木質バイオマス発電への期待と懸念(1)~木質原料をめぐるマテリアル利用との競合~

チェルノブイリ原発事故の教訓

 再生可能な電力の固定価格買取制度(FIT)がスタートしたのは、2012年7月のことだが、木質バイオマス発電の分野で、この制度に乗っかって、実際に発電しているケースは、まだ4件(2013年度末時点)にとどまっている。しかし、新設予定の発電プラントは、計画・構想段階のものを含めると、相当な数にのぼる。木質バイオマスエネルギー利用推進協議会は、新聞などに公表された情報をもとに、2014年3月末現在での状況を取りまとめた。

 その概略が表1に示されている。この中には初期の構想段階のものや、白紙に戻ったと噂されるものもあって、全部実現するわけではないが、FIT対応ですでに建設されているプラントと、今後建設が予定されているプラントの総数は93基に達する。これらプラントの電気出力を単純に足し合わせると、1,337MWになる。原子力発電所の2基分くらいか。
 93基のプラントのうち、2基は110MWの混焼用の石炭火力プラントである。この2基を除外して平均出力を求めると、12.2MWほどになる。出力規模別には、3~6MWの33基と6~30MWの29基が軸になり、3MW以下と30MW以上が、それぞれ18基と12基である。規模的にはかなり大きい。これくらいの出力にしないと発電事業の採算が取れないということであろう。バイオマス発電の小型化が進むオーストリアやドイツとは、全く対照的な動きである。
 いずれにせよ、木質エネルギービジネスの振るわない日本で、出力の大きい発電専用のプラントが、一挙に増えることになるのだが、問題は必要な木質燃料が、安定的に確保できるかどうかである。上記の調査でリストアップされた93のプラントのうち、82のプラントで燃料消費量が調べられている。それを集計すると、918万トン/年になった。燃料消費の不明な11のプラントの分も加えれば、優に1,000万トンを超えるだろう。これは大変な量である。

廃木材系チップの供給可能性量

 全国木材資源リサイクル協会連合会理事長の鈴木隆氏は、2013年における廃木材系燃料チップの供給可能量を、360万トン/年以上と推定しておられる。木質燃料については、信頼できる公式統計がなく、断片的な資料をつなぎ合わせて推計するしかないのだが、木質チップ業界に詳しい鈴木氏の推計に大きな間違いはないであろう。360万トン以上の根拠は表2に示されている。

 この表に計上されているのは「廃木材」系の燃料チップで、間伐材など小径丸太からつくられるチップは含まれていない。建築物の暖房や温泉の加温などに使われる比較的小型のボイラでは、質の高い切削チップが要求されるため、小丸太からのチップが中心になるが、その絶対量は今のところそれほど多くない。燃料用チップと言えば廃木材系が圧倒的なウェートを占めている。
 表2によると、廃木材の発生量は年に1,700万トンで、このうちの1,060万トンが「再資源化」されているが、燃料として使われるのは建築廃材で約330万トン、製材工場残材や廃パレットなどで約30万トン、合わせて360万トンになる。この他に、剪定枝や林地残材(低質の枝葉が中心)からも何がしかの供給が見込めるから、360万トン「以上」になるのである。
 さて、燃料チップの最大の給源である建築廃材、製材工場残材、廃パレットなどは、今後大幅に増えるという予想は立てにくい。そのうえ、これらの廃木材の良質の部分は、紙パルプ用やボード用チップの生産に向けられていて、その「再資源化率」は、すでに83%にも達している。つまり、未利用の部分はほとんど残されておらず、燃料用のシェアを増やそうとすれば、パルプ用・ボード用チップのシェアを奪うしかない。

未利用木材に需要が殺到

 FIT対応で新設が予定されている93基のプラントのうち、73のプラントについては使用する燃料の種類が明らかにされている。ここでの燃料区分は、FITの買取価格に対応したもので、次の4種類である。

  • 未利用木材 未利用の主・間伐材などで、電気の買取価格(税抜き)は32円/kWh
  • 一般木材  製材工場の残材などで、買取価格は24円
  • 建築廃材  リサイクル木材で、買取価格は13円
  • 輸入材  木質チップ、ペレット、PKS(パームヤシ殻)などで買取価格は24円

