鍵を握る木質バイオマスのカスケード利用

良いものから順々に使い尽くす

 木質バイオマスのエネルギー利用は、国によってその進捗度に大差がある。先進国と呼ばれるOECD加盟国に限って言えば、最初に先導的な役割を果たしたのは北欧のスウェーデンとフィンランドであった。今世紀に入ってからは中欧のドイツとオーストリアが主役である。これに対して日本は最も出遅れた国の一つに数えられているが、なぜこのような大差が生じたのであろうか。
 先を走る上記の4カ国に共通して言えることは、木材の生産と加工を担う林業・林産業のなかに、その残廃材を利用するエネルギー生産のプロセスが巧みに組み込まれていることである。
 よく知られているように、木材から得られる産物はきわめて多様である。見栄えのする建築部材や家具材を筆頭に、見えないところに使えわれる各種の構造用材があり、紙パルプやボード類の製造に使われる低質材、そして最後に燃料用の木質バイオマスがある。木材の使い方として理想的なのは、良いものから順々に取っていって、最後まで余すことなく使い尽すことだ。こうした使い方を木材の「カスケード利用」と呼んでおこう。
 欧州の先進的な木材産業は、このカスケード利用を通して木質エネルギー事業の採算性を確保し、併せて木材産業自身の経営基盤を強化することに成功した。筆者が何年か前にオーストリアで調査した大型製材工場(写真1、2)を例にして、その仕組みを説明しよう。

製材工場でのカスケード利用

 オーストリアの林業は、100年前後の長い年月をかけて幹の太い通直な木を育てている。山でこの木が伐り倒されると、いくつかの部分に切り分けられて、それぞれの用途に振り向けられることになるが、その様相を模式的に描くと図1のようになる。
 幹の太い部分は、おおむね製材用の丸太となって製材工場に行き、それより細い幹からはパルプ用・燃料用の小丸太を取ることもできる。近年では丸太を取った後に残る枝や梢端の部分まで持ち出すケースが増えてきた。
 まず図の左半分を見ていただきたい。製材工場に太い丸太が入ってくると、直ちに樹皮がはぎ取られる。こうして発生する樹皮の量は膨大なもので、筆者の訪れた工場(年間約100万m3の丸太受入れ)では樹皮だけを燃料にして電気出力5MWの熱電併給プラントを稼働させていた。電気は外部に販売し、熱のほうは製材製品とペレット用おが屑の乾燥に振り向けている。余った熱は地元の地域熱供給会社に売っていると言う。
 剝皮された丸太は製材機にかけられて板類や角類に加工される。この加工で大量に出てくるのが背板やおが屑のような「木屑」類だ。最近では木屑ではなく「副産物」と呼ぶことが多い。というのも背板はパルプ用チップの、またおが屑は木質ペレット製造の貴重な原料になっているからである。
 つい十数年前まで樹皮は埋立てで処分するしかなかったし、大量に出るおが屑の処分にも苦労したこともあった。それが今ではきわめて有用なエネルギー源となり、製材工場の重要な収入源となっている。いずれにしても、工場に入ってきた丸太はとことん使い尽されて、捨てるところは一つもなくなった。

低質材の分別利用

 次に図1の右側、つまり製材工場に行かなかった低質材の部分に目を向けよう。これまで木材の伐り出しと言えば、まず樹木を伐倒してその場で造材(枝払いと玉切り)を行い、2mとか4mの長さに切断した丸太だけを引き出していた。幹の細い部分や枝条は林内のあちこちに散乱したままである。これを集めて山から搬出するのは容易なことではない。
 そこで登場したのが「全木集材」と呼ばれるやり方である。樹木を伐倒したら、枝葉のついたまま林道端まで引き出してきて、「プロセッサ」という機械で枝払いと玉切りを効率的に行う。とくに効果的なのは、先端部分の枝払いだ。幹が細くなるにつれて枝の量が飛躍的に増えてくる。これを人力で払おうとすると、非常な労力を要するだろう。機械であれば、たくさんの枝をしごくようにして一挙に落としてしまう。
 全木集材とプロセッサとをうまく組合わせて運用すると、製材用丸太、製材に向かない小径丸太、それに枝条部分がきちんと仕分けられて、一箇所に集積される。製材用丸太と紙パルプ用の丸太は、直ちに運び出されるケースが多いが、燃料用の小丸太や枝条については、いくつかの搬出方法がある。たとえば、①移動式の破砕機を使って現場でチップ化し搬出する、②中間土場まで運んでそこで集中的に加工、仕分けを行う、③熱供給や発電プラントにそのまま搬入してチップ化する、などがそれだ。いずれの場合も、小丸太や枝条を乾燥させるために、しばらくそのまま林道端に積んでおくことがある。
 ここで改めて注意しておきたいのは、製材用丸太を取った後に残される低質材には多様なものが含まれることだ。小径丸太の場合には、パルプ原木にもなるし、薪や木質ペレットの製造にも使える。チップにしてボイラで燃やすにしても、大型のボイラであれば質の低い雑多な燃料でも受け入れてくれるだろうが、小型のボイラではサイズの比較的揃った水分率の低い(35%以下)チップでないと都合が悪い。木質原料の仕向け先によって、販売価格に相当な差が出てくるのは当然である。
 図1では、森林のある「川上」と木材加工場のある「川下」の結節点あたりに「中間土場」を設けて、製材に向かない低質材を一括して集積する方式を想定している。この種の「集積基地」が果たすべき第一の役割は、多種多様な木質バイオマスを一定の価格で買い集めること、第二には集積された木質材料のチップ化、乾燥、貯蔵などを通して燃料としての価値を高めること、そして第三に加工・類別された木質燃料のそれぞれについてできるだけ高く買ってくれる需要者に見つけることである。これによって低質バイオマスの価格付けが可能になり、マーケットとして機能を果たすことになろう。

