岐路に立つ日本の木質ペレット産業

木質ペレット市場の拡散パターン

 木質ペレットの商業生産は、1970年代にアメリカのオレゴン州で始まったとされる。このころの北米では製材工場の大型化が進んでいて、大量に発生するおが屑の処理が問題になっていた。おが屑はそのままでは燃料になりにくい。これをペレットにすることで優れた燃料になったのである。

 しかし、最初から順調に普及したわけではない。80年代の石油価格の下落で後退を余儀なくされ、出鼻をくじかれる。環境意識の高まりや化石燃料価格の上昇を受けて、市場の拡大が本格化するのは、90年代の後半あたりからである。ユーロッパでは、スウェーデンがその先陣を切り、オーストリア、ドイツ、イタリアなどがこれに続いた。現在はその周辺の諸国でペレットの生産と消費が増えている。この拡散の波は少しずつアジアにも及び始めたが、本格的な展開はこれかからである。

 2010年の時点で、木質ペレットの生産と消費の状況を国別にグラフに落とすと図1のようになる。生産量ではアメリカ、カナダ、ドイツ、スウェーデンの4カ国が抜きんでている。北米と欧州以外の国ぐには右端に寄せられているが、日本も含めて量的には微々たるものだ。ただ、最近ペレットの生産が増えているとされる中国が表1から抜けている。

 ペレットの生産量ではなく消費量で各国をランク付けすると、様相が大きく変わってくる。デンマーク、オランダ、ベルギー、イギリスなどは国内の生産量が僅かなのに消費量が図抜けて大きい。石炭火力での混焼用ペレットを大量に輸入しているからである。これらの国にペレットを供給しているのが、カナダ、ロシア、それにいくつかの東欧諸国で、国内向けよりも輸出狙いのペレット生産に軸足を置いている。
 上記以外の主要国は、生産と消費がおおむねバランスしているが、正確にはアメリカ、ドイツ、オーストリアはネットの輸出国、スウェーデンとイタリアはネットの輸入国である。

2020年の日本のペレット産業

 木質ペレット市場の地理的な拡散は現在も進行中であり、2020年の世界のペレットマップは今のものとはかなり違っているだろう。前回見たように、ペレット消費の中心が東アジアに移るとすれば、中国、日本、韓国が消費量で世界のトップクラスに躍り出てくる。それにつれて、東南アジアやオセアニアなどの近隣諸国でペレット生産が増加する可能性が高い。
 いずれにせよ、近い将来わが国のペレット輸入量が大幅に増えることはほぼ確実である。そうなった場合、国内の生産と消費のバランスはどうなっているであろうか。次の三つケースが考えられる。

  1. 石炭火力での混焼用ペレットのみならず、国内で消費されるその他の家庭用、産業用ペレットの多くが輸入で賄われる
  2. 混焼用は輸入に頼るが、その他の国内消費のペレットは国産で調達される
  3. 混焼用ペレットも一部は国内で生産する

 国産ペレットの市場競争力が現状のままなら、外国産のペレットに太刀打ちできず、①に傾く公算が大である。木質資源が十分に活用されていない日本の現状を考えれば、混焼用のペレットは輸入するとしても、その他の家庭用・産業用のペレットは国産品でカバーしたいものである。いわゆる②のケースである。とはいえ、弱い競争力のままでは平和的な「棲み分け」などあり得ない。③のように、混焼用にも食い込むくらいの意気込みがないと、国内のペレット産業は生き残れないと思う。
 ここでとくに強調したいのは、わが国のバイオマスFITは輸入ペレットを利するだけでなく、国産ペレットの需要拡大にも、またとないチャンスを与えてくれるということだ。発電用ペレットの市場に食い込むにはどうしたらよいか。今回はその話をしよう。

暖房用ペレットと産業用ペレット

 住宅などの暖房には高品質の木質ペレットが要求されるが、地域暖房の施設に設置される大型ボイラや石炭火力での混焼に向けられる産業用ペレットは、多少質が低くてもかまわない。価格にもかなりの差がある。図2を見ればその差は一目瞭然であろう。