 分かっているのは燃料の種類だけで、数量は不明だが、表3にあるように、73のプラントのうちの実に90%、66基が未利用木材の使用を予定している。次いで多少なりとも一般木材を使うプラントは、その半分の45%、建築廃材に至ってはわずか7プラントで10%にも満たない。これまでバイオマスボイラの燃料構成と言えば、建築廃材のウェートが圧倒的で、工場残廃材がそれに次ぎ、森林バイオマスの利用はごく限られていた。それが完全に逆転したのである。

 ただし、未利用木材に軸足を置くとはいえ、必要な燃料が安定的に確保できるかどうか不安があるのであろう。燃料の種類や供給源を多様化しようとする傾向もはっきり出ている。可能な限り、一般木材をも受け入れ、それでも足らなければ輸入燃料で賄うという姿勢がそれだ。海外からチップやペレット、PKSを入れると答えたプラントは11に及ぶ。
 いずれにせよ、わが国のバイオマスFITでは未利用材、一般材、建築廃材の三者で電気の買取価格に、かなりきつい傾斜がつけられている。高い価格に誘発されたかのように、これまで見向きもされなかった森林での未利用材が一挙に前面に出てきた。京都議定書のCO2削減で森林の吸収分を認めてもらうためには、森林「経営」の実績がなければならない。政府の支援のもと人工林の間伐が精力的に進められてきたのはそのためである。ところが、間引きされた木は、伐り倒されただけで山から出てこない。伐り捨てられる木材の量は、年に2,000万立方メートルとも言われ、国内で伐倒された樹木の半分くらいが、利用されないまま山に残されてきた勘定になる。
 今回のバイオマスFITの価格設定では、未利用間伐材の活用に焦点があてられていた。廃木材系の資源があらかた使い尽くされて以上、当然の措置であったとも言える。そして政策当局の狙い通りに、未利用木材を使う発電プラントが続々と生まれようとしている。森林伐採に伴って発生する低質バイオマスが一定の価格で売れるようになれば、製材用の丸太などと一緒に山から下りてくるようになるであろう。また、燃料用バイオマスが伐出コストの一部を分担できるようになれば、製材用丸太も出しやすくなるだろう。今回のバイオマスFITに大きな期待が寄せられているのは、国内林業の再建につながる、こうした可能性があるからである。

不明確な未利用木材の定義

 山に2,000万立方メートルもの未利用木材があるなら、発電プラントが多少増えても燃料供給に不安がないように思える。ところが、事はそれほど単純ではない。一方では、未利用木材による電気の32円という買取価格はあまりにも高く、製材や合板に向けられるべき丸太まで発電に流れてしまうのではないかという懸念がある。また他方では、未利用木材を運び出すには大変な費用が掛かり、32円の買取価格ではそのコストがカバーできない、したがって掛け声だけで終わってしまう、と危惧する向きもある。
 この二つの見方の間には大きなギャップがあるが、一方が正しくて、他方が間違っているという性質のものではない。両者には、それなりの根拠があるからである。今回はまず、マテリアル利用との競合問題について考えることにしよう。搬出コストの問題は、次回のテーマとする。
 森林で育った一本の樹木が伐り倒されると、通常、幹の太いところから順に製材用丸太、合板用丸太、パルプ原木が取られ、燃料に向けられるのはそれ以外の梢端、枝葉、端材などである。こうして、マテリアル利用優先の原則はこれまでしっかりと貫かれていた。今それが変わりつつある。
 まず、化石燃料の高騰で燃料用チップの価格が上昇し、小径丸太からつくられるパルプ用・木質ボード用のチップを蚕食し始めていた。それがFIT制度のスタートで燃料チップの価格がさらに引き上げられるとなると、製材・合板用の原木にまでその影響が及ぶ恐れがある。本当にそうなるかどうかは、正直のところやってみないとわからない。しかし、「未利用木材」の定義がはっきりしないために、さまざまな憶測や不安を生んでいるように思う。