日本の林業・林産業はなぜ取り残されたか

 今日の木材産業はおおむね建築用木材・木製品の生産を主眼としているが、この枠組みの中で木質バイオマスのエネルギー利用を推進するには、以上に見たように、木材加工場での丸太のカスケード利用と、工場には入らない低質バイオマスの分別利用が不可欠である。欧州の一部の先進国では、この両者が林業・林産業の「近代化」と歩調を合わせて進展した。
 残念ながら日本ではカスケード利用と分別利用の仕組みがまだ十分にできていない。それはこの国の林業・林産業の特異な体質と密接にかかわっている。過去の半世紀を振り返って見ると、1970年代以降外国産の木材がどんどん入ってきて、国内での「並材」生産は経済的に成り立たなくなった。その結果出てきたのが、スギ、ヒノキの「良質材」生産である。高度経済成長のさなか、年輪の詰んだ無節の小角材などに驚くほど高い値段がついていた。多少余計に手間をかけても高く売れるもので勝負しよう、大量需要の規格品は外材にまかせればよい、という戦略である。森林から木を伐り出すときも、市場に出るのは単価の張る一部の材だけで、金にならないものは山に捨ててくる、そのような習慣がすっかり身についてしまった。
 ところがその後、伝統的な和風建築が少なくなり、生活様式も洋風に変わっていく。外材が何の抵抗もなく受け入れられるようになった。スギ、ヒノキの「良質材」は特権的な位置を失い、価格的にも「並の商品」になるのである。従来通りのやり方で伐り出していたのでは経済的に引き合わない。70年代の後半あたりから国内の木材生産は縮小の一途を辿っている。
 日本とまったく対照的なのがドイツやオーストリアでの動向である。この十数年来木材の生産量は着実に増加し、相当な量の製材品が海外に輸出されている。もちろん欧州の伝統的な林業地にも国際化の大波が押し寄せ、材価の低落に苦しめられることになるが、林業・林産業の生産性を引き上げることで何とか乗り切ってきた。製材工場の規模拡大や木質材料の徹底したカスケード利用はその産物である。現在の木材の価格が日本よりも高いというわけでは決してない。80〜100年生の太い針葉樹丸太でも、山元ではm3当り1万円そこそこで、日本のスギといい勝負である。

林業の低迷がもたらした暗い影

 わが国の場合、「良質材」の価格は大幅に低下したが、近年では低質材のエネルギー価値が急速に高まっている。高く売れる一部の材に寄りかかって、残りはすべて山に捨ててくるという在来の方式はもはや通用しない。低質材も一緒に運び出せるように、「全木集材」のシステムが各地で導入され始めている。ただしこのシステムは、スキッダ、タワーヤーダ、プロセッサ、グラップルローダなどの重機で構成されていて、林道が整備されていないと入れられない。
 ドイツやオーストリアでは国内の森林に林道のネットワークが隈なく張り巡らされているのに、日本ではそれが決定的に欠けている。林道の重要性は半世紀以上も前から繰返し強調され、野心的な路網計画も何度が立案されたのだが、木材生産が年々縮小していくなかで、計画通りの整備ができなくなり、どれもこれも絵にかいた餅に終わってしまった。おそらく林道建設に投ぜられた公費の累計は大変な額に達するであろう。かつて建造されたものの、維持管理が続けられなくなって、放棄された林道がかなりあるように思う。いずれせよ、全木集材システムの導入に先立って、路網の整備を要する森林が相当あるのは疑いない。
 国内林業の長期的な低迷がもたらしした、もう一つの深刻な問題は管理放棄の森林が広がってしまったことである。国内の森林に蓄えられた林木のストック量は約60億m3(国内で毎年消費される木材の60年分)に達すると推定されているものの、蓄積の内容は決して良くない。植林された人工林でも、手入れされないまま放置されてきた林分が多く、概して過密になっている。早急に除間伐する必要があるのだが、太い木が少なく、細い木ばかりで、間伐してもあまり収入にならない。低質材のエネルギー価値の上昇を追い風にして、路網を整備しながら過密林分の間伐をどこまで進めることができるのか。これがこれからの最大の課題である。

