギーの展開・普及状況である。
 今回はエネルギー源としての木質バイオマスの可能性について述べることにしたい。

化石燃料と生物燃料

 バイオマスというのは、死んで間もない生物の遺骸(細胞物質)である。石炭や石油も元をただせば、大昔に生きていた生物の遺骸に他ならない。燃料として見たとき、この両者に多くの共通点があるのは当然のことだ。各種燃料の元素組成や発熱量は表1にまとめられている。

 絶乾(無水)状態の木材の発熱量はトン当たり約20ギガジュール(GJ)で、同じ重さの石炭の2/3、石油の1/2ほどである。木材の発熱量がこのように低くなるのは、発熱に関係のない酸素(O)を重量比で45%も含んでいるからである。石炭や石油は何千万〜何億年にも及ぶ化石化の過程でこの酸素分が抜け落ち、炭素(C)と水素(H)から成る優れた燃料に変化していった。
 燃焼に伴うCO2の排出量を見ると、木材は熱量当たりにして75㎏/MJで石油と同じくらいである。これは両者のC/H比に大差がないからだ。ただ、木に含まれる炭素は樹木が大きくなる過程で大気中のCO2を取り込んだものである。この木が腐って自然に分解しても、あるいは人間が燃やしても、CO2が放出されるが、それはいわばCO2を大気に返しただけのことであって、大気のCO2濃度を高めたことにはならない。その意味で、バイオマスは「カーボンニュートラル」なのである。
 それはともかく1立方メートルの木材の発熱量はおおむね6〜8GJで、1バレル(159リットル)の原油とそれほど違わない。バレル当たりの原油の価格は、木材のエネルギー価値を示すまたとない指標である。原油がバレル100ドルであれば、1立方メートルの木材も100ドル(円に換算して約1万円)のエネルギー価値を持つことになる。建築などに使われる構造用並材の価格とあまり変わらない。このようなことになるとは、十年前には誰も予想していなかった。

木質燃料の命運を握る原油価格の動向

 図1を見ていただきたい。日本に入ってくる原油のCIF(産地の出荷価格に運賃と保険を加えたもの)が示されている。70年代初頭のCIFを見るとバレル当り5ドル以下で入っていた。こんなに安い原油が大量に入り始めたことで、木材のエネルギー価値は暴落し、日本古来の国内の薪炭生産はあっという間に姿を消していった。その後のオイルショックで原油価格はいったん上昇するものの、90年代はおおむねバレル20ドル前後で推移している。当時すでにオマスを利用した熱供給や発電の事業は行われていたが、主たる燃料は無料ないしは逆有償の廃棄物系バイオマスであり、それ以外の燃料では経済的に引き合わなかった。
 事態が一変するのは今世紀に入ってからである。原油がバレル50ドルになると、木材のエネルギー価値も立方4~5千円になり、構造用材にはならない小径丸太がエネルギー生産に振り向けられるようになった。それが今や立方1万円の大台に乗り始めている。木質ボード類の生産や紙パルプの製造では原料となる木材にこれほどの金額は払えないだろう。すでに構造用の並材ともいい勝負になっている。
 世界の各地でシェールオイルやシェールガスの生産が多少増えるにしても、化石燃料価格の長期的な低落は予測しにくい。現在のような高止まりの状況が続くとすれば、エネルギー利用に供される木質バイオマスの範囲は確実に拡大していくであろう。また現在の木質エネルギーは暖房・給湯などの低温熱の生産が主体であるが、将来的には高温熱や輸送用燃料の供給が中心になるという予測もある。

多様なエネルギー変換経路

 木質バイオマスのエネルギー変換プロセスを模式的に描くと図2のようになる。さまざまな給源から出てくる多種多様な形質のバイオマスは、切断、破砕、成型化などの前処理を経てエネルギー変換プロセスに投入される。これには直接燃焼、熱化学的変換、および生化学的変換の3つのコースがあるが、最終的には熱、電気、輸送用燃料のいずれかに行き着く。この図に則して若干の説明を加えよう。