 表4は、FITで区分された3種類の木質バイオマスについて、その正式の呼称と具体的な中身を一覧にしたものである。「未利用木材」とは「森林における立木竹の伐採又は間伐に由来する未利用の木質バイオマス」のことで、間伐材に限られているわけではない。
 未利用材が、具体的にどのようなものを指すのか。林野庁の「ガイドライン」にも明確な説明は見当たらない。『木質バイオマス発電・証明ガイドラインQ&A』は、この問いに対して「伐採されながら利用されずに林地に放置されている未利用間伐材や主伐残材といったもの」と答えている。
 伐採の終わったあとに、残されたバイオマスだけを集めるという前提ならこれでも構わない。しかし、こんなことをしていたら木質チップの生産コストが著しく高くなってしまう。燃料用のバイオマスは、製材・合板用材と一緒に伐り出すべきものだ。さらに、FITが首尾よく実施されて低質バイオマスが全部使われるようになったら、「未利用木材」というカテゴリーそのものが消滅するはずだ。いずれの場合も、利用/未利用の区別がつけられず、マテリアル利用とエネルギー利用の境目もなくなる。
 今回のバイオマスFITには「既存利用に影響を与えない」という原則が謳われているのだが、それをどのようにして担保するのか。前述の『ガイドラインQ&A』は、木質バイオマスの供給者に対して、発電用として引き合いがあった場合、「既存用途で出荷していた分はまわさない」、「既存用途での出荷を確保しつつチップの製造量を増やして発電用に出荷する」などの対応を求めている。木材業界の人たちはこの種の自主規制では効果がないと見ているようだ。

ブリャンスクの森林での放射能汚染とその対策

 ドイツのバイオマスFITでは、どのような種類の木質バイオマスを使っても同一の基本レートが適用される。そのなかで林地残材などは特別で、これを使うと「割増し(ボーナス)」がつく。例えば、電気出力0.5MWまでのクラスでは、基本レートが12.3ユーロセント/kWhで、林地残材で発電した分には、これに加えて6セントのボーナスが付く。なぜボーナスかと言うと、一つに燃料の調達コストが嵩むからであり、二つにマテリアル利用との競合を極力避けるという当局の政策に合致するからである。そのうえ、基本レートは全般に低く抑えられた。なかでも5MW以上の発電に対しては6セントしか払われず、原料割増しも付かない。大口の発電を極力抑制することで、原料を巡るマテリアル利用・熱利用との競合の激化を防ごうとしている。
 日本でもこの種の競合を避けようとすれば、32円が適用される「未利用木材」の中身をもっと明確にすべきであろう。例えば、ドイツと同じように「林地残材」ないしは「小径丸太、端材、枝葉」に限るという規定を設けることも考えられる。ところが、伐り捨てられた2,000万立方メートルの活用という命題が前面に出てくると、そうもいかない。この中には、製材用や合板用の丸太も含まれているからである。マテリアル利用の本体が出てこないような状況の下で、林地残材だけを優遇しても、大した効果は期待できないという判断があったと思う。
 実のところ、十年も前から2,000万立方の間伐材が山に捨てられていると言われ続けてきたが、現在、どのような種類の木材がどれほど山にあるのか、正確なことは何もわかっていない。近年、国産材の生産量が増えているから、その分伐り捨て量が減っている可能性もある。そもそも用材として使えそうな丸太まで山に捨ててくるというのは異常な事態であり、いずれ是正されることは間違いない。どのみち「未利用材」の再定義が必要になってくる。
 現行の制度では、32円の未利用木材と24円の一般木材については、林野庁のガイドラインに従って分別管理し、原料がチップ工場に入る段階と、そのチップがプラントに入る前の段階で、原料の由来を証明することになっている(図1を参照)。ただしこのガイドラインの運用は業界団体に委ねられている。すなわち「森林・林業・木材産業関係団体及び発電の燃料として木質バイオマスを供給する事業者の団体等」が「自主行動規範」を策定して運用にあたることになっている。
 ガイドラインがどのように運用されるか、注意深く監視する必要があろう。一歩誤るとマテリアル利用との競合を激化させ、森林の乱伐を誘発することさえあり得る。われわれに課せられているのは、そうした危険をいち早く察知し、必要な対策を的確に講じることだ。情報が不十分なうえに未知の要素が多く、試行錯誤でやっていくしかない。

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動画:木質バイオマスエネルギー ~日本の森林を活かして 地球温暖化を救え!~