生かされない製材工場の強み

 「良質材」頼みの傾向は製材工場においても顕著であった。丸太の一本一本の特徴を目で確かめながら丁寧に製材するやり方が長く続いていたのである。大量生産の規格品のほとんどが輸入で賄われていたため、製材規模の拡大を目指す国内の動きはきわめて鈍かった。規模の小さい製材所でも樹皮やおが屑などの木屑は必ず出ているのだが、取扱う材が少なすぎてボイラが入れられず、エネルギー利用ができないのである。樹皮は廃棄物としてお金を払って処分してもらい、木材の乾燥には高価な重油を使うという、信じられないようなちぐはぐがしばしば散見された。
 エネルギー利用の観点からすると、大型の製材工場だから発電がビジネスとして成り立つのである。樹皮のような低質の燃料が安いコストで大量に集められることと、発電の廃熱が木材乾燥用の熱源として有効に利用できることが大きい。また木質ペレットの生産にしても、製材工場に併設されていておが屑が使えれば、破砕する費用が省けるし、木屑ボイラの熱が使えれば乾燥のエネルギーも自前で賄える。破砕と乾燥のコストはペレット製造の主要な費用項目であるだけに、軽視できないことである。
 中欧や日本の林業は構造用木材の生産を主眼としている。つまり最初にあるのは構造用木材の生産と加工であり、それに付随する形でエネルギー用のバイオマスが発生する。山から太い丸太が伐り出されて、どんどん製材工場に入荷し、そこで徹底したカスケード利用が行われるようになれば、バイオマスによる電気も熱もおのずと増えていくだろう。これが最も確実な木質エネルギーの振興策である。
 ところが実際には、木質バイオマスによる発電事業にしても、ペレット製造のビジネスにしても、林業・林産業と切り離して構想されることが多かった。採算をとるのが難しくなるのは当然のことである。ようやく最近になってわが国でも製材工場の集約化が進み、国産材を用いた規格品の量産が始まっている。この機会をとらえて低質材の徹底したカスケード利用を実現していきたいものである。

バイオマス発電とカスケード利用

 昨年の7月にわが国でも再生可能電力の固定価格買取制度(FIT)が発足し、比較的大型の木質バイオマス発電所をつくろうという動きがあちこちで始まっている。必要な燃料を長期にわたって安定的に確保できるかどうか。それを誰もが懸念している。
 ドイツでの近年の動向を見ていると、大型の発電プラントが稼働しているのは、おおむねベルリンを中心にした大都市域と、ルール地方のような工業地帯に限られている。こうした場所であれば、建築廃材などの廃棄物系バイオマスが比較的大量に集められるからだ。ところが森林の多い南ドイツでは、小規模プラントが圧倒的に多い。森林地帯になると、製材工場の規模が比較的小さいうえに、林道端や集積土場で集められる低質丸太や枝条類も少量分散的であるから、発電用バイオマスを大量に集めようとすると、集荷経費が嵩んでしまう。
 もともと森林バイオマスから作ったチップの価格は、廃棄物系のチップに比べてかなり高く、2倍くらいになっている。電気と一緒に熱も取らないと、経済的に引き合わない。発電専用の大型プラントが設置できない、もう一つの理由がここにある。
 さらにドイツの連邦政府は、FITの制度を通して政策的に小規模バイオマスCHPを推進しようとしている。近年、とくにその傾向が強まってきた。しかるに、わが国のバイオマスFITでは、山から下りつくる間伐材など未利用のバイオマスを優遇する仕組みになっている。最初に示した図1で言えば、図の右側、つまり製材工場に入らない小径丸太と枝条類がその対象となるが、この全部を分別しないまま発電所に持ち込むようなイメージで計画されていることが少なくない。
 多種多様な低質バイオマスをこのように一括して扱おうとすると、上質のバイオマスまで含むことになり、調達価格が上昇する恐れがある。安価な燃料を確保するには適切な分別と品質に応じた価格付けが欠かせないように思う。またカスケード利用を無視したやり方では、発電用の燃料が不足した場合に直接森林伐採に向かう可能性も出てくる。燃料にするなら太い丸太、細い丸太、何でも使える。森林を丸ごと皆伐して材を出すことにすれば、コストもそれほどかからない。しかし伐採した後の森林再生の費用が捻出できなければ、森林を丸裸にするだけで終わってしまう。膨大な量のバイオマスを使う発電事業に対して世界中の自然保護団体などから強い懸念が寄せされているのは、こうした可能性があるからである。木質材料のカスケード利用は森林の乱伐を防ぐ防波堤でもあるのだ。
 バイオマスFITの設計においても、重々留意すべきことである。詳しくは稿を改めて述べることにしたい。

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