(1)木質バイオマスの出所

木質バイオマスはその給源によって5種類に分けられている。

  1. 廃材 建築解体材、廃パレットなど廃棄物として出てくるもの
  2. 工場残材 木材加工場から出てくる木屑類
  3. 林地残材 森林伐採に伴って発生する小径丸太、梢端、枝条など
  4. 補間伐採 成長量の範囲内での森林からの木材の収穫
  5. 短伐期植林木 成長の速いエネルギー樹木を植栽して短い伐期で収穫

 バイオマスの調達コストは、おおむねこの順序で高くなっていくと見てよい。それはまた、木材のエネルギー価値の上昇とともに、使われるバイオマスの範囲がどのように広がっていくかを示唆している。わが国の現在の状況は、①の廃材と②の工場残材があらかた使い尽されて、③の林地残材の有効利用が課題になりつつある。
 ただ国内の林業・林産業が不振を極めているため、①②③で稼げる量はそれほど多くない。本命はやはり④の補間伐採である。日本の森林が毎年2億立方メートルも成長しているのに、実際に伐採・利用しているのは2割ほどにとどまっている。伐採量を増やす余地は大きい。ただしこれもやみ雲に伐るというわけではない。手入れの遅れた人工林の除間伐、伸び放題になっている天然生林の整理伐、景観維持のための伐り透かしのような形をとることになろう。木材生産の保続が保証されるなら、往時の薪炭林施業も当然あり得る。コナラやクヌギの広葉樹を15~20年の伐期で皆伐して萌芽で更新するやり方がそれだ。 ⑤のエネルギー植林は欧州の一部の諸国ですでに始まっているが、補間伐採の余地の大きいわが国ではもう少し先のことになりそうである。

(2)前処理による形質の均一化

 エネルギー利用に向けられる木質バイオマスはおおむね残廃材系のものであるから、形質のばらつきが大きい。一定の前処理を加えて、形質を整えないとエネルギー変換装置に入れられない。
 昔から使われてきた薪においても、丸太を一定の長さに切り揃えて「割り」を入れ、一定期間自然に乾燥させるという前処理があった。これだけの処理がしてあれば、今日の先端的な薪ストーブや薪ボイラで燃やしても80%近い熱効率が十分得られるだろう。木材はそれ自体がきわめて優れた燃料なのである。
 ただ薪の場合は人手で燃料を補給しなければならない。エネルギー変換装置を長時間日夜連続して動かすには、燃料の自動補給が不可欠である。そこで木質燃料のチップ化が登場した。雑多な形のバイオマスを長さ数センチのチップに切り刻めば、ベルトコンベアやスクリューでボイラなどの燃焼機器に自動的に送り込める。燃料を小片化することで、ボイラでの火付きがよくなり、反応面積も大きくなって燃焼条件が一段と改善される。 
 チップの難点は形状や水分にばらつきのあることだ。ペレットの登場でこの点が改められた。ペレットというのは、木材を細かく粉砕して乾燥・圧縮し、直径6~10mm、長さ10~40mmの円筒形に成型したもので、水分は10%以下に抑えられている。これくらいの大きさで揃えられていれば、家庭用の小型のボイラやストーブで燃やす場合も、自動補給ができ細かい温度調節も可能になる。小規模燃焼には最適の燃料だ。
 このペレットが近年では石炭火力発電所でも大量に使われるようになった。微粉炭ミルに石炭と一緒に投入することができ、追加的な設備費がごくわずかで済むからである。またバイオマスが圧縮・成型されたことで、燃料としてのエネルギー密度が高まり、遠くから運んできても引き合うようになった。
 最近注目されているのがトレファクションである。これは、常圧、無酸素のもと280~300℃の温度範囲で行われる熱化学的処理の一つで、ペレット以上にエネルギー密度が高くなり、水分も5%以下になる。屋外で野積みしておいても、吸湿は起こらないし、腐敗もしない。生物燃料の域を脱して石炭に近づいたともいえる。

 もちろんペレット化やトレファクションにはそれなりのコストがかかる。その一方で、燃料としての質が改善され、運賃負担力が大きくなるというメリットがある。均一な燃料の大量処理で変換効率が大きく引き上げられる大型装置であれば、ペレット化や、さらにはトレファクションまでやっても引き合うかもしれない。

