ようやくお目見えした燃料用木質チップの品質規格

基準がないとミスマッチが起こる

熱や電気などのエネルギー生産に向けられる木質バイオマスは、きわめて多様である。森林から伐り出された丸太もあれば、枝葉もあるし、さらには、木材加工の残廃材や建築廃材のようなリサイクル・バイオマスもある。しかし、特定のエネルギー変換装置に即して見ると、使用できるバイオマスの種類や形質は、かなり限られてくる。変換装置の性能が良くなるにつれて、その傾向がさらに強まってきた。燃料を供給する側でも、用途に合わせて多種多様なバイオマスを選別し、一定の加工と調整が求められるようになっている。

とくに重要なのは、燃料と燃焼機器との相性である。相性が悪いとバイオマスの完全燃焼が妨げられて、エネルギーへの変換効率は低下し、環境汚染物質の排出が増えてしまう。あるいは、燃焼機器の損傷でその耐用年数を縮めることもあるだろう。こうしたミスマッチを避けるためにつくられているのが、木質燃料の基準(standards)である。燃料の供給者と最終消費者の双方が、この基準にしたがって行動すれば、大きな間違いは起こらない。

わが国では、これまで燃料用木質チップの品質規格がつくられていなかったために、思わぬ混乱がしばしば生じていた。以前、ボイラで燃やされるチップと言えば、おおむね建設廃材などのリサイクルチップであった。含水率の比較的低い破砕チップである。ところが、生木から生産したチップが出てくると、それをうまく燃やすことができず、トラブルが多発した。また、欧州から高性能の小型ボイラを導入したものの、スクリューによる燃料の(炉への)搬送に失敗する例もあちこちで見られた。本来は切削チップを使うべきなのに、破砕チップで間に合わそうとしたからである。

木質バイオマスエネルギー利用推進協議会は、全国木材資源リサイクル協会連合会、および全国木材チップ工業連合会の協力を得て、燃料用木質チップの品質規格の策定のための専門委員会を設置した。専門委員会の座長として、取りまとめに当たられたのは沢辺 攻氏(岩手大学名誉教授)にお願いし、燃料用木質チップの品質規格を策定し、運用を開始することになった。沢辺氏には、日本木質ペレット協会が「木質ペレット品質規格」(2011年)を制定した折にも、取りまとめてもらっている。

欧州基準(EN)から世界基準へ

今回のテーマは、専門委員会が提案した品質規格を紹介することだが、本論に入る前に海外の動向について少し見ておきたい。比較的早くから、木質バイオマスのエネルギー利用を進めていた欧州のスウェーデンやフィンランド、オーストリアなどでは、80年代から木質燃料の基準づくりに着手していた。それが90年代の後半になると、欧州委員会において統一的な欧州基準(European Standards, EN)を策定するという議決がなされている。その狙いは、域内における木質燃料の交易を盛んにして、再生可能なエネルギーの比率を高めることであった。すでに、その策定作業は山場を越え、燃料用の木質チップの品質規格は、すでに公表されている。さらに近年、木質燃料市場のグローバル化を背景に、国際標準化機構(ISO)にも、固形バイオマスの技術委員会(TC238)が設置された。グローバルな基準が完成すれば、日本もいずれそれに従うことになろう。

ISOでの作業も、ENに準拠して進められており、固形バイオマス燃料の分野では、EN規格がいわば「お手本」の役割を果たしている。われわれもこれに従うしかない。EN規格とはどのようなものか。燃料用木質チップを例にして主要なパラメターを列記すると、表1のようになる。

パラメーターには、必ず記載すべき「規範項目」と、有用な情報ではあるけれど必須ではない「情報項目」の二つがある。前者に入るのは、出所、寸法、水分、灰分の4つであって、これは木質チップのみならずペレットや薪などすべての木質燃料に共通する。

ただ、注意してほしいのは、固形バイオマス燃料のEN規格は適用範囲を非産業的な用途に限定していることである。つまり、対象となるのは世帯のほか、比較的規模の小さい公共用・事業用のバイオマス利用であり、大規模なバイオマス発電や石炭火力での混焼は含まれていない。汚染度の高いバイオマスが排除されているのはそのためだ。

大切な木質燃料の出所(由来)