 まず、産業用ペレットについては、国際的な取引価格を反映した二つの系列が示されている。過去5年間の価格の動きは比較的安定していた。世界のさまざまな地域から次々とペレットが欧州に入ってきて、価格の上昇が抑えられているのであろう。二つの系列ともトン当たり130~150ユーロの範囲にある。1ユーロ=130円でkg当りに換算すると20円台の後半といったところか。わが国の典型的な小規模工場では達成不能なレベルである。
 一方、住宅暖房用ペレットの価格系列は、スイス、ドイツ、オーストリアの三つの国から取られているが、産業用に比べると全般に高い。過去5年間の上昇幅も大きく、産業用との落差が一段と広がった。国による価格差は大きく、2013年の3月時点では、ドイツとオーストリアでトン当たり250~270ユーロ(kg当り30円台の前半)である。国内のペレット工場でこのコストで生産できるのはごく一部だと思う。ただ、スイスは330ユーロ(同40円超)となっていて、日本とあまり変わらない。
 家庭用と産業用の中間あたりに、中規模の熱供給に向けられるペレットがある。図1のPIX Pellet(独墺)の価格系列がそれだが、住宅暖房用よりいくらか低い程度で、その差は僅かである。比較的良質のペレットが燃やされていると見てよいだろう。
 ところで、暖房用ペレットと産業用ペレットはどこが違うのか。製造方法は同じだが、品質規格と使用できる原料に多少の差があるようだ。ドイツで面接したペレットの生産者は下記の違いを挙げていた。

  暖房用 産業用
規格上の違い 直径 おおむね6mm おおむね8mm
灰分 1%以下 5%以下
微粉率 1%以下 3%以下
スターチ添加 時に必要 不要
原料制約 樹皮の混入 通常不可
使える樹種 原則針葉樹 広葉樹も可
廃材等 原則不可 一部可

 産業用ペレットの生産コストが低く抑えられるのは、品質規格の縛りが緩くなって、安価な木質材料が使えるようになるからである。

木質ペレットの生産コストは原料によって違ってくる

 ドイツやオーストリアの暖房用のペレットは、そのほとんどが製材工場から出るおが屑やプレーナ(かんな)屑でつくられているが、最近出現した巨大なペレット工場では丸太を砕いて製造するケースが多い。グラーツ工科大学のI. Obernbergerらはオーストリアの標準的な工場を前提にして、ペレットの生産コストが使う原料によってどれほど違ってくるか試算している(表1)。

 モデルとなった工場では、時間当たり5トンを生産する造粒機を24時間稼働させ、年に4万トンのペレットを生産する。これが欧州の標準的なペレット工場のイメージであるが、使う原料によってトン当たりの生産コストに倍くらいの開きが出てくる。
 原料がプレーナ屑であれば、破砕と乾燥の工程が省けるため最もコストがかからない。おが屑の場合は乾燥が欠かせないけれど、一次破砕が不要になる。最近の欧州の製材工場では、丸太を板や角に挽く際に出てくる背板まで一挙にチップにしてしまう方式が取られている。その剝皮チップを使うと、多少工程が増えてコスト高になるが、おが屑の場合とそれほど変わらない。ところが、間伐材などの丸太からペレットをつくろうとすると、破砕などに余分の手間がかかり、投資費用はおが屑ペレットの約2倍、電力消費量は1.7倍にもなる。トン当たりの生産コストは1.4倍だ。
 丸太からペレットがつくられるようになるのは比較的最近のことである。その背景には、ペレットの需要増加でプレーナ屑やおが屑が品薄になり、価格の上昇が止まらないという事情がある。つまり丸太を使っても引き合うケースが増えてきた。とはいえ、製材工場で生産されるおが屑ペレットの優位はどのみち動かない。アメリカの東南部やカナダのBC州ではマツ類の丸太を潰すペレット工場が続々と登場しているが、それらはいずれも生産規模の拡大を通してコストを削減し、おが屑ペレットと対抗しようとしている。