(3)3種類のエネルギー変換

 図3ではバイオマスのエネルギー変換方式が直接燃焼、熱化学的変換、生化学的変換の3つに大別されている。
 直接燃焼というのは、前処理されたバイオマスをストーブやボイラでそのまま燃やして熱をとるやり方である。熱の仕向け先は冷暖房や給湯などの民生用であったり、あるいはプロセス蒸気などの産業用であったりする。バイオマスによる発電も今のところ直接燃焼方式が主流である。比較的出力の大きいボイラでバイオマスを直接燃焼させて高温高圧の蒸気をつくり、蒸気タービンや蒸気エンジンにつなげて発電する。発電と同時にその排熱も有効に利用するケースが増えてきた。石炭火力でのバイオマス混焼も直接燃焼発電の一つである。
 現在の段階で木質系バイオマスのエネルギー利用と言えば、おおむね直接燃焼による熱生産と発電に限られている。しかしもっと長い目で見ると熱化学的な変換や生化学的な変換の重要性はますます高まっていくであろう。この2つの変換方式のいずれでもバイオマスを気体状、液体状の燃料に変えることができ、用途がまた一段と広がってくる。
 図3に例示されているのは、燃料ガスや合成ディーゼル油、エタノールなど代表的なものに限られているが、これらの気体状、液体状の燃料は、固形燃料に比べてずっと均質で扱いやすく、各種の熱供給や発電はもとより、航空機や船舶、自動車を動かす燃料にもなり得る。
 ただし、期待される新しい変換技術のうち、実用化の域に近づいているのは一部だけで、多くのものは化石燃料と太刀打ちできる段階には至っていない。変換技術に改善の余地があるのは事実だが、どのような技術を用いるにせよ、木材をガス状、液体状の燃料に変えるのはそれ自体が大変な作業で、かなりのコストがかかる。安価な天然ガスや石油が出回っているうちは、なかなか出番は回ってこないだろう。しかし自然エネルギー100%の時代になれば、まったく話は別だ。

脱化石燃料社会でのバイオマスの役割

 WWF Internationalは、オランダに本拠を置くコンサル会社ECOFYSの協力を得て、「2050年までに化石燃料と原子力をすべて再生可能エネルギーに置き換える」というエネルギーシナリオを作成し、2011年に公表している。これからの40年で化石燃料が簡単に消えて行くとは思えないが、化石燃料と原子力がなくなったとき、バイオマスにどのような負担が生じるかを示唆する思考実験として参考になる。
 このシナリオの作成者たちが原則としたのは、将来に必要とされるエネルギーは可能な限り太陽エネルギーや風力、地熱などでまかない、バイオマスは使わないようにするということであった。大量のバイオマスをエネルギー生産に振り向けると、食料の生産や木材の供給にも悪い影響が及ぶからである。ところが結果的には総エネルギー消費の4割をバイオマスに頼ることになった。
 なぜそうなったかと言えば、化石燃料を全面的に排除しているからである。シナリオでは熱の利用を極力抑えて再生可能なエネルギーによる「電化」を進めているけれど、それではカバーしきれない領域がどうしても残ってしまう。例えば、長い距離を走る航空機や船舶に使われる燃料がそれだし、また製造業や機械工業、製鉄業などの一部の工程で要求される高温熱もその典型例である。この部分はバイオマスで埋めるしかない。
 現在のところ、バイオマスのエネルギー利用で主流になっているのは暖房や給湯などの低温の熱供給だが、こちらのほうはある程度太陽熱や地熱でカバーできる。したがって将来的には、バイオマスの主たる仕向け先が輸送用の燃料と工業用の高温熱に収斂していく可能性がある。バイオマスだけを浮き出して描くと図3のようになるらしい。
 石炭や石油資源の枯渇は、木質バイオマスのエネルギー利用のみならず、マテリアル利用にとっても重要な意味を持っている。構造用資材としての木材の重要性は一層高まるかもしれない。また今日の化学工業で石油が手に入らなくなれば、石油に代わる原料としてバイオマスに目が向けられよう。再生可能であるとはいえ、バイオマスは限りある資源である。マテリアル利用をも視野に入れて、その使い方を考えなければならない。木質バイオマスの場合は、基本的には「カスケード利用」の原則に依拠することになるだろう。この原則については、改めて触れる機会があると思う。

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動画:木質バイオマスエネルギー ~日本の森林を活かして 地球温暖化を救え!~