規範項目の中で最初に問われているのは、その木質燃料がどこから来たかという「出所」である。とくに燃料用の木質チップの場合、原料の出所が非常に多様で、実にさまざまなものが含まれている。図1はフィンランドのE. Alakangasが作成した解説用のフロー図を多少簡略化したものだ。森林などから伐り出された木材は、建築用材などに加工されたあと、使用されて廃棄されることになるが、このいずれの局面からも木質チップが生み出されている。

最初の局面で出てくるのは、混じりけのない、生(き)のままの木質バイオマス(virgin wood)で、燃料としても安心して使える。とくに樹皮を含まない木部のチップは、灰分が1%以下で理想的な燃料と言っていい。ところが、皮付きの小径間伐材からつくられたチップや、梢端、枝条を含む林地残材のチップでは、樹皮が混じり込んで灰の量が多くなるし、土石のような異物が入り込むこともある。小型の燃焼機器では、そうした灰や異物が悪さをするのだ。また、長年大気汚染物質に曝された街路樹や、肥培・薬剤散布の加えられたエネルギー作物でチップをつくると、有害な成分の混入があるかもしれない。

山から伐りだされた木材は、次の段階で加工・消費されることになるが、この場合も機械的な加工にとどまる限り、あまり不純物は加わらない。問題は、接着、塗装、防腐のような化学的処理がなされた場合で、窒素、硫黄、塩素、さらには重金属のような環境汚染の原因物質が混入する可能性がある。化学的処理の有無が重要な類別基準となるのはそのためだ。ENのチップ規格では、その出所にしたがってA1、A2、B1、B2の4つのクラスに分けている。

  • A1:生のままか、化学的処理のない木材で、灰分が少なく、比較的乾いたもの
  • A2:出所はA1と同じだが、灰分と水分がA1よりもいくらか多い
  • B1:生のままの木材のほか、街路樹や公園の管理から出る修景残材とエネルギー作物が加わり、化学処理のない産業起源の残廃材が入る
  • B2:化学的に処理された産業起源の残廃材や使用済のリサイクル材が加わるが、非産業用に限られているため重金属やハロゲン化合物の多いものは除かれる

日本版木質チップ規格の枠組み

専門委員会でまとめられた燃料用木質チップの品質規格は、表2のような枠組みになっていて、基本的な部分はEN規格と変わらない。原料区分のクラス1~4は、ENのA1~B2に対応する。また、「規範項目」として挙げられているのも原料、寸法、水分および灰分の4つで、分級の仕方に多少の違いはあるものの、大きな違いは見られない。

なお、原料の出所による区分は、燃焼機器の出力規模や装備とも密接にかかわっている。沢辺氏が、別に示された原料区分とボイラ仕様の対応表を表2の下半分に付加しておいた。出力の小さいボイラでは、水分や灰分の多いチップは燃やせない。また、除塵装置がついていないから汚染されたバイオマスは受け入れられない。結局、受け入れられるのはクラス1のチップだけということになる。

専門委員会でまとめられた燃料用木質チップの品質規格は、表2のような枠組みになっていて、基本的な部分はEN規格と変わらない。原料区分のクラス1~4は、ENのA1~B2に対応する。また、「規範項目」として挙げられているのも原料、寸法、水分および灰分の4つで、分級の仕方に多少の違いはあるものの、大きな違いは見られない。

欧州で燃料用のチップと言えば、だいたい製紙用と同様の切削チップだが、日本では建築廃材などをシュレッダーやハンマーミルで砕いたチップが、燃料として広く使われていた。破砕チップには、長いものが混じっていたり、互いに絡み合ったりするため、スクリューのような装置では、スムースに搬送できない。欧州から高性能のボイラを入れたものの、破砕チップの搬送でトラブルを起こした例は数多くある。その反省が規格にも反映された。

残念なことに、切削チップと破砕チップについての理解がまだ十分ではなく、混乱も生じている。詳しく述べる余裕はないが、図2と図3を比較すれば両者の違いがある程度分かっていただけると思う