「ペレットチェーン」ができていない

 世界の木質ペレット産業が劇的な変貌を遂げるなかで、わが国のそれはこの10年ほとんど変わっていない。早い話が、表1の前提となった24時間操業で年産4万トンクラスの「標準工場」が国内には一つもつくられていないのである。大部分は年産1千トンかそれ以下で、時間当たり0.5トンとか1トンの造粒機が使われている。しかも、ペレットの原料は、おが屑やプレーナ屑ではなく、間伐材などの丸太を使うケースが圧倒的に多い。典型的な例を挙げると、集めた丸太をおが粉製造機で粉砕し、それの乾燥に自社でつくったペレットを向けている。このようなやり方を続けていたのではコストが嵩んで、海外のペレットと競争にならない。
 わが国の木質ペレット事業は、行政主導の補助金付きで推進されてきた。よく見られるのは、「地産地消」の掛け声のもと、地域の公共施設や宿泊施設などにペレットボイラを入れ、それに必要な燃料を供給すべく、小規模なペレット製造施設をつくるケースである。冷静にコスト計算をしたら、とても採算に合うようなものではないが、ペレットボイラとペレット生産施設の両方に補助金が入っているおかげで、何とかやっていけるのだ。しかし、この段階にとどまっている限り、木質ペレットの一般への普及は望めない。化石燃料に比べて割高なうえに、安定供給もおぼつかないからである。
 ドイツやオーストリアで目立つのは、スタートの段階で公的な支援はあったものの、その後は民間企業の主体的な活動でペレット市場がどんどん大きくなったことである。その間にペレットが普及するための三つの要件が満たされて、いわゆる「ペレットチェーン」ができ上がっていく。三つの要件とは、第一にペレットの品質に見合った性能の良い燃焼機器が入手できること、第二に燃焼機器の取り付けとメインテナイス・灰の処理のような事後サービス体制が整っていること、そして第三に良質のペレット燃料が必要なときに確実に入手できること、これである。
 わが国では、この「ペレットチェーン」が未だに整っていない。だから木質ペレットの普及が遅々として進まず、消費が伸びないのである。国内のペレット工場は生産規模が小さいにもかかわらず、どこもかしこも低い稼働率で操業している。生産量を増やしても、製品の出荷先が見つけられないのだ。
 こうなると「卵が先か、鶏が先か」という不毛な論議になってしまうが、安定した売り先が出てくれば、国内のペレット工場も稼働率を一段と高め、同時に生産性を引き上げるための投資に踏み切ることができるであろう。

2020年に向けて

 わが国のバイオマスFITは、使用する燃料の種類によって電気の買取り価格が決められている。発電プラントの出力規模は、大きくても小さくても関係がない。石炭火力の混焼で生み出された電気は、一般木材なら24円、未利用木材なら32円で買取られる(平成26年度現在)。海外から輸入されるペレットは24円のクラスだが、国内の未利用木材でつくられたペレットであれば32円のクラスに入るとされている。
 混焼用ペレットの消費量は、いずれ数十万トン、数百万トンに達する可能性がある。国内で供給できるのは、この一部ということになるだろうが、国内の総生産量が十万トンにも満たない現状からすると、大変な量である。うまく取り込むことができれば、わが国の木質ペレット産業は一挙に近代化することになるだろう。
 ただし、アメリカの東南部で続々と誕生しているような大型工場は日本ではつくれない。大きくとも3~5万トンクラスになると思う。この場合に肝要なのは、家庭用ペレットと産業用のペレットの両方を生産できる体制を整えることだ。家庭用ペレットだけだと、需要がおおむね冬場に限定されるが、発電用ペレットなら1年を通してまとまった量の需要が期待できる。両者を組み合わせることで、生産規模を拡大して24時間操業の体制をとることもできよう。
 小径材や林地残材が一括して集められていれば、ペレットに向かない低質のバイオマスで発電して32円で売電し、その排熱をペレット原料の乾燥に向ければよい。これも24時間操業と並んでペレットの生産コストを引き下げる必須の条件である。
 2013年の7月にドイツのバイエルン州で年産3万トンの近代的なペレット工場を見学した。ここでは出力800kWのオーガニック・ランキンサイクルの発電とペレット生産を組み合わせたもので大変参考になった。次回はそれを紹介する。

  レポートに関する質問、疑問等ございましたら、当ホームページのお問い合わせフォームより、お問い合わせください。

動画:木質バイオマスエネルギー ~日本の森林を活かして 地球温暖化を救え!~