燃料用チップでとくに重要な水分/含水率区分

専門委員会が提案した水分/含水率区分は、表4のとおりである。ここでいう「水分」と「含水率」は、表の注記にあるように、それぞれ湿量基準と乾量基準の含水率である。これまでは、この両方に含水率という用語が使われ、それと前後して湿量基準か乾量基準かを明示する慣わしになっていた。ところが、実際にはこの区別がなされないまま「含水率」が独り歩きし、とんでもない誤解を生むことがしばしばあった。湿量基準の35%は乾量基準では54%になり、両者の差は20%に近い。騒動が起こるのは当然だろう。

ドイツ語では、湿量基準にはWassergehalt、乾量基準にはFeuchtigkeitと別の言葉が使われているし、英語でも、最近は湿量基準をwater content、乾量基準をmoisture contentとして区別する傾向が強まっているという。わが国においても、不要な混乱を避けるべく、両者に別の用語を充てるという提案は時宜を得ていると思う。

表4の水分区分は、4段階になっている。伐採直後の生材でつくったチップの水分は、50%以上になるだろうが、風通しの良いところで数か月乾かした材をチップにすれば、30%前後まで落とすことができるだろう。その意味で、水分25~35%のM35は自然に乾燥する「天乾チップ」の下限であり、水分がここまで落ちていれば、小型を含むたいていのボイラで燃やすことができる。M35は、木質チップの価格形成などで基準の役割を担う可能性がある。水分45~55%のM55は、いわゆる生チップボイラと言われるような装置でないと、うまく燃えない。また水分55%以上のものは燃料には不適と判断されている。

木質燃料の規格で水分の多寡が重視されるのは、それが燃料の発熱量にもろに効いてくるからである。図4を見ていただきたい。水をまったく含まない状態であれば、どのような木材でも、おおむね20MJ/㎏程度の(高位)発熱量を持っている。それが水分25%で15MJに落ち、水分50%になると、絶乾の半分の10MJにまで下がってしまう。沢辺氏は発熱量についてもQ14、Q12、Q10、Q8の4つの区分を設けているが、図にある通り、4つの水分区分と一対一で対応している。

燃料用木質チップの価格付け

以上のような品質規格に基づいて、燃料用チップの取引がなされるとすれば、注文書には「クラス1のP16、M35のチップ○○トン」のように記載されるだろう。そして、この種の取引が広がっていくと、品質規格に対応した価格付けがなされていく。

現在、木質チップの取引は、重量(トン)、容積(立方メートル)、発熱量(kWh)のいずれかで行われているが、水分による補正が欠かせない。とくに、それが必要なのは重量で取引する場合である。図4から明らかなように、水分の多寡によってkg当たりの発熱量が大幅に違ってくるわけだから、取引価格に差が出るのは当然のことだ。

参考までに、オーストリア・ケルンテン州での補正例を紹介しておこう。表5がその換算表だが、乾燥状態の基準価格は次のような前提でつくられている。

  1. 水分30%のチップ価格を100ユーロ/トンとする(仮置き)
  2. 水分が1%下がるごとに2ユーロずつ引き上げる
  3. 水分が1%上がるごとに3ユーロずつ引き下げる
  4. ただし水分40以上は一括して1立方当たり10ユーロ

受け入れた時点での水分がわかれば、それから乾物率(1-小数点表示の水分)を求め、基準価格×乾物率で補正価格が算出される。補正の結果を見ると、チップの水分が30%であればトン当たり70ユーロになるが、40%になると42ユーロ、前者の60%になってしまう。

水分の多寡で、これほどの価格差があるとすれば、木質チップの生産者もなるべく水分を低めようとするだろう。北欧や中欧の諸国では、山から伐り出した燃料用の小丸太や林地残材をすぐにはチップにはしないで、林道端か山土場、あるいはプラントの敷地内に数カ月積んでおいて乾かし、それから破砕するのが普通である。つまり、サプライチェーンのどこかに乾燥の工程が確保されている。ところが、日本ではこの習慣がまったくできていない。伐り出した原料を、すぐにプラントに運んで燃やそうとする。だから、生チップの燃えるボイラをほしがるのだ。

たしかに、生チップでもボイラで燃やすことはできるが、水分の蒸発にたくさんのエネルギーを取られることになるから、得にはならない。表5のような価格体系になっていれば、もっと合理的なやり方が選択されると思う。

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